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女性研究者は16%の衝撃 OECD最低レベルの現状に沖縄から挑戦する

美ら島の国境なき科学者たち
沖縄科学技術大学院大学(OIST)が開いたサイエンスワークショップ「ハイサイ・ラボ2021」に参加する沖縄県内の中学生と高校生の女子生徒ら
沖縄科学技術大学院大学(OIST)が開いたサイエンスワークショップ「ハイサイ・ラボ2021」に参加する沖縄県内の中学生と高校生の女子生徒ら

日本には世界水準の研究機関や大学があり、技術分野で最先端の研究や開発が進んでいます。

しかし、他の先進諸国に比べて遅れを取っている点があります。それは、科学界への女性の進出を阻む障壁がまだ多く残っていることです。

科学技術分野における女性の割合が小さいことは世界的な課題ですが、日本の状況は特に衝撃的です。2020年に全国で実施された最新の大規模調査(総務省による令和2年科学技術調査研究結果)では、女性研究者数は増えてきてはいるものの、すべての研究者のうち女性が占める割合は16.9%にすぎず、OECD加盟国の中で最低レベルです。

OECD加盟国などの女性研究者比率(%、2018年のデータがある国を表示)=総務省の「2020年(令和2年)科学技術研究調査結果の概要」より作成
OECD加盟国などの女性研究者比率(%、2018年のデータがある国を表示)=総務省の「2020年(令和2年)科学技術研究調査結果の概要」より作成

このような男女格差が生じるには様々な理由がありますが、女子に対して特定の理工系科目を勧めないことや女性の功績を軽視する職場文化、子どもを産みたいという人へのサポートの欠如などが挙げられます。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)では、スタッフや研究者、学生らがこの課題の解決に向けた取組みを始め、より多くの若年女性に理数系(科学・技術・工学・数学=STEMとも言います)科目を勧めています。

OISTで中高生向けの科学教室などを主宰する科学教育アウトリーチチームを統括するミラー・メリアさんは、こうした社会的な状況を変え、これまで科学にあまり興味がなかったり、苦手意識を持つ人なども含めてすべての人が科学に携われるようにすることを目標に掲げています。

「科学のアウトリーチ活動は、若いうちに行うことが重要です。科学に触れる機会が少なければ、子どもたちの将来の選択肢が狭まってしまいます。OISTがSTEM教育を推進することで、子どもたちに選択の機会を与えたいと考えています」とメリアさんは説明します。

沖縄で生まれ育ったメリアさんは、子どもの頃は獣医になりたかったそうですが、科学の世界に飛込んだのは、いい意味で偶然だったといいます。琉球大学の理学部海洋学科(当時)の学士課程に進むと、この分野に夢中になりました。

「沖縄周辺の海はとても美しく、多様性に富んでいて、それを学ぶのは素晴らしいことでした」。そうメリアさんは言います。

メリアさんは、海洋自然科学を専攻し、サンゴ礁の生態系や潮間帯(潮の干満により露出と水没を繰り返す場所)に的を絞って研究することにしました。

メリアさんは大学卒業後、迷わず科学アウトリーチの分野に進みました。「大学生の時に、親子参加プログラムに携わったことがありました。その時、参加者がとても喜んでくれたんです。沖縄の人たちは海のすぐ近くに住んでいるのに、海のことをあまり知らないので、こういったプログラムは海のことを知ってもらうとても良い機会だと思い、こうしたアウトリーチ活動に力を入れることにしました」

恩納村の中学生に講演を行うミラー・メリアさん
恩納村の中学生に講演を行うミラー・メリアさん

メリアさんの科学教育者としての最初の勤務先は、沖縄で教育関連のエコツーリズムを行う会社でした。しかし、すぐに活躍の場を地球の裏側にあるイギリス・ロンドンへ移し、水族館を擁するホーニマン博物館でボランティア活動や勤務を行いました。

