降雪パターンの変化は、水不足からスキー場の閉鎖に至るまで広い範囲に影響を及ぼす。最近のある研究で、人間が引き起こした気候変動が北半球全域で降雪パターンに影響を与えており、少なくとも31の河川流域で積雪量が明らかに減少していることが確認された。
さらに、研究者らは、ある地域の平均気温が冬を通じてカ氏17度(セ氏マイナス8度)まで温暖化すると、雪が急速に溶け始める転換点に達するらしいことを突きとめた。
「その温度を超えると、崖から転げ落ちるようなことになる」。米ニューハンプシャー州のダートマス大学地理学教授ジャスティン・マンキンは言う。2024年1月10日に科学誌「Nature(ネイチャー)」に掲載された研究論文の共同執筆者だ。
地面の雪の総量である積雪量の減少は、水源を春の雪解け水に頼っている地域に深刻な影響をおよぼす。
2024年1月初旬は全米で発生した大嵐が大量の雪を降らせたが、現在地面に積もっている雪は冬の間に消え失せる可能性がある。短期的には、気候変動によって降雪量が増加し、吹雪がより深い積雪をもたらすかもしれない。しかし、温暖化で恐らくこの雪は早く溶け、根雪にならない。
研究者らは160を超す河川の流域について、1981年から2020年の毎年3月時点でどれだけ雪が残っていたか、データを検討した。その約20%の流域で、人間が引き起こした気候変動に起因すると考えられる積雪量の明らかな減少が見られた。
米国の北東部と南西部は、欧州の大部分とともに、積雪量が最も速く減少している地域だ。
こうした変化は、世界のどこででも一様に起きているわけではない。気温が上昇しても、元来寒かった場所では冬の間に水の氷結温度であるカ氏32度(セ氏0度)を超えることは恐らくなく、積雪量はさほど減らない。
しかし、冬の平均気温がセ氏マイナス8度に達すると、その地域の積雪の減少は急激に加速する。
「この境目を1度超えるごとに雪がますます減る」とアレクサンダー・ゴットリーブは指摘する。マンキンの研究グループに所属する博士課程の院生で、今回の研究論文の主執筆者だ。
米西部の大半の地区では、積雪は従来、凍結した貯水池として機能してきた。冬の間に水をため、需要が最も高まる春と夏に水を放出するのだ。冬に雪が積もらないと、夏の干ばつが悪化する可能性がある。
北東部では、雪は給水源として重要度は落ちるが、冬のレクリエーションや観光、文化に不可欠だ。
ゴットリーブとマンキンは、積雪量と気温、降水量の現存データを組み合わせ、過去40年間の積雪パターンを再構築した。いくつかの場所では積雪量の直接測定が可能だが、より広い地域をカバーするために、研究者らは計算に基づく推定値で空白を埋める必要があった。
研究者らはまた、同時期に気候変動がなかったと仮定した場所の積雪モデルをつくった。地球温暖化がなかった場合、有意に異なる結果が得られるかどうかを調べるためだ。調査対象とした河川流域全体の約20%にあたる31流域で、気候変動の影響が明らかにあった。
「本当に明確な影響が見られる場所は、流域の一握りである」とゴットリーブは言う。概して、これらの河川流域は研究者らが特定した転換点のセ氏マイナス8度を超えて温暖化している。人はより穏やかな気候の場所に住む傾向があるため、そうした温暖な地域は最も多くの人が暮らす場所なのだ。
「温暖化がさらに進めば、こうした人口が多い河川流域で転換点を超えるところがますます増えていく」とゴットリーブは言い添えた。
この論文は「非常によく研究されている」とスティーブン・ヤングは言う。米マサチューセッツ州のセーラム州立大学の地理学教授で、今回の研究には関与していない。
ヤングは、気候変動が降雪におよぼす影響について調べた。降雪とは、その深さに関係なく地面に雪があるかどうかを示す尺度だ。積雪量と違って、降雪は人工衛星で確実に測定できる。ヤングが2023年に発表した別の研究によると、世界の年間降雪量は2000年以降、約5%減少した。
積雪量の調査は水の供給への潜在的な影響を明らかにするのに役立つが、降雪の研究は別の問題を解明する。白い雪は太陽光を大気中に反射し、黒く露出した地面は太陽光を吸収する。したがって、積雪量が減って地面に雪がまったくなくなると、その影響で地球の温暖化がさらに進むのである。
「これは、私たちの世界が加熱される、もう一つの方法になる」とヤングは言っている。(抄訳)
(Delger Erdenesanaa)©2024 The New York Times
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