2004年にアフリカ大陸最高峰のキリマンジャロに登頂した際、氷河が解けているのを目の当たりにし、環境問題を解決する活動を始めました。2010年からフェアトレードの講座を開き、その受講生たちと一緒にエシカル協会を設立しました。エシカルの頭文字をとり、「エいきょうをシっかりとカんがえル」というスローガンを打ち出し、活動してきました。
設立以来、「エシカル・コンシェルジュ講座」を開講しています。当初は受講生の約9割が女性でしたが、ここ数年で男性も増えてきました。会社員、経営者、自治体職員など様々で、学生も中学生から大学院生まで幅広く、延べ約1万5000人が受講しました。
受講した後はそれぞれの地域で活動しています。次のアクションに結びつけて下さる方が非常に多いんですよね。そうした変化の担い手になる皆さんと一緒に「エシカルな暮らし方が幸せのものさしとなっている持続可能な世界」を実現したいと思っています。
計10回の講座のうち、毎年必ず開講するのは4講座です。基礎的な知識や最新事例を学ぶ「エシカル」の講座は私が講師を務めています。そのほか、環境問題を学ぶ「気候変動」の講座、動物福祉を学ぶ「アニマルライツ」、学んだことをどう周囲に伝えていくかを学ぶ「ソーシャルアクション」です。
それ以外の6講座は、「ジェンダー」など、話題となっているテーマを採り入れています。最新の状況を知りたいとリピートしてくださる方も多いです。
教科書にも「エシカル消費」
活動を始めたころは「エシカルって何?」という時代でしたが、変化が目に見えて感じられるようになってきました。
動物福祉をめぐる状況は、だいぶ変わりました。ESG(環境・社会・企業統治)の投資家も、動物福祉に取り組んでいない企業には投資しないという流れが出てきています。日本のある大企業が、豚や牛、鶏のストレス軽減の取り組みを宣言していますが、動物福祉の認知度がとても低かったころには考えられなかったことです。
義務教育でも、社会・公民や国語、英語などの教科書にも掲載されるようになり、エシカル消費を親が子どもから学ぶ状況が生まれてきています。
ある高校では、生徒たちが廃棄されるネクタイが多いことを知って、廃棄予定のネクタイを集め、おしゃれなタグをつけて、背景がわかるようなストーリーと併せて学内で販売したところ、即完売したという事例がありました。買った生徒は、廃棄量を減らすことにつながるということだけでなく、「可愛かったから買った」と。若い人たちは価値をうまく引き出しているなと感じました。
若い人たちは、SNSを駆使して、エシカル消費がただ環境に良いだけじゃなくて、「可愛い」とか「素敵」とか、いかに格好良く見せるかを考えています。これから消費者の中心になっていくのは、今の10代や20代の若い人たちです。若い人の協力は不可欠なので、世代を超えて対話をしていく機会が必要だと思います。
エシカル消費を推進するなかで、「私たちの暮らしの質が高まり、もっと暮らしやすい未来になるんだよ」というポジティブなメッセージをいかに届けるかがポイントかなと思っています。
CEコマース拡大がカギ
いま、サーキュラーエコノミー(循環型経済)が注目されていますが、リサイクルできるから大量生産、大量消費するとなると、循環の輪が巨大になり、循環のスピードも速くなっていく。そうすると元も子もなくなってしまうので、大量生産、大量消費ではない方向で考えていかなければならないと思っています。
サーキュラーエコノミーの中で今後最も注目していきたいのは、リペア(修理)、リファービッシュ(メーカーによる再整備)、リユース(再利用)、サブスクリプション(定額利用)、レンタルなど、「CEコマース」と言われている領域です。日本としても、サーキュラーエコノミーの市場規模は2030年までに80兆円を目指しているので、CEコマースの拡大は大事です。
消費者にとってもいい話ですよね。例えば、自分の持っている物を人に譲ったり、売ったりすることで、節約にもつながるし、最も大事なゴミのリデュース(削減)にもつながります。
購入するという従来の「消費」ではなく、物を利用し、手放すところまで含めて包括的に消費を見るように意識を変えていくことで、消費者の選択肢と判断基準を広げ、エシカル消費の後押しにもなると思います。
エシカル消費は、消費者と企業の両輪で進めるものです。企業は自社の商品やサービスを通じて、消費者をエシカルな方向に導くことができます。消費者も自分たちが求めている物は何か、あるいは求めていない物は買いたくないという意見を届けることで変化を起こせます。
「投票」する側としてもっと意思表示を
お金を払って買うという行為は「投票」です。投票する側としてもっと意思表示をしていい。
協会は来年10周年を迎えますが、私たちは全世代が学ぶ機会を持てることが最も重要だと思っています。エシカルの考え方やエシカル消費を学び、生きた実践が伴った授業を学校だけでなく、地域社会でも受けることができたり、企業でも社員が学ぶ機会が常に提供されたりしていることが理想だと思っています。
最近、各省庁の委員として、生活者目線で意見、提言を政府に行っていますが、エシカルな社会を創っていくためにも、国の施策策定に向けた議論には関わり続けていけるよう、日々の活動を通じて生活者の声をすくい上げていきたいです。
コンシェルジュのコミュニティー拡大にも力を入れています。京都にも拠点を作り、関東だけでなくて関西方面のコミュニティー作りを強化し、最終的には全国に広げたいです。活動を継続するためには、楽しく語り合える仲間がいるのが大事ですよね。私も仲間がいなかったら、とっくに活動をやめていたと思います。コンシェルジュたちが仕事として活躍できる機会も創出していきたいと考えています。
「どんな小さな一歩でも、解決の一部になる」。一歩踏み出すことが難しい方には、そうエンカレッジ(応援)してきました。私たちの団体だけが100歩動いても何も変わらない。一人ひとりの一歩が合わさることで社会は変わっていくと思います。