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フェアトレード認証つき商品が存在感 児童労働禁止、環境に優しい…コーヒー産地は今

World Now 更新日: 公開日:
山々で育つコーヒーの木とアソバグリの組合員ソライダ・モンソンさん=2024年9月18日、グアテマラ西部バリリャス、荒ちひろ撮影
山々で育つコーヒーの木とアソバグリの組合員ソライダ・モンソンさん=2024年9月18日、グアテマラ西部バリリャス、荒ちひろ撮影

日々の生活の中で、人権や環境への配慮、野生動物の保護など、さまざまな目標への取り組みを掲げる認証マークが付いている商品を目にすることが増えています。黄緑と青地の円に人のようなシルエットが描かれたマークもその一つ、国際フェアトレード認証の印です。こうした商品を選ぶ消費者の行動が、遠く離れた生産地にどんな変化をもたらしているのでしょうか。

東京・下北沢の「オガワコーヒーラボラトリー」は、世界各地のコーヒー豆20種類以上を扱う。中には「国際フェアトレード認証:途上国の生活者支援に参加できます」とあるメニューも。開発途上国の産品を適正な価格で取引することで生産者の経済的自立をめざす取り組みだ。このカフェを展開する「小川珈琲」(京都市)は、認証を受けたコーヒーの売り上げが日本の企業でトップを誇る。

小川珈琲の店舗では、アソバグリのメンバーが生産したコーヒー豆を使ったフェアトレードコーヒーを味わうことができる=2024年10月31日、東京都世田谷区、荒ちひろ撮影
小川珈琲の店舗では、アソバグリのメンバーが生産したコーヒー豆を使ったフェアトレードコーヒーを味わうことができる=2024年10月31日、東京都世田谷区、荒ちひろ撮影

認証付きのブレンドコーヒーを注文した男性客(33)は、「作り手の農家や労働者に少しでも多くの利益がいくフェアトレード商品を選ぶようにしている。小さな違いだけど、その方が自分も気持ちがいいからね」。

そう言って男性客が手にしたコーヒーが、生産者のより良い暮らしに、どうつながっているのか。この豆をつくった人々を訪ねて9月下旬、地球の反対側、中米グアテマラへ飛んだ。

首都グアテマラ市から車で12時間あまり、くねくねと曲がる山道が徐々に細くなってきた。マヤ系の先住民族が多く暮らす西部の山岳地域ウエウエテナンゴ県の町バリリャス。標高2000メートル前後の山々の斜面にコーヒーの木が青々と葉を茂らせ、細い枝に沿ってびっしりと緑の実がなっていた。

グアテマラ・バリリャスの位置=Googleマップより

「11~3月の収穫期にはみんな早朝から畑に出て、熟した実を一つずつ手で摘むんだ」。バリリャスのコーヒー生産者組合「アソバグリ」のゼネラルマネジャー、バルタザル・フランシスコさん(47)が、ところどころに交じる赤く熟した実を摘んでみせながら言った。

日本の3割ほどの国土に約1700万人が暮らすグアテマラで、コーヒーはバナナや砂糖と並ぶ主要な輸出農産物だ。国土の7割が山岳地帯で寒暖差や豊富な雨量があり、ウエウエテナンゴを含む8地域は特に高品質な豆の産地として知られる。

バリリャスからさらに車で2時間、山あいの砂利道をガタガタ揺られ、アソバグリの組合員の子どもが通う小学校を訪ねた。アジア人は珍しいようで、昼休みに校庭で遊んでいた子どもたちが次々と駆け寄ってきた。

赤く熟し始めたコーヒー豆を見せるアソバグリのバルタザル・フランシスコさん=2024年9月18日、グアテマラ西部バリリャス、荒ちひろ撮影
赤く熟し始めたコーヒー豆を見せるアソバグリのバルタザル・フランシスコさん=2024年9月18日、グアテマラ西部バリリャス、荒ちひろ撮影

アソバグリに参加するコーヒー農家のホセファ・ペドロさん(31)は、4~10歳の4人の子どもをもつ母親だ。長女と次女がこの学校に通う。「フェアトレードのおかげで、子どもたちの選択肢は格段に広がった」と話す。「私が子どものころは集落に小学校しかなく、勉強を続けたかったけど、コーヒー農園で働くしかなかった。子どもには同じ苦労をさせたくない」。集まったほかの母親たちもうなずいた。

