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ミツバチに迫る小さくとも大きな脅威を探れ!

美ら島の国境なき科学者たち
研究のために飼育しているミツバチの巣
研究のために飼育しているミツバチの巣

農産物直売所(ファーマーズマルシェ)が大大大好きな私は、沖縄に来てからというもの、毎週土曜日は、何も買う必要がないときでさえも、農産物直売所に通っています。新鮮な果物や野菜でいっぱいに満たされた棚が並ぶ通路より魅力的なものって他にあるでしょうか。それは私にとってはまるで芸術作品のよう。さまざまな色が混ざり合い、不揃いな形でさえも魅力的で、さらにそれが素晴らしい味わいまで持っているのですから。

果物と野菜は、私の大切な思い出の中心にもなっています。特にお気に入りの思い出は、子どもの頃、家族とコミュニティガーデンへ通ったことです。私の両親は、そこに2区画をもっていて、トマト、大根、ニンジン、ピーマン、メロン、トウモロコシ、ジャガイモなどを育てていました。トマトを摘んだりニンジンを収穫するたびにはしゃぎ回ったことをよく覚えています。そんなに嬉しかったのは、それらの野菜が、大変な作業によってやっと手にできることを知っていたからです。

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OISTのある恩納村の「おんなの駅なかゆくい市場」で購入した食材を持つ筆者のエリカ。サイエンスコミュニケーションフェローとして、OISTに2月から着任。

そう、私がファーマーズマルシェが好きなのは、豊富な野菜をたくさん生産するために農家さんがされているたゆみない努力に敬意を表しているところが大きいかもしれません。母国であるアメリカの大学では、持続可能な農業(サステイナブル・アグリカルチャー)を勉強し、農業や農作物に対する愛を深め、個人的なレベルを超えて、日常生活のあらゆる面からそれらを見るようになりました。私にとっては、農業が、あらゆることやものと何らかの形で関係を持つようになったのです。

ところで、農業は私たち人間の労働によってのみ成り立っているものではありません。他にも貢献者がいるのです。そのひとつが、ミツバチです。夏が来ると、この賑やかな仲間をたくさん見かけるようになりますね。彼らが農業において重要な意味をもっているのは、実は彼らが勤勉な花粉媒介者であるからなのです。

アメリカで行われている「Save the Bees」などのキャンペーンにより、ミツバチの重要性が一般にも知られるようになり、より多くの人が、私たちの日常生活におけるミツバチの役割について知る機会が増えているようです。

沖縄で蜂蜜の製造・販売を営む小浜養蜂場の小浜守常さんは、ミツバチに囲まれて育ちました。小浜さんは、沖縄のミツバチの重要性について説明してくれました。

「沖縄は年間を通じて暖かいので、冬の間も蜂の数を増やすことができます。県外では、ミツバチは冬の間は数が減ります。そして春が来て、本格的な野菜生産が始まりますが、農家は、冬の間に減少したミツバチの回復を待っていると時間がかかるため、ミツバチの数が自然に増えるまでの間、沖縄から花粉交配用にミツバチを購入しているのです。」

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沖縄科学技術大学院大学(OIST)で飼育している健康なミツバチの巣。

ミツバチにとって完璧な沖縄の気候は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の生態・進化学ユニットの博士研究員であるマエヴァ・テシェルさんが、ここにやって来た理由の1つです。ただ、亜熱帯・熱帯環境で生活することは、マエヴァにとって目新しいことではありません。彼女はマダガスカルのすぐ東にある島、レユニオンで生まれました。 マエヴァは、ミツバチがインド洋の島々に、人間が定住するよりも以前から、どのようにして自然に存在していたのかを調べていましたが、最近ではDNAを使ってミツバチの謎を解く「探偵」のような仕事を始めました。

「研究のために初めてミツバチの巣箱を開いてから、それまでミツバチや、それに刺されることに対して抱いていた恐怖はすぐに消えました。」とマエヴァは言います。「むしろ、巣の中がどれほど組織的で複雑なものであるかに驚きました。私のお気に入りは、色々な花から蜜を吸った後に、様々な色の花粉をまとって巣に戻ってくるミツバチを見ることです」

マエヴァの同僚ヴィエナ・コヴァリックさんがミツバチの巣箱を見に行くというのでついて行き撮影。 研究のためにいくつかのサンプルを研究室に持ち帰るべく作業をしている。

マエヴァは、ミツバチを死に至らしめる、最も恐ろしい敵のひとつ、バロアダニ(ミツバチヘギイタダニ)を調査しています。私も、彼女に連れられて巣箱を見に行ったとき、最初はこの、針を持った子たちがすごく怖かったのですが、一旦深呼吸をして見回してみると、この子たちは、自分の仕事を淡々と行っているだけであることに気付きました。そして、なぜ、巨大なマシュマロのような人間(私)が入ってきて、自分たちの写真を撮っているのか少し混乱もしているようでした。

