現在、NWSLでセクハラ問題が起きています。それに対し、選手たちが一丸となって立ち向かうことを今日の試合中に意思表示しました。問題が封印されていた“6”年間にちなみ、前半“6”分に両チーム選手が集まり円陣を組みました。
— 川澄奈穂美 Nahomi Kawasumi (@NahoKawasumi_9) October 7, 2021
被害者をサポートし、二度とこんな事がないリーグに。 https://t.co/abXzUorima
問題の経緯
問題が発覚したのは、オレゴン州に拠点を置くポートランド・ソーンズFCの元監督ポール・ライリー氏。2014、2015年に同チームの監督を務めた際、ある選手には性行為を強要し、この選手と別の選手に対しては自分の面前でキスをするよう求めるなどのセクハラ行為をしていた疑いがあるという。
こうした疑惑を9月30日、アメリカのスポーツ専門のウェブメディア「The Athletic」が報道。ソーンズの元選手2人の証言や、ライリー氏が別のチームでも同様のセクハラ行為をしていたことなどを報じた。
批判はライリー氏だけでなく、所属チームとリーグにも向けられた。2015年に2人から被害を明かされたチームは内部調査し、リーグに報告したが、結果は公表されないままライリー氏は解雇された。解雇理由は「成績不振」とされた。
ソーンズは報道を受けて、オーナーのオーナー、メリット・ポールソン氏が「選手のプライバシーを尊重するためだった」と明かしたが、隠蔽行為だとの批判が選手たちから起きた。リーグのコミッショナー、リサ・バード氏は責任を取って辞任した。
選手たちは真実が明かされなかった6年間に注目。各試合会場で、開始から6分後に両チームの選手が中心に集まって肩を組み、問題に対する抗議と選手間の連帯をアピールした。
一方、ライリー氏は別のチーム「ノースカロライナ・カレッジ」の監督を務めていたが、問題の発覚を受けて解任された。リーグは別の機関に改めて調査することを依頼した。
— National Women’s Soccer League (@NWSL) September 30, 2021
「本当に最悪の対応」
川澄選手との主なやり取りは以下の通り。
――ご自身は今回の問題をどのように知ったのでしょうか。
報道された日、ちょうど私は翌日のレーシング・ルイビルFC戦に備えて相手ホームがあるケンタッキー州に遠征中でした。
その移動の最中、チームメイトがスマホの画面を見せてくれて「こんなことが起こってる」と教えてくれました。SNS上でもすでに話題になっていました。
リーグでこのような問題があったことは、少なくとも私は初めて聞いたので驚きました。それと同時に、なぜ今になって発覚したのか、そして被害を受けた元選手が言いたくて言ったのか、それとも意図しない形で出てしまったのかが気がかりでした。
仮に被害者が言いたくないのに情報が出てしまったのであればひどい話で、そこが一番気になりました。
後になって元選手たちが自らメディアに告発したことを知りました。そして同時にわかったのが、彼女たちがメディアに言う前に、何度もリーグに話していたということでした。ずっと隠され続けてきたわけです。そういうのが積もりに積もって、メディアに告発することになったのではないかと思います。
――リーグの対応についてはどう思いますか。
選手会が声明を出しているように、選手にしてみれば、100%信用できないと言えるぐらい、本当に最悪の対応をしたと思います。
私自身はこれまで被害に遭ったことがないので、相談できる「駆け込み寺」のようなものを意識したことはなかったんです。
でも、今回のようなケースを目の当たりにして、やはりしっかりとした相談機関が必要だと感じました。監督というのは一番近くにいるボスなんですね。その人から被害を受けたとなると、やはり監督よりも上の組織やポジションの人に言わないと意味がないのは当然です。
それだけにリーグがしっかり対処できなかったのは深刻な問題だと思いました。
――6年間この件を明かさなかったのは被害者のプライバシーを保護するためだ、とチームのオーナーは謝罪の中で述べています。この言い分についてはどう感じましたか。
単なる言い訳にしか聞こえないです。被害者が助けを訴えたことにしっかり対応して欲しかった。
この問題はリーグがきちんと調査をするのはもちろんですが、警察に通報する事案だと思うんです。それなのに隠していたわけですから、本当にひどいと思います。
――10月6日にTwitterで円陣の動画を引用しつつ、問題を報告していましたね。1万件を超える「いいね」がつくなど、大きな反響でした。
この件をまだ知らない日本の方は、円陣をした理由が分からない人もいるだろうなと思って投稿しました。
そしたらいつもより反応がすごくて。普段の10倍どころではない数の反応でした。本当にびっくりしたのですが、改めてこの問題がサッカーというスポーツを超えて関心を持たれているんだと感じました。
――円陣は自然発生的にやったのですか。
いや、そうではないんです。事前に申し合わせてやりました。最初から話しますと、まず問題が発覚した日の夜、選手会でZoomのオンラインミーティングをしたんですね。所属する約250人の選手が参加し、私も入りました。
先ほども言いましたが、私のチームは翌日、アウェーで試合が予定されていましたが、問題を受けて開催がわからない状況になっていました。ミーティングでは2時間ぐらい話し合って、それこそストライキをしようかという話も出ましたが、はっきりとは決まらなくて。
翌朝、各チームの代表がもう一度話し合ったみたいで、その後、その日の試合と週末に予定されていた試合は延期することが決まったんです。
