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バイデン政権はなぜ気候変動を最優先課題にするのか アメリカが感じる危機感の正体

World Now
氷の後退が進む米アラスカ州南部のコロンビア氷河=2017年6月、葛谷晋吾撮影

「気候変動を公式に国家安全保障と外交政策の中心にすえる」。1月27日、バイデン大統領はホワイトハウスの「ステート・ダイニングルーム」で積み上がった関連の大統領令に次々と署名した。気候変動を「人類の存続に関わる脅威」と位置づけ、新たに設けた気候変動担当の大統領特使に温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の立役者、ジョン・ケリー元国務長官をすえた。ケリー氏は国家安全保障会議(NSC)にも名を連ねる。

米国では1980年代から、気候変動が国家安全保障に影響を与えることが専門家や軍、情報機関で議論されてきた。2010年の国防政策見直し(QDR)では、気候変動を国家安全保障計画の中で考慮すべきだとした。

気候・安全保障センターのエリン・シコースキー副所長は気候変動の脅威は三つに分けられるという。一つは、気温や海面の上昇、異常気象が世界中の米軍基地や装備に影響を与え、軍事基地を難しくする直接的なリスクだ。18年にはメキシコ湾岸の空軍基地がハリケーンで壊滅的な被害を受けたり、大西洋岸の海軍基地が海面上昇によって苦慮したりしている。弾道ミサイル実験に使われる太平洋のマーシャル諸島の島は海面上昇で30年程度で住むことができなくなるという研究もある。

Damage caused by Hurricane Michael is seen on Tyndall Air Force Base, Florida, U.S., October 16, 2018.   REUTERS/Terray Sylvester
ハリケーンの被害にあった米空軍基地=2018年10月16日、米フロリダ州、ロイター

二つ目は、気候変動がすでにある脅威を加速させる間接的なリスクだ。例えば国境をめぐり衝突する中国とインド。新興大国としてもライバル関係にあるが、共有する河川流域で気候変動による水不足や洪水が起きれば、緊張はさらに高まる。東アフリカでは過激派の活動に飢餓や新型コロナウイルスが加わり、そこに気候変動に関する干ばつが襲う。「気候変動が原因ではないが、事態をさらに悪化させている」と話す。

三つ目は、各国の気候変動対応で起きる地政学の変化による安全保障上の影響だ。海氷が減った北極海での活動や、化石燃料からのエネルギー転換が中東やロシアなどの資源国に与える影響も見過ごせない。シコースキーさんは「カギとなるのは、各国が今後行うすべての国家安全保障の議論で気候変動を考慮することだ。そうしなければ、重要な見落としや誤解を生むことにつながる」と話す。

エリン・シコースキー米気候・安全保障センター副所長

発足間もないバイデン政権が今直面しているのが、メキシコとの国境に殺到している中米からの移民希望者だ。単独で国境を越えて入国しようとして拘束された子どもは急増しており、収容施設が不足している。急増の背景には「バイデン政権の移民政策が寛容だ」という期待感があるとみられる。

バイデンとともに移民制度改革を目指すナンシー・ペロシ連邦下院議長(民主党)は米ABCのインタビューで「ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルを外遊した。そこで見たのは気候変動の影響だ。干ばつが原因で土地を離れている。農業ができなくなり、ほかの生きるすべを探しているのだ」と語った。バイデン政権は移民制度改革のほか、中米での移民の「根本原因」に対処するため、議会で治安の向上や経済開発に関与する法案の成立を目指す。

バイデン大統領は2月4日の大統領令で、ジェイク・サリバン国家安全保障担当補佐官に気候変動が移民に与える影響を調査し、半年以内に報告書を出すよう指示した。世界の安全保障にどう影響を与えるかに加え、将来的にどのように「保護と移住の選択肢」を与えるかを検討。他国や国際機関、NGOとの協力を探る。

2月23日、国連安全保障理事会で、ケリー気候特使は気候変動による移民について、「人道危機を招くだけでなく、うまく対処できなければ、平和と安定を損ねる。だから安保理で議論することが重要だ」と述べた。

ノルウェー難民評議会の国内避難民モニタリングセンター(IDMC)によると、19年に全世界で約2400万人が気象災害によって避難や移住を余儀なくされたという。世界銀行は50年までに1億4000万人が避難を余儀なくされると推計する。

現状、気候変動による移民を国際法上難民とする定義はない。国際的に保護が必要とされる「難民」は1951年の難民条約で、「人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた」人々と定義されている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は昨年10月、「気候変動や災害を受けて国際的な保護を求める場合、難民としての地位を主張するのは正当である可能性がある」との法的考察を発表した。

米国では、自然災害や武力紛争などのせいで、帰国後の安全が確保できないと判断した国の人たちに米国内での滞在・就労許可を一時的に認める「一時保護資格」(TPS)を設けている。中米では98年にハリケーン被害を受けたホンジュラスとニカラグア、01年に大地震があったエルサルバドルなども対象になっており、TPSで米国内に滞在する人は昨年10月時点で約41万人に上る。(香取啓介)