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「壊す」だけではなく、「渡す」ことでつなげるZ世代 SDGs時代の起業

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ロシア・ヤマル半島の永久凍土に出現した穴。若者が関心を高める地球温暖化との因果関係が研究者らによって進められている=2015年7月
ロシア・ヤマル半島の永久凍土に出現した穴。若者が関心を高める地球温暖化との因果関係が研究者らによって進められている=2015年7月

学校の窓ガラスを割って自己主張をする若者。昔の漫画などで、時にはステレオタイプ的に描かれてきた若者のイメージだ。反抗的だけど、共感してしまう面もある。

そうしたイメージとはちょっと異なる若者論を、南さんは語ってくれた。

「自分は、何かを壊していくだけでなく、親世代から託されたものを、どう次の世代につないでいくかに関心があります。そのためにも起業をして、社会をより良くしていきたい」

「最近の若者って、自分もその若者なんですけど(笑)、次世代に託すという意識が強めなのかなと思っています。次世代に綺麗な海を残したいとか、おいしい食べ物を残したいと考えている人が多くて、僕自身もこれから生まれてくる子どもたちに、これからの世界の判断を委ねるということを目標にしています」

南祐月さん(中央)
南祐月さん(中央)

自分たちが立っている地球そのもののがグラグラと揺れている

もちろん、壊さないでいいと思えるほど、世の中が100%完璧になったわけではない。経済社会も学校も壊さないといけない昭和的な悪習は山積みだ。Twitterでは、学校の理不尽な校則がいまだに話題になる。

ただ、壊したいという気持ちと同時に、社会を次世代に向けて持続させないといけない、という感覚を持つことは、とてもしっくり来る。

9月9日に出版した「SDGsがひらくビジネス新時代」(ちくま新書)の執筆中、環境問題など様々な社会問題に取り組む若者を取材していたときも同じように感じた。

環境問題の深刻化が背景にあるからだろう。2020年の世界の平均気温を見てみると、平年値(1981年~2020年)より0.6度高かったという。産業革命前と比べると、1.25度の上昇となる(EUの「コペルニクス気候変動サービス」発表)。地球温暖化が進んでいるのは誰の目にも明らかだ。

氷の後退が進むアメリカ・アラスカ州南部のコロンビア氷河=2017年6月、朝日新聞社機「あすか」から
氷の後退が進むアメリカ・アラスカ州南部のコロンビア氷河=2017年6月、朝日新聞社機「あすか」から

毎年のように日本を含む世界各地で異常気象が観測され、多くの被害が出ている。日本でも、2018年度や2019年度は風水害による保険金の支払いが1兆円を超えた。自然災害の多発は損保各社の収支に影響するようになった。環境問題はすでに金融リスクだ。

気候変動によって、学校という建物どころか、人間が立っている地球そのものが危機的な状況だ。洪水などで家を失う人もこれから世界各地で増えていく。

どのようにして地球環境を守って、より良い状態で受け継ぐかというところにも、関心がシフトしているのではないだろうか。

10代のSDGsの認知率が7割を超えた理由とは

いまの10〜20代の若い世代は「Z世代」とも呼ばれる。そうやって、乱暴に「くくられる」ことに戸惑うのも、また彼らの世代だ。若者論の多くは、いまこの文章を書いている私も含めて、筆者が見たいものを見ている願望の投影に過ぎない。

しかし、環境やジェンダーなどの世界的課題を解決するために17の目標を定めた国連の「SDGs」への関心も高いのは確かなようだ。データにもそれは現れている。

電通が全国の10〜70代の計1400人に聞いたところ、10代のSDGs認知率は7割を超えた。5割前後だったほかの世代を上回った。東京大学新聞とNewsPicksの共同調査によると、起業家をめざす東大生の理由で最も多いのは「社会の課題を解決したいから」(39%)だった。

ハフポスト日本版のU30社外編集委員の能條桃子さん(23歳、NO YOUTH NO JAPAN代表)が指摘するように、このままでは、いまのZ世代の賃金は現役世代と比べて低くなっていく。