その時点ではその後の予定はわからず、今シーズンいっぱいすべての試合をストライキすべきだと強く主張する選手もいました。
本当にどうなるんだろうという感じだったのですが、ただ、ストライキをするのであれば、きちんとこちらの要求を提示して、期限付きで回答を求めて、それでも事態が変わらなければ考えよう、という話でまとまったんです。
ただ、それでもやっぱりこういう問題が起きたわけだから、選手としてしっかり立ち向かって行くんだという意思表示はしようということで、選手会として話がまとまりました。
そこで、問題がもみ消されていた6年間の6という数字に合わせて、試合開始6分後に1分間だけ選手全員がピッチの真ん中に集まり、円陣を組むことになりました。
これについては、試合前に選手会は声明を出し、審判にも伝えました。円陣にはベンチに控えていた選手も加わりました。サッカーでは試合中にベンチから勝手にピッチに入るとイエローカードをもらってしまうんです。そうならないように審判にも事前に言ったということですね。
私がTwitterに投稿した試合は、ワシントン・スピリットとの対戦でした。ワシントン・スピリットには横山久美選手と宝田沙織選手が所属していて、彼女たちも円陣に加わりました。全部で40人ぐらいいました。
この日はほかの2会場でも試合があって、そこでも同じように円陣が組まれました。その週末にあった試合でも円陣を組みました。そのときは、実際に被害を告発した元選手も加わりました。
その後は試合中ではなく、試合前にもう一度行いました。
――スタンドの反応はどんな感じでしたか。
皆さん立ち上がって、拍手をして下さって。サポートの意思表示だと受け止めています。中には「No More Silence」というフリップを掲げてくれた人もいます。
フリップを掲げてくれた人の中には、小学生ぐらいの女の子もいました。自分だったらできたかなと感心しましたし、何より思ったのは、私たちが今、こうやって声を上げることで、もしかしたらこの子たちが将来救われるかもしれないということです。被害に遭う人が一人でも少なくなればいいなと思いながら、スタンドを見ていました。
――スポーツ界におけるセクハラ問題はしばしば起きていますね。アメリカで言えば、女子体操のオリンピックチームを担当していた医師が治療名目でセクハラ行為をし、事件になりました。スポーツ界のセクハラ問題について改めてどう考えますか。
私自身はそうした被害に遭ったことはないのですが、決して他人事として考えてはいません。
例えば自分のような性格であれば、「ホテルの部屋に来ないと試合に出さない」と言われても、「それなら試合に出なくていいです」ときっぱり断るんですけど、そういう性格の人ばかりではないので。だからこそ、こういうことが起きたんだろうと思います。
選手にとっては試合に出たいというのは当然あります。そこで試合に出ておかないと、来季は契約されないかもしれないという状況ならなおさらです。私たちにとってはサッカーは仕事なんです。契約されなければ職を失うということなので。
誰かに相談すればいいと思うかもしれませんが、加害者はそういうことを言わせないようにしているとか、あるいは言えそうにない人を意図的に選んでいるとか、そういうことだってあると思います。
狭い世界で行われているが故に、虐待やDVに似ている面もあると思います。被害者自身が被害を自覚しづらい環境にあるということです。
――選手から見たら監督は権力者ですよね。
そうなってしまいますよね。選手は弱い立場です。ただ、そうなってしまうと、結局は監督もやりづらくなる面があると思いますね。監督は監督で試合に選手たちを絶対に出さないといけないので。
――どうやったら防げると思いますか。
今季が始まる前、リーグに所属する選手たちはセクハラについて講習を受けたんですね。自分の好きな時間に動画を視聴するという形式で。全部で1時間か1時間半程度の動画でしたが、特徴的なのは、それが3分ぐらいで分割されているんです。
一つの動画が終わると理解度を問う質問が出てきて答える形になっていて。回答しないと次の動画が見られないので、否が応でも確認するようになっています。
例えば90分連続の動画だと、ただ流しておけばいいということになりがちなんですが、こうやって分割されて、しかも確認質問が出るので、何がハラスメントに該当するかがよく理解できましたし、このレベルのことであれば相談しないといけないんだということも意識するようになりました。
こういう講習をシーズンのはじめに受けておくと、セクハラやパワハラに当たる行為がよく分かります。ハラスメントにおいて何が問題かというと、まずは法に触れるかどうかですよね。もちろん、法律がすべてではないですが、この点はすごく大事なところだと思います。
こうした知識を選手やスタッフたちと共有しておくことで、ハラスメント行為をしようとする人への「抑止」になると思います。自分たちが動画講習を受けているということを相手も知っていれば、容易に変なことはできなくなるでしょう。
私のチームの監督は男性です。問題発覚後に、彼と一対一で話をすることがあったんですね。監督室に入ると、ドアはほぼ全開状態にしてくれて、密室にはならないように配慮してくれていました。
日本でも同じようにしてくれる男性の監督はいますね。数年前からそういう人が出てきました。
――チームやオーナー、リーグができる防止策は何だと思いますか。
選手会が今回の件を受けてリーグ側に相談窓口の設置を要望しているので、それが実現すればいいと思います。
それがリーグだけでなく、各チーム内にもできれば。それから役所のような、リーグとは別の第三者的な相談機関に関する情報も周知して欲しいです。