コーヒー生産者組合アソバグリのメンバー、ホセファ・ペドロさん=2024年9月18日、グアテマラ西部コカラの小学校、荒ちひろ撮影
コーヒー生産者組合アソバグリのメンバー、ホセファ・ペドロさん=2024年9月18日、グアテマラ西部コカラの小学校、荒ちひろ撮影

「公正・公平な貿易」を意味するフェアトレードは、1960年代から欧米で広がった取り組みだ。世界共通の基準を定める「国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)」の認証を受けた商品では、生産者に最低価格が保証されるほか、「プレミアム」と呼ばれる奨励金が支払われ、農機具の購入、学校や診療所の整備などに使うことができる。

グアテマラのコーヒー栽培は、50万人以上が従事する最大規模の産業である一方、大半を家族経営などの小規模な農家が占める。

「昔は収穫したコーヒー豆が地元の市場でとても安く買いたたかれていた。一人ひとりでは太刀打ちできないから、力を合わせようと組合を立ち上げたんだ」。そう話すのは、アソバグリの創設メンバーの一人、ペドロ・ビヤトロさん(77)。1989年に20軒の農家で組合を立ち上げた当時、100ポンド(約45キロ)で十数ドルだったという。

アソバグリ創設メンバーの一人、ペドロ・ビヤトロさん(右)と息子のセサさん=2024年9月17日、グアテマラ西部バリリャス、荒ちひろ撮影
アソバグリ創設メンバーの一人、ペドロ・ビヤトロさん(右)と息子のセサさん=2024年9月17日、グアテマラ西部バリリャス、荒ちひろ撮影

1996年には親米・反米勢力などの間で36年続いた内戦が終結。安定して生産量を確保できるようになり、1999年にアソバグリとして初めて輸出を実現させた。だが同じころ、世界的な生産過剰で価格が暴落する「コーヒー危機」が発生。生活を守るため、フェアトレード認証の取得に乗り出した。

現在、FIが定めるコーヒー豆(アラビカ種、ウォッシュド)の最低価格は100ポンドで180ドル。市場価格と比べて高い方で取引され、それに20ドルのプレミアムが、有機認証の場合はさらに40ドルが上乗せされる。

フェアトレード認証を受けるには、児童労働や強制労働の禁止、環境への配慮などの基準を満たすことが求められる。アソバグリでも講習会を開いて、学校のある時間に子どもを畑に連れてこないことや守るべき労働条件などを伝えたり、環境にやさしい栽培技術を一軒一軒訪ねて指導したりしてきた。

こうした取り組みは、地域に経済的な豊かさだけでなく、人権や環境に対する人々の意識の変化ももたらしている。朝、遅れて登校してくる児童がいれば、畑仕事などにかり出されていないか、教師が確認するのが当たり前になった。ホセファさんら、コカラ小学校で出会った母親たちは、「子どもに家の手伝いを頼んでも、『学校の宿題があるから』と言い訳をするようになった」と笑っていた。

アソバグリのメンバー、パスクアル・マテオさん(52)は、コーヒーの小作農だった両親とともに子どものころから働いてきた。「父親はコーヒーの植え方や収穫のしかたは教えてくれたが、学校に行くという選択肢がなかった」と振り返る。だが、今はフェアトレードなどの取り組みで収入が安定し、自分のコーヒー畑を持てるようになった。組合による保険や教育といった社会保障の仕組みも整い、子どもたちに高等教育を受けさせることもできた。

アソバグリのメンバー、パスクアル・マテオさん(左)と息子のミゲルさん=2024年9月17日、グアテマラ西部バリリャス、荒ちひろ撮影
アソバグリのメンバー、パスクアル・マテオさん(左)と息子のミゲルさん=2024年9月17日、グアテマラ西部バリリャス、荒ちひろ撮影