その後、沖縄に戻ったメリアさんは、美ら海水族館を擁する美ら島財団で一般向け海洋学習プログラムの企画や、 学校向け教育旅行などを対象とした自然や文化体験プログラムの運営を担いました。

そして現在は、OISTで、地域社会でSTEMを普及させることに取り組んでいます。

国際女性デー(3月8日)から5日後の3月13日、著者はメリアさんを始めとするスタッフやボランティアの方々と一緒に「HiSci Lab (ハイサイ・ラボ)」に参加しました。このイベントは、女子中高生が、現役の女性科学者やOISTで研究をしている科学者と出会い、一緒に科学研究やワークショップを行うものです。

ハイサイ・ラボでは、ジェンダー不平等と貧困という二重の問題を抱える沖縄の女子学生に特に焦点を当てています。

「沖縄は他県に比べて世帯収入が低く、教育水準もそれほど高くありません。今ここにOISTがあることで、地元沖縄の子どもたちに教育の機会を増やし、人生の選択肢を広げるお手伝いをすることができると考えています」とメリアさんは説明します。

今年は新型コロナウイルス感染症の流行を受けて規模を縮小しましたが、全部で15名の女子学生を招待しました。そのうちの5人は、石垣島、宮古島、久米島などの離島から参加しました。

OISTのスタッフやボランティアと ハイサイ・ラボ参加者の地元沖縄の女子学生。後列右から5番目がメリアさん
OISTのスタッフやボランティアと ハイサイ・ラボ参加者の地元沖縄の女子学生。後列右から5番目がメリアさん

プログラムの午前中は、OISTの技術者で沖縄出身の女性神経科学者である赤嶺裕美子さん、枡鏡優美子さん、髙橋愛さんの3人とお話をする機会が設けられました。

3人の女性技術者が、科学に関わるようになったきっかけについて参加した女子学生に話す
3人の女性技術者が、科学に関わるようになったきっかけについて参加した女子学生に話す

参加者の一人は「研究者の方たちに質問したり、OISTで今行われている研究について聞いたりすることができたのがよかったです。普段は、このように科学者の方から直接お話を聞く機会はありません。私は今、STEM分野の職業を選択肢として検討していて、将来は大学院に進学して研究職に就くことを真剣に考えています」と、感想を述べてくれました。

午後のプログラムでは、OISTの博士課程の学生であるオティス・ブラナーさんが企画した科学活動に参加し、OISTのある恩納村のビーチで潮間帯の探索や調査を行いました。

海水が後退する干潮時に砂浜や岩間の水たまりや海草の中に潮間帯海洋生物が多数見られる。浅瀬ではサンゴ礁も見られる
海水が後退する干潮時に砂浜や岩間の水たまりや海草の中に潮間帯海洋生物が多数見られる。浅瀬ではサンゴ礁も見られる

メリアさんは「沖縄に住んでいてもビーチに行ったことがなかったり、今日見たような海の生物に出会ったことがなかったりする人が多くいました。彼女らが夢中になっている姿を見て、とてもよかったと思います。このプロジェクトをきっかけにサンゴ礁の保全にも関心を持ってもらえたら」と言います。

潮間帯の調査を行う女子学生らを手伝うメリアさん(左)
潮間帯の調査を行う女子学生らを手伝うメリアさん(左)

メリアさんは今後、イベントの規模や期間を拡大し、より多くの女子学生に化学や物理など、他の分野の科学も体験してもらいたいと考えています。

最後に、メリアさんは次のように希望を語ってくれました。

「今の私たちの活動が、将来なんらかの形になるといいな、と思います。OISTには学士課程はありませんが、OISTが参加者の科学への好奇心を引出し、彼女たちが科学に対して良いイメージを持ってくれれば、いつの日か、彼女たちがOISTでの博士号取得や就職を志望してくれるかもしれません」

午後のプログラムで恩納村の海岸調査を行った後の様子。前列右側がメリアさん
午後のプログラムで恩納村の海岸調査を行った後の様子。前列右側がメリアさん

(OIST広報メディア連携セクション ダニエル・アレンビ)