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博士課程の学生が立ち上げたオタクのイベントってなんだ!?

美ら島の国境なき科学者たち
Nerd Nite Okinawaの一場面。登壇者と参加者が一体となる高揚感がある。写真提供:OIST

皆さんは、長かった一週間の終わりの金曜の夜、何をして過ごしますか?同僚と居酒屋に繰り出したり、恋人と食事に行ったり、または家に直行してNetflix、などなど、様々なお楽しみがあると思います。ここ、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の科学者たちが、金曜日の夜のお楽しみにしているのが、Nerd Nite Okinawa(直訳すると、オタク・ナイト沖縄、でしょうか)。毎月第二金曜日の夜、沖縄本島中部にある人気スポット、北谷で行われている、オトナのための少し知的で刺激的なソーシャルイベントです。

Nerd Niteは、2003年に米国ボストンで、当時学生だった1人の進化生物学者によって始まったトークイベントです。基本的に夜にバーで開催され、参加者はドリンクを片手に、2、3人の「オタク」による、クスッとおかしい、そして知的好奇心を刺激されるようなプレゼン発表を楽しむことができます。3年後の2006年にはニューヨークでも開催されるようになり、現在では北米を始めとする世界各地の100以上もの都市で開催されているとのことです。

このNerd Niteが沖縄で始まったのは、2018年の10月。きっかけはOIST博士課程学生のマギーが、Nerd Nite Tokyoにスピーカーとして参加したことでした。

Nerd Nite Okinawaを立ち上げたOIST博士課程学生マギー・ブリズビン・マーズさん 写真提供:OIST

OISTで、海に住む微細な生物プランクトンを研究しているマギー(彼女の研究内容はこちら)は、海洋生物学者の卵として、海の環境問題にも高い関心を持っています。ニューヨークから進学のために沖縄に来て、スーパーなどで売られている食品の過剰包装や、レジ袋の使用を目にして残念に思い、勉強のかたわら、周りの人にプラスチックがもたらす海洋ゴミ問題について知ってもらい、普段の生活から少しでもプラスチックゴミを減らしてもらうための啓蒙活動を積極的に行っています。

Nerd Nite Okinawaを立ち上げたOIST博士課程学生マギー・ブリズビン・マーズさんが中心となって活動しているOIST ECOクラブ。クラブが開催した環境イベントでの一場面。右は「サンゴの村宣言」をした恩納村(OISTがある場所です)のマスコットキャラクターであるSunnaちゃん。写真提供:OIST

筆者はOISTの研究成果や、実際に研究している人物をなるべく多くの人々に知ってもらうための広報の仕事をしていますが、マギーが同級生とともに取り組んだサンゴ礁の保全につながる取り組みについて、沖縄の人だけでなく、さらに多くの人に知ってもらえればと考え、東京で行われていたNerd Nite Tokyoでその体験を話してはどうかと彼女にに勧めたのです。

埼玉にある理化学研究所で働くサイエンスコミュニケーターのアマンダ・アルバレスさんと彼女の友人たちが2016年6月から開催しているNerd Nite Tokyoは、毎回50名から100名ほどが集まるという人気ぶり。集まるのは、東京や近郊に住む外国人研究者をはじめ、ジャーナリスト、外交官、ビジネスマン、学生など幅広い分野で活躍している人たちですが、最近では来日中の観光客も顔を出すそうです。ビールを片手に、一人の「オタク」(研究者や専門家)が熱中していることについて20分ほど話をし、その後会場のみんなが発表者に自由に質問を投げかけるというものなのですが、なんとも言えない高揚感や一体感が生まれ、盛り上がるイベントです。

このNerd Nite Tokyoにマギーは2017年の9月に登壇し、発表は大成功。沖縄本島沿岸の4地点で、人間活動が与える影響などサンゴ礁の健康度を10か月間調査した結果は、壮絶なものでした。国連環境計画が、自然のままのサンゴ礁を保つ入域制限を1年で6千人としている中、ある人気のダイビングポイントでは、1日で5千人を超える日もあったといいます。2016年に沖縄のサンゴ礁に起こっていた大規模白化問題や、私たち人間が直接的にサンゴにもたらす問題などは、東京で生活する外国人にはあまり耳慣れない話題でしたが、「沖縄の海をなんとか救いたい」と、情熱を込めて語るマギーに、会場にいた人々は引き込まれていました。その時参加していたThe Japan Timesの記者さんが、その話を記事にしてくれるほどでした。

Nerd Nite Tokyoの感動が忘れられなかったマギーが、沖縄に戻ってしばらくして筆者にこう言いました。「沖縄でもNerd Niteをやりたい。」それからマギーは、あっという間に会場となるEsparza’s Tacos and Coffeeと交渉し、地元の琉球大学の博士課程学生でオーストラリア出身のジャスミン・ミルマンさんなどの協力者やスピーカー候補を見つけてきました。マギーの考えは、「沖縄には、OISTの外にも英語を話す人が沢山いるし、他大学や団体で働いている科学者や、専門家もいる。普段あまり出会うことのないそうした人たち同士を結びつけ、好奇心の強い人たちが気楽に楽しめるようなイベントにしたい」ということ。

Nerd Nite Okinawaの ”Boss”(管理者)であるマギー。毎回安定して多くの観客を集めている。写真提供:OIST

その言葉通り、第一回のイベントから今まで全6回、スピーカーとして、OISTの研究者のみならず、琉球大学、米軍基地関係者などを迎えてきました。話題も、ミツバチに危機をもたらしている害虫(これについては来月のコラムでご紹介する予定です)、腸内細菌を喜ばす食事の話、量子コンピューター、沖縄の海に生息するタコやイカの生態の話など、多種多様です。さらには、話を聞きに来る人たちも、そのバックグラウンドは様々で、その顔ぶれを見るだけでも、沖縄でのこのイベントの意味はすごく大きいのではないかと思っています。

「沖縄で開かれたNerd Niteの様子」
沖縄にこんなに英語を話す「専門家」がいたのか、と驚かされる。この時登壇したのは、グラフィック&ウエブデザイナーのシェリル。仕事を見つける際にネットワーキングがいかに大事かを話してくれた。写真提供:OIST
Nerd Nite Okinawaに会場を提供しているEsparza’s Tacos and Coffeeのオーナー、Marc Esparzaさん。Nerd Nite Okinawaの構想をマギーから相談されたとき、「まさに、自分がやりたかったイベントだ!」と感じたそう。写真提供:OIST

筆者がNerd Niteに参加するたびに感心させられるのは、発表後の質疑応答の活発さ。20分程度のプレゼンに、会場から次々と質問が寄せられ、発表者も軽快な回答。恐らく会場にいる人にとってはそれまで全く知識のなかった専門的な話ですが、活発な意見交流が生まれます。この、会場とスピーカーとの間に生まれるシナジーが、Nerd Niteを楽しくしているのだと思います。お酒の力が入ることもあり、まさに無礼講的な、でも知的で「ナード(オタッキー)」な質疑応答風景ですが、たとえあなたが英語が苦手でも、この雰囲気を見ているだけで、会場と一体化し、なんだか楽しい気分にさせられること請け合いです。

会場から盛んに質問が投げかけられる。写真提供:OIST

現在日本でのNerd Niteは、東京関西沖縄の三箇所で行われています。お近くのNerd Nite で、新たな刺激を受けつつ、楽しいお酒を飲む金曜日も、たまにはいいかもしれません。英語の勉強にもなりますよ。

(大久保知美  OISTメディアセクション )