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女性ばかり肌の露出が求められるドイツ ボディースーツの体操選手が問いかけるもの

ニッポンあれやこれや ~“日独ハーフ”サンドラの視点~ 
ボディースーツ型のユニフォームを着用し、練習するSarah Voss選手=5月、ドイツ・ケルン、ロイター
ボディースーツ型のユニフォームを着用し、練習するSarah Voss選手=5月、ドイツ・ケルン、ロイター

「肌の露出を避けるために全身を覆う服を着る女性」と言うと、ドイツの人たちは反射的に「イスラム教徒の女性」を思い浮かべがちです。

たとえば2016年のリオ五輪の女子ビーチバレーでドイツと対戦したエジプトの選手は全身を覆うユニフォーム姿でした。

これに対し、ドイツ選手は肌の露出が多いビキニ姿。2人の対戦は文化の違いを象徴していました。

ドイツにはトルコ系を始め多くのイスラム教徒が住んでいます。イスラム教徒の女性が着用する肌の露出を最小限におさえた水着「ブルキニ」が、ドイツ社会でもようやく認められつつあります。

でも実は「ブルキニ」について一筋縄でいかない面もあります。過去にはラインラントプファルツ州の市民プールでブルキニの着用が禁止され、イスラム教徒の女性が州を相手に訴訟を起こしました。

同州の高等行政裁判所は2019年、「ドイツの基本法には宗教の自由があるため、ブルキニの着用を禁止するのは法律違反」だとして女性の訴えを認めました。それ以降、ドイツでは少しずつブルキニへの理解が深まってきています。

ブルキニを着るイスラム教徒の女性=2016年9月、オーストラリア、郷富佐子撮影
ブルキニを着るイスラム教徒の女性=2016年9月、オーストラリア、郷富佐子撮影

その一方でドイツには「肌の露出が多くなければ水着とは言えない」という、「水着とはこうあるべきである」とした固定観念も根強く残っています。

そのため女性が「肌の露出の多い水着を着たくない」と感じても、イスラム教であるなど「宗教上の理由」がなければ、世間はそれを認めないようなところがありました。

Voss選手がドイツでこれほど話題になったのは、「宗教上の理由からではなく、自らの意思で全身を覆うスーツを着ることを選択したから」だと筆者は見ています。

本来のレオタードではなく、肌を覆うパンツスタイルのユニフォームを選んだ理由についてVoss選手は次のように語りました。

「体操をしていると、体操着がずれる不安、そしてその姿を狙ってカメラがズームするという不安が常にある。体操をしている思春期の女の子の中には、露出の多いレオタードの体操着が原因で体操を続けたくないと考える子もいる。そういう女の子に対して『こういう(パンツスタイルの)衣装もあるんだよ』と勇気づけたい」

Voss選手自身、子供の頃は露出の多いレオタードが気にならなかったそうですが、思春期になり大人の女性の体型に近づくにつれ、レオタードの着用を「居心地悪い」と感じるようになったと話しています。

その一方でVoss選手は、今後また肌の露出の多い体操着を着るかもしれないとも話しており、レオタードを全面的に否定しているわけではありません。ロイター通信のインタビューの中で印象的だったのは、Voss氏が「大切なのは女性が自由にユニフォームを選べること」と語っていたことです。

また、Voss選手はインタビューで「女性のズボン(パンツスタイル)の体操着は2012年から許可されている」は2012年から許可されていると指摘し、実用性や自分の好みを考え、上下をつなげるスーツスタイルにしてみたといいます。ラメが入っている赤と黒のスーツはVoss選手自身がデザインしたものです。

パンツスタイルの体操着を着用することに対して、ドイツでは多くのポジティブな反応が見られました。

女性主任コーチのUlla Koch氏はVoss選手のパンツスタイルを応援しており、同じチームの女性体操選手のElisabeth Seitz氏やKim Bui氏もパンツスタイルで体操をするようになりました。

ドイツのかつての女性体操選手のNaomi van Dijk氏も、Hessischer Rundfunkのインタビューの中で新しいスタイルの体操着を堂々と着ているVoss選手を絶賛しており、自身のキャリアを振り返りながら「かつて『練習』の時にはズボン(パンツスタイル)を履くことが許可されていましたが、『本番』になった途端に肌の露出を強いられました。パンツスタイルだと昔は減点されたのです」と語りました。

アスリートの体操姿の写真を性的に消費することについては、日本のみならず近年世界でも問題視されています。Naomi van Dijk氏は「大会中に写真を撮られることもあり、その写真がどのように使われるのか分からないという懸念がありいつも不安でした。パンツスタイルであれば自分で自分を守ることができます」とも語っています。

筆者のドイツに住む知人の女性たちに聞いてみたところ、「体操選手は体操の出来で評価されるべきなので、女性だからといって、露出の多いユニフォームを着用させられるのはおかしい」「(ドイツは)体操選手ではない一般の女性も普段パンツスタイルが多いのだから、体操選手がパンツスタイルなのは自然」「今まで自由に体操着を選べなかったことのほうが、むしろおかしい」「やっと、女性が自由に選べる時代がきてうれしい」と概ねVoss選手のパンツスタイルを支持するものでした。

筆者はドイツで育ちましたが、オペラ鑑賞や社交ダンスの場など「正装」が求められる場で女性にばかり肌の露出が求められることに疑問を感じていました。「相手を不快な気持ちにさせない」ための正装ではありますが、やはり「着ている本人が居心地がよいと感じる格好(服装)であること」も大事だと思います。

体操選手が能力を競い合う選手権やオリンピックという場ではなおのこと、自分が着用して居心地がよいと感じるユニフォームを身に着けることは理にかなっています。

かつての女性のファッションの多くは場を問わず「男性から見て素敵に見えるファッションであるかどうか」を基準にデザインされてきました。でも今の時代は「当事者の女性が身に着けて居心地よいと思える服装かどうか」が問われているのではないでしょうか。