干ばつや人間の身勝手な土地利用に対するアマゾンの熱帯雨林の回復力が弱まっている――衛星データを新たな手法で活用した研究論文が、2022年3月に発表された。
このままでは、回復不能な限界点に達してしまうという懸念が、改めて強まった。このポイントを越えれば、熱帯雨林はほとんどが草地となり、生物多様性や気候変動にとてつもない影響を及ぼすことになってしまう。
重大な転換をもたらすその時期が、具体的にいつになるのかまでは絞り込めなかった、と今回の研究陣は認める。
「しかし、その限界点に達し、人間のせいでアマゾンの熱帯雨林を失った場合、地球規模の気候変動に大きな影響を及ぼすのだと、改めて思い起こすことには意義がある」。研究陣の一人、英エクセター大学グローバル・システム研究所長のティム・レントンはこう語る。
この熱帯雨林を失えば、温暖化を促す二酸化炭素(CO₂)を900億トンも大気に放つのに等しいことになる。世界中の放出量の数年分にも相当する量だ。当然ながら、それだけ地球温暖化の抑制は難しくなる。
これまでの研究では、この限界点に達する時点については幅がありすぎて、確かなことはいえなかった。その中で、アマゾン熱帯雨林のかなりの部分が、森林伐採や日照りなどで21世紀の終わりまでに立ち枯れてしまうとの推計が一部で出ていた。
「とても説得力がある」。ブラジルの国立アマゾン研究所(INPA)の上級研究員カルロス・ノブレ(この論文には関わっていない)は、今回の研究結果をこう評価する。アマゾンの喪失に30年以上も前に警鐘を鳴らした最初の科学者の一人で、「私の懸念をさらに深めてくれた」というのだ。
世界最大の熱帯雨林アマゾンは、200万平方マイル(約518万平方キロ)以上にわたってブラジルとその周辺国に広がっている。ほとんど毎年のように、自らが出すより多くのCO₂を吸収しており、温暖化の進行を和らげる重要な役割を果たしている。
また、ここに生息する動植物の種の多さは、地球上のどこと比べても負けない。いや、どこよりも多いのかもしれない。さらに、南米を越えて天候を左右するほど多くの水蒸気を放出してもいる。
ところが、気候変動に加えて、森林伐採や焼却による農地、牧草地の大がかりな開拓という人間の直接的な営みが、アマゾンに大きな打撃を与え、温暖化と乾燥化をもたらしている現状がある。世界で最も湿度が高いこの地域で、2000年以降に3回もの干ばつが起きるまでになった。
アマゾンの回復力について調べたこれまでのほとんどの研究は、熱帯雨林が時間とともにどう変わっていくかというシミュレーションに基づいていた。
一方、今回の研究では、実際の観察記録が活用された。何十年にもわたって積み重ねられた衛星による遠隔測定値だ。ある時点で特定の地点に存在する生物の総量を示した生態学的な数値で、いわば「健康度」を表している。
熱帯雨林の原始的な状況を保っているように見えるところに絞って調べてみると、どの調査地点でも2000年以降は回復力の衰えが目立った。一例は、干ばつの後遺症だ。熱帯雨林としての健康度を取り戻すのにかかる時間は、どんどん長くなっていた。
「回復力の衰退は、熱帯雨林が耐えられる打撃の量には限りがあることを意味している」とカリフォルニア大学アーバイン校の熱帯生態学者パウロ・ブランド(今回の論文には関わっていない)は解説する。「元気を取り戻す力も、それだけ衰えてしまう」
ただし、もとに戻れなくなる限界点が来る兆しかというと、そこまではいえないとブランドは語る。要は、皆伐など森林を傷めるのをやめることに尽きると強調する。
「熱帯雨林の生態系には、もともと強い回復力がある。人間が傷めたからといって、回復力が消えてしまうわけではない。何もせずにしばらくそっとしておけば、驚異的なすごさで立ち直る」
今回の研究では、手つかずの熱帯雨林でも、2000年以降の調査期間中に4分の3以上で回復力が弱まっていることが確認された。その衰退ぶりは、乾燥度が増したり、伐採などの人的行為の現場が近かったりする地点ほどひどくなっていた(こうした今回の分析結果は、地球温暖化に関する科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジで発表された)。
先のエクセター大学の研究員で、今回の論文の筆頭執筆者になったクリス・ボールトンは、アマゾンを巨大な水の循環システムに例える。地面や木から発散される水蒸気が、風に乗ってあちこちをめぐる世界だけに、どこか一部で森林や水蒸気を出すところが失われると、他の場所にも乾燥地域を広げてしまうというのだ。
「アマゾンが乾燥するほどに、その回復力の喪失が早まることは、想像にかたくないと思う」とボールトン。そうなると、森林はどんどん小さくなり、比較的早く枯死し、サバンナのような草原と化してしまう。樹木の数は、うんと少なくなる。
樹木が減れば、そこに蓄えられていた炭素が大気に加えられるだけではない。熱帯雨林で広葉樹の大木が吸収していた炭素の量と比べて、サバンナではその吸収量がはるかに小さくなってしまう。維持できる生物の種類もぐっと減る。
今回の論文は、「アマゾンが別の生態系に移行するか否かの瀬戸際に立たされていることを示している」と先のINPAのノブレは危機感を改めて深める。ひとたびサバンナ化すれば、「それは何百年も、いや、たぶん何千年も続くだろう」。
この半世紀で、アマゾンの約17%が伐採されている。ブラジルでは、そのペースが落ちた時期もあったが、最近ではむしろ加速している。
森林伐採を止めることは、伐採が進んでいた特定の地点だけではなく、(訳注=巨大な水の循環システムである)アマゾン全体を守ることにもなる。それが、今回の分析結果に出ていると研究陣は指摘する。
「まったくその通り」とノブレも賛同する。「伐採をやめ、森を傷めるあらゆることをやめねば」と言葉に力を込め、こう語るのだった。
「まだこの熱帯雨林を救うチャンスは、残されているのだから」(抄訳)
(Henry Fountain)©2022 The New York Times
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