アソバグリ創設メンバーの一人、イザベラ・ドミンゴさん(60)は、「私が子どものころ、女の子は学校に行かせてもらえなかった。でも今は人々の意識が変わった」と、現地の言語の一つ、アカテコ語で語った。傍らでスペイン語に訳してくれたのは、息子のロセンドさん(34)。奨学金を得て大学で学び、いまはアソバグリの若手リーダーの一人として、主にオンライン販売や情報発信を担当する。2歳の娘の父親でもある。「子や孫の世代に大きな変化をもたらせたことを幸せに思う」とイザベラさんはほほえんだ。

コーヒー生産者組合アソバグリのメンバーら=2024年9月17日、グアテマラ西部バリリャス、荒ちひろ撮影
コーヒー生産者組合アソバグリのメンバーら=2024年9月17日、グアテマラ西部バリリャス、荒ちひろ撮影

アソバグリは、現在約1250軒が加盟する県内最大の組合に成長した。年間の生産量約1500トンのうち60%を米国に、14%を日本に、ほかカナダや欧州に輸出している。ジェンダー平等の一環として、2010年には女性生産者を支援する「ウーマンズハンド」ブランドを立ち上げ、商品を販売。日本の「カルディコーヒーファーム」でも買うことができ、イザベラさんやホセファさんらが手がけたコーヒー豆が日本の消費者に届けられている。

一方で、以前より生活水準が向上したとはいえ、より良い仕事を求めて地元を出ていく若者も多い。アソバグリでは、町に直営のカフェをつくったり、オンライン販売を広げたりして、農園を引き継いでいける環境づくりにも力を入れる。

日本での販売も増える

2012年に48億ユーロ(約7900億円)だった世界のフェアトレード認証商品の市場規模は、2018年には2倍以上の98億ユーロにのぼった。FIの日本組織「フェアトレード・ラベル・ジャパン」によると、欧米と比べるとまだまだ少ないものの、国内市場も右肩上がりで、2023年に200億円を超えた。うち、8割をコーヒーが占める。

小売り大手のイオン(千葉市)は、2004年からプライベートブランド「トップバリュ」でフェアトレード商品を扱う。消費者の「日常生活から国際貢献につながる商品がほしい」という声がきっかけで、コーヒーから始まり、チョコレートや紅茶など、今年11月時点で20商品を超える。

20年前に始めたころは、「フェアトレード」という言葉自体がほとんど知られておらず、「フェアトレード商品の違いは、サプライチェーン上での課題解決に取り組んでいるか、取り組んでいないかという点。品質では差が分かりづらく、伝え方が非常に難しかった」とイオントップバリュの宮澤正紀・環境推進室長(46)は話す。

国際フェアトレード認証ラベル
国際フェアトレード認証ラベル=フェアトレード・ラベル・ジャパン提供

一方で、近年はフェアトレードなどの取り組みについて教育現場からの問い合わせや講演依頼なども増え、特にこの1、2年で関心の広がりを感じているという。

2004年からフェアトレードコーヒーを販売する小川珈琲でも、取扱量はこの10年で倍以上に増えたという。取締役の小川雄次・経営企画室長(40)は、「おいしいコーヒーを提供し続けるため、生産者と消費者をつなぐのが、私たちの役割。フェアトレードもその一つ」と話す。

ホテルやオフィス向け商品での需要も高まっているほか、学校で持続可能な開発目標(SDGs)を学んできた若い世代でも関心が広がっている。採用で、フェアトレード商品を扱う企業であることを志望理由に挙げる学生が増えているという。

入社2年目の鈴木琴楓さん(24)は学生時代に読んだ本で、バングラデシュの縫製工場の崩落事故を知り、身の回りの物がどこで、どうつくられているか意識するようになったという。「自分の消費が知らないうちに誰かを苦しめていたら、悲しいし、怖いですよね。つくり手がちゃんと幸せじゃないと」。就職活動でもそんな意識を重視した。

「できる範囲で、消費を少しずつ変えていけたら。その仕組みづくりも担っていきたい」

小川珈琲の鈴木琴楓さん=2024年10月25日、東京都世田谷区、荒ちひろ撮影
小川珈琲の鈴木琴楓さん=2024年10月25日、東京都世田谷区、荒ちひろ撮影