さらに、高齢者中心になってくると、若者の政治的意見が通りにくくなる。若い世代の目を通したほうが課題として「発見」されやすい、ジェンダー平等、気候危機、学費や子育てなどの社会を次世代に受け継ぐための政策。それらに光が当たらなくなるリスクが出てくる。

能條桃子さん
能條桃子さん

これらの声やデータから読み取れることは、決して若者が金儲けに関心がなくなったという単純な話ではない。金儲けに関心がないのではなく、その儲け方に変化が起きていると私は思う。

なぜなら、世の中をハックして、自分だけが勝ち抜けても、立っている基盤そのものである社会のシステムや地球環境が悪化したら、元も子もないからだ。

みんなで協力しながら、新しいビジネスを生み出し、雇用をつくり、ジェンダーや教育格差などの課題を克服して良い社会にしていかないと、全員が沈んでしまうという。

それは道徳とは、ちょっと異なる。だが、公共的だ。

肉を食べないという選択肢、どこまで広まる?

ヴィーガン(菜食主義者)料理のレシピ投稿サイトや宅配事業を手がける「ブイクック」CEOの工藤柊さん(22歳)。神戸大学に在学中に起業した。

肉や卵などを食べないヴィーガンという生き方を選ぶ人は、動物倫理、健康、宗教上の理由など様々な背景がある。最近は、環境問題を出発点とするのがグローバルのトレンドだ。

牛の胃で発生し、ゲップとして出されるメタンは二酸化炭素と比べて20倍以上の温室効果あるとされる。家畜の飼育過程でも、環境負荷がかかる。もちろん何を食べるかは個人の自由だ。でも肉を食べる日を減らしたり、別の食品に切り替えたりすれば、環境保保護につながる可能性がある。

起業した工藤さん自身もヴィーガンで、日本など先進国の食のあり方が、環境負荷の少ない仕組みに変わってほしいと願っている。起業をしたのは、「1人で社会を変える」ことの限界を感じたからだ。

理念をビジネス化すれば社員が集まり、消費者が生まれ、株主との関係が築かれる。起業をすると新しい人とつながるのだ。

ブイクックCEOの工藤柊さん(左)
ブイクックCEOの工藤柊さん(左)

私は、東京・有楽町のショッピングビル「マルイ」に3日間限定で工藤さんが出した店を訪ねたことがある。大豆で作った生姜焼きなどヴィーガン料理の商品が並んでいた。3日分の商品が2日目で完売し、急遽追加で店頭に並べたほどだった。

店の中は、瞬間的に生まれたコミュニティの場のようだった。工藤さんと写真を一緒に撮ってインスタグラムに上げるお客さんもいた。工藤さんの姿を店頭で見かけたので、自己紹介をして、「どうしてヴィーガンなのですか?」と私は直接聞いた。私自身は肉が大好きなので、どういう価値観を持っているかを知りたかったからだ。

こういうところもビジネスの魅力だ。店員と消費者という関係が築かれ、新しい社会のあり方に関する会話が生まれる。

ところで、冒頭で紹介した高校3年生の南さんは、1980年代にヒット曲を連発したアメリカのロックバンド「ガンズ・アンド・ローゼズ」のTシャツを着ていた。「大人世代の歌が好きなんですね」と尋ねたら、彼らの音楽が「新しい」と感じるそうだ。

最近は、昔の音楽も、今の音楽も、ネットで検索すると並んで出てくる。Spotifyを立ち上げれば、どんな曲も、ユーザーにとっては「新曲」のように感じられる。過去も、現在も、同時に存在しているネット社会。そうした時代だからこそ、SDGs的とも言える「持続可能性」という感覚がピンと来るのかもしれない。

そしてそれは壊さなくていい、という諦めの考えではない。壊すと同時に持続させないといけない、というサバイバルの精神が感じられるのだ。SDGsはきれいごとではなく、デジタル時代の精神を現している。詳しくはぜひ拙著「SDGsがひらくビジネス新時代」(ちくま新書)をお読みいただきたい。