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ミツバチ研究のOIST大学院生、長谷川のんのさん「『女性だから』で取り上げないで」

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沖縄科学技術大学院大学博士課程の長谷川のんの
ミツバチを愛し、減少の原因を解明する関連研究に取り組む沖縄科学技術大学院大学(OIST)博士課程の長谷川のんのさん=本人提供

――GLOBE+に掲載された長谷川さんの記事はよく読まれています。反響はありましたか。

すごくあって驚いています。養蜂業界からの連絡が多いですね。日本では養蜂が盛んな一方、ハチの研究をしている人はまだまだ少ないので、養蜂家の皆さんは研究内容を詳しく知りたいようです。

日本養蜂協会の理事の方々と話したときには、ミツバチを弱らせるダニの駆除方法に関心を持っておられました。駆除剤を年に2回使うことがあるのですが、分量は決まっている一方、効果が低下しているという悩みがあって、どうすればいいのかという相談を受けました。

なぜ効き目が下がるかと言えば、ダニ側に耐性ができるからなんですが、その対処として沖縄県恩納村と一緒に試してみた事例を紹介しました。養蜂家の皆さんが同じ日に一斉に抗生物質を使い、一気にダニを減らすと。あとはハチ自身の免疫に期待し、抗生物質の使用は控えるというやり方でした。

ただ、私もまだ研究者の卵で、「これが効きます」と断言できず、そこは気をつけながらお話ししました。

逆に私も皆さんから養蜂の現状を教えてもらい、情報交換のような形になっています。私の研究はあくまでウイルスの研究ですから、養蜂は少しかじりましたけど詳しくないので、勉強になります。なので、養蜂の専門的な問い合わせも受けるのですが、その場合は協会に聞いて下さいと言っています。

あとは、県議会の農林水産委員会から勉強会の講師を頼まれたり、蜜蠟(みつろう)で絵を描いている現代アート作家の方から、作品のヒントになるかもしれないと連絡があったり。テレビ番組の取材も受けたりしました。お正月の全国番組で、研究者を取り上げるようです。どんな感じで紹介されるんだろう、結構、怖いです(笑)。

――ミツバチの研究をするまでのいきさつを改めてうかがいたいのですが、まず、日本でインターナショナルスクールに通い、そこからカナダの大学に進学していますね。インターに通うきっかけは何だったのでしょうか。

英才教育とかでは全然なくて。実家は神奈川県茅ケ崎市で、最初は地元の公立小学校に通っていましたし。ただ、きっかけは小さいころに英語に触れる機会があったことですね。

両親が共働きで、特に土曜日なんかは祖父母の家に預けられることが多かったんですが、ちょうど祖母が英会話を習っていて。それについて行って、英語を耳にしていました。

実家は神奈川県茅ケ崎市で、両親がサーフィンをやるんですが、私もその影響を受けてやっていて。貯金して、毎年3人でハワイにサーフィンしに行くのが恒例となっていたんです。

小学校1年生の夏休みに、ハワイで英語を習いたいと私が両親に言ったらしいんです。両親はオーケーしてくれて、1人で1カ月間、外国人向けの語学学校で学びました。

その時の経験がすごく楽しくて。ちゃんと勉強したことで、今まで聞いていたけど、理解はできていなかった英語がどんどんわかるようになって。違う言語を学ぶって面白いんだと思いました。

日本に戻ったあと、「英語で勉強したい」と両親にお願いしたら、同じ神奈川県内のインターナショナルスクールに転校させてくれたんです。ただ、そこは中学校がなかったので、5年生の段階で東京の品川にあるカナディアン・インターナショナル・スクールに転校しました。高校卒業までここで学びました。

幼少期の長谷川のんのさん
幼少期の長谷川のんのさん。段ボールに乗って丘からすべっている様子。運動は得意だったという=本人提供

――インターナショナルスクールは日本の公立学校と比べてどんな違いがありましたか。

まず一クラスの人数がすごい少ないですよね。それで先生と接触する時間は多かったと思います。ケアが充実しているなと感じました。

あと、自主性という意味では、プレゼンをよくやりました。中学生のころからやっていて、今は日本の公立学校でもやっているのかもしれませんが、当時は珍しかったと思います。両親は「プレゼンて何をするの?」って聞いていましたから。

