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この服を着て何が悪い? 服装で批判される北欧の女性政治家(前編)

ノルウェー通信 更新日: 公開日:
Tiden Norsk Forlag

北欧諸国といえば、ジェンダーやフェミニズムの考えが進んだ国のイメージが強いかもしれない。確かにそうだろう。私もノルウェーに住んでいて、女性の外見に対する評価や期待が少ない社会で、生きやすいと感じる瞬間が多い。

今回、ノルウェーでは野党・労働党のハディア・タジク副党首が騒動の人となった。ノルウェーで「労働党の副党首」というのは「未来の首相候補」を意味するので、ものすごい権力と影響力の持ち主ということになる。

議論の的となっている、発売されたばかりの彼女の自伝『FRIHET』(「自由」という意味)の表紙写真を見てみよう。フェミニンなグリーンのスーツをまとったタジク氏が、男性がよくやるように足をばーんと開いて座り、前を見据えている。

事の発端となったのは、新聞に掲載された批判者の声。その指摘によると、この写真は英国の官能小説「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」を連想させるらしい。「セクシュアル化されたポートレート写真」が本の中で発せられる政治的メッセージの良さを壊し、これからの他の若い女性が政治に与える影響力をも壊しているというのだ。

この批判が「男性だったら同じことは言われないだろう」「今の時代、ノルウェーは女性は好きな恰好をできる国だと思っていた」と他の人々を驚かせ、苛立たせることになった。

著者であるタジク氏も、「保守的な男性からの非難かと思ったら、学術界の女性の発言ときた。緑色の服を着た女性が、労働組合の活動に熱心であってはいけないのか?チェックのシャツを着ていなければ、労働党の政治家として信頼は得られないのか?」などと言い返した。ちなみに、労働党のシンボルは赤で、緑は他党または労働党とはイメージがかけ離れた政策を意味することもある。現地では公共放送を含む多くのメディアで議論が巻き起こっている。

ちょっと説明を加えると、北欧の中でもノルウェーの政治家は特に、カジュアルで普通の人っぽい、労働者っぽい恰好をするのを好む傾向がある。北欧の人々は平等を愛するがゆえ、裕福でエリートっぽさがでる政治家は不利だからだ。労働党=労働者の味方の労働党トップならなおさらで、男性であれ女性であれ、経歴や外見が「普通の市民」「労働者っぽく」ないと、最もぎゃーぎゃーと言われやすい。タジク氏の場合は「伝統ある政党だから」さらに議論がこじれているというのもある。

フィンランドといい、ノルウェーといい、「北欧でもまだこの段階か」と私は同時発生している議論を観察中だ。

一方で、私が気になったのは、本の表紙にこの写真を選んだ出版社側の狙いだった。どういう服装で、どういうポーズをするか、本人だけでなく編集側も一緒になって考えるのが普通だ。特にフィンランド雑誌はある程度の反応がくることは予想できていたのではないだろうか。私はこの自伝の出版元であるティードゥン出版社(Tiden Norsk Forlag)の広報グロ・ヨハンセン氏(Guro Johansen)に話を聞いた。

――写真に対してこのような反応がきたことに驚きましたか?

「タジクのフェミニンな服装や足を開いた座り方という、写真のあいまい性が目を引くであろうことは計算していました。本の中でも指摘されていますが、他人の期待や基準は、人々の自由を制限します。とはいえ、まさか写真がセクシュアルという観点で批判がくるとは思わなかったので驚きました」

――出版社と作家とはどのような経緯でこの写真にしようと決めたのですか?

「彼女は政治的な内容に加えて個人的な話も詰め込んだので、政治家の本としては異例の内容になりました。だからこそ、表紙の写真もよくある政治家のポートレート写真とは当然違うものにしようと。他にも撮影した候補写真はありました。白いシャツ、ベージュの上着とか。でも最終的には出版社、作家、写真家みんなで話し合い、この写真が一番だと同意しました」

――写真への批判をどう思いますか?

「この騒動の元となった評論は見当違いだと思っています。幸運なことに、私たちに同意する人も多い。タジクを応援して、足を開いて座る写真をSNSに掲載する人々も出てきました。タジクを1人の人間として、そして政治家に対する姿勢への評価でしょう」

――ノルウェーではまだ平等やフェミニズムにおいて、やるべきことがあると感じますか?

「批判に対してタジクがした反応が物語っていることはこうです。この議論は、女性が未だに多くのダブルモラルと交差しあう期待にぶち当たっていることを証明しています。ここが平等の国、ノルウェーであっても」

――最後に、フィンランドの首相の写真が発端となっている議論をどう思いますか?

「フィンランドの議論が示しているのは、先進的といわれる北欧諸国でもこのテーマは未だに実在しているということです。世界的にみて北欧は平等とフェミニズムでは特化していても、ジェンダーにおいては未だに構造的な差別と偏見が意識的に、そして無意識的に、男性にも女性にも根付いています。このことを自覚して、平等を枕の下に眠らせないことが重要です。そういう意味では、このような議論が起きることは健康的でもあるといえますね」