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バロアダニを調べるために巣箱を準備しているマエヴァ・テシェルさん。ミツバチたちを落ち着かせるために養蜂専用の煙を使う。

バロアダニを知ろう

「バロアダニに抵抗性がなく、なんの処理もされていない群(コロニー)の場合、おそらく2〜3年以内にコロニーのハチは全て死滅するでしょう」とマエヴァは言います。

バロアダニがコロニーに侵入すると、まず、彼らはミツバチに自分自身を縛り付けて、そして幼虫にたどりつきます。ダニは幼虫の血を吸い、幼虫の中に卵を産み、それが孵化するまで待ちます。ミツバチが出現すると、もうその後は簡単です。バロアダニはハチからハチへと乗り移って同じことを繰り返します。

「あなたが歩いているとき、働いているとき、または休んでいるときに小さな猫が常にあなたの体にしがみついて血を吸っていると想像してください」とマエヴァは言います。 「これが感染したミツバチがバロアと共存しているときの感覚です。それは血を吸うだけでなく、羽を傷つけたり麻痺させたりさえするウイルスを感染させます。」

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若いハチに寄生するバロアダニ。写真提供:Dr. Maeva Techer

このダニはアジア原産であり、日本にも存在していましたが、今では世界中のほぼあらゆる場所に見られます。 1世紀ほど前までは、バロアダニは大きな問題ではありませんでした。しかし、ミツバチの輸出入によって、アジアのミツバチから西洋のミツバチに感染し、世界中に広がってしまいました。ただ、現在のところ、オーストラリアではまだ確認されていません。

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オーストラリアのバロアダニのいないコロニーを確認しているOISTのアレクサンダー・ミケェエブ准教授。提供:Prof. Alexander Mikheyev

OISTの生態・進化学ユニットを率いるアレクサンダー・ミケェエブ准教授は、次のように述べています。 「ニュージーランドでは、島国で周りから隔離されているうえに、厳格な検疫が行われていたのにも関わらず、2000年代初頭にはバロアダニに感染してしまいました。ですから、バロアダニがオーストラリアに到着するのは、時間の問題だと見られています。」

バロアをストップ!

バロアダニに感染したコロニーは通常、養蜂家によって農薬で処理されます。これらの農薬はバロアダニの数を減らすのには役立ちますが、コロニーやミツバチにもダメージを与えます。

「バロアダニは養蜂コストを上げ、それが農業のコストをも上げてしまう可能性もあります」とミケェエブ准教授は言います。

マエヴァは、バロアダニを阻止するために、バロアダニが隆盛してきた道を遡って分子レベルから研究をしています。

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研究室でマエヴァが見せてくれたバロアダニの拡大写真。

「世界的な広がりを経てどのようにバロアダニの数が増加してきたのかをよりよく理解し、バロアダニをゲノム(生物の設計図)からもっと深く研究することによって、彼らの繁殖の手がかりを見つけ、さらに弱点を見つけたいと思っています」とマエヴァは研究の目的を説明します。 「バロアダニのサクセスストーリーを学ぶことで、将来的に他の類似種が侵入することを予測したり防止したりすることができると考えています」

バロアダニを深く理解することができれば、彼らの遺伝的構造や進化をターゲットにしたより良い方法を開発することができ、うまくいけばいつか彼らを根絶することができるかもしれません。

マエヴァはこれまで、沖縄で、何度も自分の研究を紹介してきました。先月このコラムでご紹介したNerd Nite Okinawaでも発表したこともあります。彼女は、このミツバチの大敵について一般の方が知識をもつことの重要性、そしてミツバチ自体の重要性を強調しています。

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宮古島の高校生に、バロアダニの脅威を話すマエヴァ。マエヴァはこうした地域住民に対する科学コミュニケーションに積極的に参加している。

「ほとんどの人はこの寄生虫の存在を知りません。私たちが情報を共有し、ミツバチに起こっている問題をできるだけ意識してもらうことが大切だと思っています。彼らの侵略は、何げないふとしたきっかけから始まりますが、こんなに小さなダニが私たちの生活に関わる大問題になる可能性があります」

様々な人にミツバチの問題を知ってもらうツールのひとつとして、マエヴァは、小さな子どもも楽しみながら学べるように、2018年のOISTサイエンスフェスティバルのためにゲームを作りました。

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マネヴァの手作りゲーム。登場人物は、実際の研究メンバー。
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OISTサイエンスフェスティバルでミツバチに親しみを持ってもらうよう説明をするマエヴァ。

(エリカ オバーフェルト OISTメディアセクション)