米中部コロラド州。ロッキー山脈の間を縫うように走る道を車で走ると、真っ黒な石炭を積み上げた炭鉱がたびたび現れる。
山あいの小さな村にあるエルク・クリーク炭鉱は、2000年ごろから石炭の産出が始まった。かつては年間500万トンの石炭を産出していた。
ただ、炭坑に通じる穴は閉鎖されている。2013年に石炭が自然発火する事故があり、操業を停止したからだ。300人以上が働いていた山の中腹には、地面から直径18インチ(約46センチ)の重厚なパイプが突き出ている。
「パイプは北へ4000フィート(約1.2キロ)先の坑道までつながっていて、圧縮されたメタンが流れてきます」。発電プロジェクトの責任者、ジュリアン・ヒュージックさんが説明した。
地元でスキーリゾートを運営する会社「アスペン」などは、廃鉱になる前の2012年、600万ドル(約8億7000万円)を投資して、メタン発電を始めた。
雪解けが早くなったことで、スキー客が減るシーズンがあり、温暖化のビジネスへの影響を懸念していた。自社が使う電力をまかなうため、温暖化対策にもなる技術を求めていた。
炭坑を封鎖し、内部にパイプを張り巡らせて、メタンを1カ所に集約する。必要に応じて圧縮し、燃料として1500馬力のエンジンに送り込み、発電する。
3機の発電機をフル稼働させれば3メガワット以上の電力を生む。米国の1800世帯の電力をまかなえる計算だ。
メタンを燃やすと二酸化炭素が出るが、そのままメタンを大気に放出するよりは温室効果を減らせる。
米環境保護局(EPA)によると、全米の年間のメタン排出(2019年)のうち、稼働中と生産終了を合わせた炭鉱からは約8%で、5番目に多い排出源になっている。
カリフォルニアの温室効果ガスの排出量取引市場では現在、発電にメタンを使うことで処理したメタンの25倍の量の二酸化炭素を削減したことと同等だと評価されている。
削減分を「クレジット」として売ることで、電力の販売と合わせて月10万?15万ドル(約1450万~2200万円)の収益も出ており、当初の投資額600万ドルは回収できる見込みだ。
この炭鉱を保有する会社のマイク・ラドロウ社長は誇らしげに語る。
「石炭採掘は、長年、産業や経済を支えてきた。閉鎖されたあとも、気候変動対策に貢献している」
メタン発電は、欧州や中国の炭鉱でも実施されている。