先住民族とは、世代を超えて独自の文化や民族意識(エスニック・アイデンティティー)を持ち、その土地の資源を活用してきた集団としての人々を指す。自己決定権やその土地の資源に対する権利を持つとされる。
国連によると、世界には少なくとも5000の先住民族が存在し、約4億7600万人が90カ国以上に暮らしている。その多くには植民地主義によって土地や資源を奪われ、自分たちの文化や言語を禁止されるなど、権利を侵害されてきた歴史がある。
かつては「indigenous people(先住民)」という用語が使われたが、2007年9月に国連総会で採択された「先住民族の権利に関する国連宣言」では「indigenous peoples」と複数形が使われた。
これには、自決権を明記した国際人権規約の「All peoples have the right of self-determination(すべての人民は、自決の権利を有する)」と同じ「peoples」を使うよう、起草段階から、先住民族側の代表が強く求めた経緯がある。
2007年の国連宣言は46条からなり、同化を強制されない権利や、伝統的な儀式や技術などを維持、発展させる権利、伝統的に暮らし、活用してきた土地や資源に対する権利などが明記された。
一方、「誰が先住民族か」という定義はされていない。
当初は、南北アメリカ大陸やオーストラリアなど入植地だった国々で、ヨーロッパ系入植者より「先に」暮らしていた人々と理解されてきた。だが、こうした概念にあてはまらないアジアやアフリカの少数民族からも、「自分たちは先住民族である」という主張が出てきたためだ。
日本では、アイヌ民族ゆかりの土地の収用を違法とした1997年3月札幌地裁の「二風谷ダム判決」で、アイヌを先住民族と認める初の司法判断がなされた。2007年の国連宣言の採択では日本も賛成し、2008年には北海道洞爺湖サミットを前に、アイヌを先住民族と認める国会決議が採択された。
国内法では、2019年のアイヌ施策推進法で初めて、「先住民族であるアイヌ」と明記された。だが、アイヌの自決権や先住権など、国連宣言で示されているような権利については触れておらず、批判の対象にもなっている。