地球温暖化を防ぐため、日本を含めた先進諸国は、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするという野心的な目標を掲げている。そのために化石燃料からCO2を出さない再生可能エネルギーへの転換は必須であり、現在の技術でも脱炭素化の大部分は十分に実現可能だというのが世界的な共通認識だ。
電力は、最も脱炭素化しやすいエネルギーだ。現在の世界全体の発電量のうち再エネ比率は約13%だが、太陽光と風力を中心に、今後7、8割を占めるようになると考えられている。
ただ太陽光や風力といった変動性再生可能エネルギーには、昼夜や季節によって発電量が変わる「変動性」と、天候などの条件によって発電量が予測できない「不確実性」という特徴がある。これまでは主に火力発電が供給の調整役を担ってきたが、脱炭素化で利用が難しくなる。そこで需給バランスの時間的なズレを調整するための「貯める」技術がカギとなる。
エネルギーの貯め方には数時間から数十時間で充電と放電を行う短期間の貯蔵から、数日から数カ月、さらに長期間にわたって貯めておくものまであり、それぞれに特徴がある。
これまでは位置エネルギーを利用する揚水発電が、唯一大規模に実用化された貯蔵手段だったが、近年、リチウムイオン電池など蓄電池が急速に発展している。要因の一つが電気自動車(EV)の台頭で、大量生産と技術革新によって大幅にコストが下がった。さらに再エネによる電力を使って水素やアンモニアをつくり、長期間貯める技術も研究や実証が進んでいる。
一昔前まで「電力を貯めるのはコストがかかりすぎて現実にはあり得ない」というのが常識だったが、わずか10年で完全に覆されている。ITのめざましい進化と同じくらい、日進月歩している。背景には、米国や中国が、国際情勢に左右されないエネルギーの国産化に注力したように、経済安全保障上の動機もあるだろう。
私たちが昨年3月に発表した日本の電力脱炭素化に関する報告書では、既に商用化されている技術で、CO2を排出しないクリーンエネルギーの比率を2035年までに9割にできることを示した。現在の日本の再エネ比率は約2割だが、太陽光と洋上を含む風力を中心に再エネを7割まで増やして蓄電池を活用することを想定している。この研究では、日本の政策目標に合わせてクリーンエネルギーに原子力を含めたが、電源構成の1割強に低減しても問題ないこともわかった。
エネルギーの安定供給のために、輸入品である「天然ガスを増やさないといけない」という議論をしばしば耳にするが、疑問だ。自給可能な再エネへの転換こそが、国際情勢に影響されないエネルギー安全保障の強化にもつながる。
「コストが高いので再エネを導入できない」というのも誤りで、私たちの試算ではむしろ、再エネ比率を上げることで2020年と比べて6%削減された。
日本の再エネ導入が欧米や中国と比べて遅い原因は、技術でもコストでもない。必要なのは、政策や制度の策定や見直しだ。再エネの導入を前提に含めた送配電網の整備計画や、需給バランスに合わせた柔軟な価格設定による電力需要の誘導なども有効だろう。発送電の分離が実質的に行われていないという問題もある。産業構造の変化も必要で、実現には強力な政策が不可欠だ。
電力の生産側には痛みをもたらす変化かもしれないが、脱炭素化という目標がある以上、避けては通れないことを理解するべきだ。現に、世界は再エネを中心とする社会に向かって進んでいる。日本でも十分に実現可能な未来像だ。そのための計画と行動がいま、求められている。