海洋熱波の発生倍増 地球温暖化が原因
世界気象機関(WMO)によると、大気中のCO₂濃度は410ppm(ppmは100万分の1)を超えており、産業革命前に比べると、約1.5倍に相当する。
気象庁によると、世界の陸上の平均気温は、100年あたり0.87℃のペースで上昇している。
CO₂をはじめとする温室効果ガスによって地球は暖められ、その表面積の7割を占める海の温度も高まりつつある。そのペースは陸上の気温をやや下回るものの、100年あたり0.6℃に達する。
こうした海の温暖化に伴って、海水温が数日から数年間にわたって上昇する現象を「海洋熱波」(Marine Heatwave)といい、発生する頻度が1980年代以降ほぼ倍増している。海水温の上昇に伴ってサンゴと共生する褐中藻が失われて大量死につながる「白化現象」が頻発するなど、海の生態系に異変が生じ、生物多様性が損われる事態に陥っている。
世界のCO₂の収支をまとめた報告書「グローバル・カーボン・バジェット」によると、人間活動で放出されたCO₂のうち、4分の1は海で吸収されているという。
海洋によるCO₂の吸収は従来「良いこと」だと考えられていた。海は急激な温暖化にブレーキをかけてくれていると見ることもできるからだ。しかし、そこに「落とし穴」があった。
海水温上昇と酸性化、植林や再エネ導入でブレーキを
化石燃料の燃焼などで大気中のCO₂が増加すると、海に溶け込むCO₂の量も増える。その結果、海水の化学的なバランスが崩れ、水素イオン濃度指数(pH)が低下してしまうのだ。これによって、サンゴや貝類などの生物が炭酸カルシウムの骨格や殻を作りにくくなる。
また、植物プランクトンの組成に変化を起こすという研究もある。「海洋酸性化」は、海の生態系を根底から変えてしまう恐れがあり、「もう一つのCO₂問題」と呼ばれる。
世界の海洋の表面海水はpHが約8.1の弱アルカリ性だが、その値は徐々に低下し、今世紀末には7.7程度にまでなる恐れがある。
このまま高いレベルでCO₂の排出が続くと、最悪の場合、地球温暖化と海洋酸性化のダブルパンチによって、2070年代には日本近海のサンゴは全滅する可能性があると予測する研究もある。
地球温暖化と海洋酸性化。この二つの環境問題は、いずれも大気中のCO₂の増加によって引き起こされ、根っこは同じだ。逆に言えば、植林や藻場の保護、再生可能エネルギーの導入といった温暖化対策は、そのまま海洋酸性化にブレーキをかけるための対策となり得る。