【もとの記事】人工肉がスーパーに並ぶ日 米国発の技術は温暖化から地球を救うか
肉のようで、肉でない。大豆など植物由来の成分を組み合わせた「代替肉」(人工肉)。特集「気候変動とカネ」(3月号)では「畜産業を地球からなくし、CO₂除去能力を引き上げる」との理念のもと「本物を上回る味」を目指す開発の動きを書いた。あれから半年、日本でも知られ始めた代替肉に「大丈夫なの? 本物を上回る味って?」(茨城県・猪本智恵子さん 45歳)と質問が来た。さて、どうなのだろうか。
特集で取材した「インポッシブルフーズ」や、ナスダック上場が話題になった「ビヨンドミート」など米西海岸発の代替肉メーカーは、日本にはまだ進出していない。だが、オランダ発の「ベジタリアンブッチャー」の肉を扱うハンバーガーのデリバリー専門店が9月、都内にオープン。「Uber Eats」や「出前館」で配達を始めた。
取材に行き、一番人気のチーズバーガーを食べてみると、歯ごたえに驚いた。ビーフの食感に似せて大豆やタマネギなど植物由来の原料からつくったパティは、しっかりと肉をかんでいる感触だ。味は少し淡泊にも感じたが「本物の肉ではない」と言われなければ気づかない。まさに「ハンバーガーを食べている」感じだ。
2010年に創業。昨年にユニリーバが買収し、英国やドイツなど欧州を中心に18カ国で代替肉を販売している。ビーフに似せたパティだけでなく、チキンのパティやナゲット、ソーセージやツナなど、バリエーションも豊富だ。欧州ではベジタリアンやヴィーガン(完全菜食主義)の間に広がり、環境問題に関心の高い人にも選ばれるようになった代替肉だが、日本では少し打ち出し方が違うようだ。
日本の販売会社代表・村谷幸彦さん(31)は「ヴィーガン向けというより『新しい種類の肉』ととらえてほしい。SDGs(持続可能な開発目標)にあう商品ですが、難しいことを考えながら食べるのはお勧めしません。まずはダイエットによさそう、でもいいから食べてみて」。
ヴィーガンなどへの関心が欧米ほど高くないため、「食中毒のリスクが低い」「サラダ感覚で軽く食べられる」といった点をアピールしている。「環境とかをあんまり前面に出してしまうと、飲み込むのに消化不良を起こしてしまうでしょ」。
ハンバーガーのデリバリー以外にも、村谷さんは小売店や外食店などに向けパティを販売している。だがそこでは「ベジタリアン向け」の商品として売られてしまい、「一般の消費者にどうしたら食べてもらえるか」を考え、始めたのがデリバリーだ。ホームページからも「ヴィーガン」などの記述をなくしたという。
ハンバーガー作りは、自身がオーナーを務める焼き肉店のキッチンを使う。いわゆる実店舗を持たない「ゴーストレストラン」で、Uber Eatsなどを介して注文を受けたときに作り、配達は代行してもらう。初期投資が抑えられ、低リスクで新しい業態を始められるというわけだ。
「代替肉は調理が簡単」というのが利点だという。オランダの工場で成型され、冷凍されたパティは、店で自然解凍し、サラダ油をしいたフライパンで焼き色を付けるだけ。本物の肉では歩留まりが悪かったり廃棄が出たりするが、その心配もないという。調理の手軽さを生かし、現在の池袋に加え、新宿など都心部を中心に次々にフランチャイズ店をオープンしていく予定と話す。
代替肉は日本でも広がっていくのだろうか。「ベジタリアンやヴィーガンといった、特定の人だけのものではないという意識は少しずつ広がっている」と村谷さん。2019年の1年間で、取り扱う商品の販売量は倍増したという。「日本では動物の肉は食べて当たり前のもの。でも、代替肉を食べることによって、また違った視点が得られることもある。そういった気付きを与えることができれば」。
米国では、代替肉の市場規模は拡大し続け、いまや1500億円ともいわれる。遠くない将来に、日本でも肉といえば代替肉が当たり前な時代が来るのかもしれない。(目黒隆行)
■「レビュー2019」は全5回。次回(12月28日)は6月号の特集「怒りの正体」を再取材します。