「アナ雪」モデル 先住民族サーミが説く共存「温暖化対策を理由に権利を奪わないで」
映画「アナと雪の女王」のモデルにもなった北極圏の先住民族サーミの出身で、先住民族の政策開発や気候変動問題に長年携わるルネ・フェルハイムさん(58)に聞きました。(聞き手・荒ちひろ)
サーミは、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの4カ国にまたがる地域に暮らし、伝統的にトナカイの放牧やサケ漁などの漁業を中心に生活してきました。現在のサーミ人口のうち、トナカイ放牧に携わる農家は10%ほどですが、気候変動の影響を最も大きく受けている例の一つです。
主に冬の時期、温暖化で気温が0度を上回る日が増え、雪が溶けたり凍ったりを繰り返すことで地面が固く凍結し、トナカイたちがえさとなる地表の植物を食べることができなくなります。冬なのに雨が降ることさえある。トナカイたちが自力でえさをとれなくなるので、代わりに人工的なえさを与えなくてはなりません。
ここ数年続いており、私たちは「厳しい冬」と呼んでいます。寒さが厳しいように聞こえるかもしれませんが、温暖化による「厳しい冬」なのです。
また、海水温の上昇で、捕れる魚の種類にも変化が起き、漁業にも影響が出ています。
私たちサーミは、(北極における持続的な開発や環境保護などの共通課題について扱い、北極圏の8カ国や地域の先住民族団体が加盟・参加する)北極評議会の一員として、気候変動問題に対して知見を生かし、貢献してきました。
一方で、植民地支配の歴史から、環境対策を理由に先住民族の土地や権利がさらに奪われることがないよう、訴えてもいます。「クライメート・ジャスティス」、公平な温暖化対策を求めているのです。
ノルウェーの最高裁が2021年10月に出した「フォセン判決」は、その一例です。西部フォセン地方のトナカイの放牧が行われてきた土地に、政府資本の会社が、政府の許可を得て、風力発電所を建てました。サーミが貴重な冬の放牧地として使ってきた土地に、風力タービンを建て、稼働させたのです。
最高裁は、伝統的な生活が継続できなくなり、国際条約に基づく先住民族の権利を侵害しているとして、操業許可は無効との判決を下しました。
しかし、判決から1年以上経っても、発電所は稼働したままです。今年に入り、サーミの若者らが政府庁舎の前で座り込みを行うなど、大きな抗議活動に発展。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんも参加し、警察に一時身柄を拘束されたことは世界的なニュースになりました。
抗議を受け、ノルウェーの首相が謝罪しましたが、風力発電所とトナカイ農家が共存できる方法を模索していると述べるにとどまっています。民主主義社会の司法への信用にかかわる大きな問題でもあり、今後の動きを注視しています。
気候変動や生物多様性の喪失は、地球規模の人類共通の問題で、当然、先住民族だけの問題ではありません。私たちが呼びかけているのは、我々先住民族は、解決の一助となれるということです。
歴史的に、私たちの生活は持続可能なものでした。先住民族の土地は地球上の約20%ですが、これらの土地に暮らす生物の種は全体の80%を占めます。先住民族は、その土地の環境や生態系の良き守り手であることを示してきたのです。
一方で、気候変動対策が、先住民族の土地を奪う新たな言い訳になっていないかにも、細心の注意を払っています。そこは譲れない一線です。ただ新しいものを建設したり、破壊したりするのではなく、協力して、よりよい解決策を見つけなくてはなりません。
私たちの考え方では、その土地に住む人々は、その土地の一部。敬意を持って土地を利用し、自然のバランスを維持しなくてはなりません。植民地支配のような、どちらかがより優れている、他者を支配する権利を持っている、などという古い考え方から脱却しなくてはなりません。気候変動対策に必要な鍵は、互いの敬意にあるのです。
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