コンピューターの授業というのも結構ありました。日本の公立学校に行った同年代のいとこが2人いて、彼らに聞いたらパソコンの授業なんてないって言ってました。

インターナショナルスクールに通っていたころの長谷川のんのさん
インターナショナルスクールに通っていたころの長谷川のんのさん=本人提供

――高校ですでに生き物が好きだったのですか。

そうですね、まず科学が好きになって。特に生物。もっと言うと、分子生物学ですね。DNAやRNA、プロテイン(たんぱく質)の話を聞いたときは「すげー」て思って。たんぱく質である酵素が、食べ物の消化や吸収を可能にしてるんだって知って、「それ自分の体の中でやってんの?酵素があるから生きられるんだ」って感動して。興味を持ちました。

化学も結構好きでした。大学でも有機化学の授業も取るぐらい。でも物理と数学はからっきしだめでしたね(笑)。生物でも数学使うんですが、今も苦手です(笑)。

そんなことから大学も科学系を学びたいと思ったんですが、日本語で学んでないので英語で学べるところを考えたら、日本だと国際教養で、全部リベラルアーツのようなところになってしまって。そうすると最初の2年間は一般教養を学んで、3、4年生で専攻を決めるというパターンなんですが、時間がもったいないなと。その時点で、「あ、日本の大学はないわ」みたいな。

英語で学べるところとして、ヨーロッパは学費が高いので、アメリカかカナダを考えたんですが、当時アメリカでは学校施設での銃乱射事件が相次いでいて、2014年とか2015年なんですけど、それが不安だったのと、あとやっぱり授業料が高い。それでカナダに決めました。

カナダでは5校受験してすべて合格。元々行きたかった名門のブリティッシュコロンビア大にも受かったのですが、キャンパスが都会にあって。自分の性格を考えると勉強はかどらないなと思い、あと最初から大学院に行くつもりだったので、まあ大学はどこでもいいかなと、それでゲルフ大学にしました。

ゲルフ大時代の長谷川のんのさん
ゲルフ大時代の長谷川のんのさん=本人提供

――大学では何を専攻したんですか。

バイオケミストリーですね。生化学です。生物と化学が好きで、本当にその中間を取った感じです。

――ミツバチとの「出会い」は?

うちの学部では16カ月間のインターンシップが必須で、多くの学生は企業に行くのですが、私は大学の研究室に行こうと考えました。

というのも、大学の実験の授業がすごく楽しくて。企業よりも大学の研究室の方が実験がたくさんできるのではないかと思ったんですね。

そこで、あこがれていたブリティッシュコロンビア大で興味を持った研究をしている先生たちに片っ端からメールを送って。40人ぐらいに送ったんですが、結局3人ぐらいしか返信がなくて。まあ、それは当然ですよね、研究者にしたら学部の1年生なんていらないって感じですよね。

で、返事を下さった1人が、たとえ1年生でもチャンスを与えようとするタイプの方で、取っていただきました。彼の研究対象がミツバチのたんぱく質を総合的に研究するプロテオミクスで、それで私もミツバチにひかれるようになりました。

ブリティッシュコロンビア大でインターンをしていたころの長谷川のんのさん
ブリティッシュコロンビア大でインターンをしていたころの長谷川のんのさん(右)=本人提供

――長谷川さんにとって、ミツバチの魅力とはどんなところでしょう。

フォルムがまずかわいいですよね。ころっとしていて。動きもかわいい。たくさん飛んでいるとこつんとぶつかってきて、「え、なに?」って感じで。いとおしくなります。

成虫になったばかりの状態だと、飛べないばかりか天地もわからず、その歩き方がすごくかわいいです。

そんな愛くるしいミツバチを、ウイルスや病原体から助けたいと思って今の研究につながっています。めっちゃ単純ですね(笑)。

ミツバチの体についたダニを数えて巣の中の感染状況を記録する長谷川さん=OIST提供
ミツバチの体についたダニを数えて巣の中の感染状況を記録する長谷川さん=OIST提供

――卒論もミツバチの研究だったのでしょうか。

そうです。インターンではミツバチの嗅覚受容体のプロテオミクスの研究に取り組みました。ゲルフ大に戻ってからは、ミツバチの腐蛆(ふそ)病に関する研究です。

腐蛆病というのは、細菌性の伝染病で、病原菌がミツバチの幼虫などに入り込み、腐っていく病気です。対処方法として抗生物質の投与があるのですが、オーガニック志向などもあって、EUでは蜂蜜に残留する抗生物質に対する規制が厳しいので、カナダでも同じような規制などを導入するという話が出ていたんですね。

