英リンカーンのデイブ・ウィルキンソン大客員教授らの研究が話題になったのは、2012年のことだ。
竜脚類という植物食の巨大恐竜たちが発生させていたメタンを試算した。その量は年間約5億2000万トンと見積もられた。2021年の世界の排出量(約6億4000万トン)にも迫る量だった。
研究チームの関心は、恐竜がどれだけメタンを出したかの試算だった。おならなのか、げっぷなのか、などは言及していなかったが、「恐竜のおならで温暖化?」といった見出しが、世界のメディアでおどった。「1週間ほどは、メディア対応にほとんどの時間を費やしました」
メタンを出すのは、家畜や巨大な恐竜だけではない。家屋の害虫、シロアリが出すメタンは、世界全体の排出量の1~3%を占めるとされる。
ただ、シロアリはメタンを垂れ流すだけでなく、巣にすむ特殊なバクテリアでメタンを酸化させ、排出量を減らしていると、豪メルボルン大などの研究チームが2018年に報告した。巣や周辺の土壌を通すと、その削減率は、平均で50%、最大80%にもなるという。
とはいえ、シロアリがそれなりの量のメタンを出しているのは事実。駆除すれば削減につながらないだろうか。
「それは最低の悪手だろうね」
チームの一員、フィリップ・ナウアーさんは断言する。シロアリは土を肥やし、数々の生き物の餌ともなり、共生細菌の力を得て窒素を固定する。
他にもわかっていない役目がまだまだありそうだという。
「排除すれば、大規模な生態系の崩壊を招き、(温室効果ガスの)二酸化炭素を吸収する能力を失わせる。全体で見れば気候には悪影響だろう」