抗生物質に代わる対処法が期待されていて、私は植物から抽出したナチュラルな成分が使えないかと研究しました。

――大学院をOISTにしたのはなぜですか。

修士課程はブリティッシュコロンビア大でインターンさせてもらった先生からオファーもあって検討したのですが、でもやっぱり日本が恋しくなってしまって。コンビニとか(笑)。あと和食が好きなんですが、カナダでは調味料が高かったり、野菜も日本のものとは微妙に違ったり。

ブリティッシュコロンビア大は海が遠いというのもネックでした。海がないのが精神的につらくて(笑)。そんなこともあってOISTに決めました。ここは私にとってはパラダイスです。

まあ、実際の話、それだけでなく、OISTは研究設備がすごく整っていて、それは大きな魅力でした。

――以前、OISTから、理系の女性研究者が日本は少ないという内容の記事を寄稿していただきました。これについてどう思いますか。

カナダでは私が研究していた分野では女性の方が多かったんですけどね。先生で女性はいなかったですけど、研究者は多かったですね。分野ごとに違うんですかね。例えばOISTでも物理の女性研究者って少ないですよね。

あとは日本では「女の子はばかな方がいい」みたいなことも言われるじゃないですか。ちょっと古いんでしょうけど。この間、YouTube見ていたら、路上で男女にインタビューする動画があって、男性だけでなく、女性も「自分より彼氏が学歴高い方が安心」と答えてたんですよ。そういう考え、まだあるんだと思って。

そういう風潮があるからなのか、何か成果を上げても、「女性だから」という理由で取り上げられたり、言われたりすることが多くて、そうではなくて、「研究者だから」とか、「優れた研究者だから」でいいのにな、と思いますね。

テレビとか見ていてもそういう取り上げられ方がまだまだ多いと思います。女性だからという視点。そういう着眼は違うのかなと。普通に「すごいから」でいいのに。

――耳が痛いです。長谷川さんの最初の記事について、見出しを「世界で急減のミツバチ、沖縄の女性研究者が解決に没頭 原動力はタトゥー刻むほどの愛」としたんですね。女性がまだまだ少ない現状の中、長谷川さんが頑張っているということを伝えたかったのですが、ソーシャルメディアでも疑問を持たれる投稿がありました。

Twitterでもありましたよね、「女性っていらなくない?」とか、「写真見ればわかるだろう」とか。

――タトゥーについても、長谷川さんご自身、Twitterで触れていましたね。

はい、ちょっと触れました。わざわざ「タトゥー」も見出しに入れなくていいんじゃないかと。両親からは「でもそれ(タトゥー)書いてなかったら、こんなに反響がなかったから、全然いいんじゃない?」って言われて。まあ、確かに大きな反響があったし、研究を広く知ってもらったので、いまは全然いいんですけど、最初はやっぱり「うーん」て思いました(笑)。

タトゥーに関して言えば、別に私は日本の社会を変えるつもりとか全然ないんですね。てか変わらないと思うんで。あと50年ぐらいは(笑)。ただ実際、タトゥーが入っているからこれはできないとかは違いますよね。そこだけ皆さんの意識が変わってくれればなと思います。

私、結構ギャルいじゃないですか。だからすごくびっくりされるんですよ。道ばたで「なにやってるんですか?」って聞かれて、「研究してます」って言うと。やっぱり見た目で判断されてしまうんですよね、日本は。

――研究者として今後、どんな目標がありますか。

実はOISTでミツバチの研究室がなくなってしまったんです。教授がオーストラリアに移ってしまって。今あるデータの解析はしているんですが、別の研究室に移籍し、いったんミツバチの研究から離れている状況です。

代わりに今やっているのは、食虫植物とダニの研究です。食虫植物に生息しているダニがいて、ミツバチとダニの関係と似てるんですね。ただ、将来的にはやっぱりミツバチの研究に取り組みたいと思っています。

OISTでの博士課程が終わったら日本を出て、ドイツかオーストラリアでポスドクをやろうかなと思っています。どちらも養蜂が盛んで、特にオーストラリアはまだ、ミツバチの世界的脅威になっている「ミツバチヘギイタダニ」が上陸していないので、研究する場所としては面白いなと思っています。

その先は特に考えてないですね。教員とかも考えてなくて、とにかく好奇心とミツバチを助けたいという気持ちで動いています。