はじめまして!「社会の広告社」という社会テーマ専門の広告会社でクリエイティブディレクターをしている山田英治と申します。
もともと大手広告会社でCM制作をしていたのですが、わけあって商業広告ではなく社会の広告づくりを専門でやっています。そんな私、山田英治が個人的に「素晴らしい!応援したい!」と思った活動を実践しているソーシャルアクティビスト(社会起業家、NPO代表者ら)に会いにいき、お話しながら、その方が向き合っている社会課題をどう解決したらいいのか、つらつらとコラムで書いていきます。
1回目は、日本発の環境技術「ソーラーシェアリング」の普及に取り組む東光弘さんです。東さんは現在、千葉県匝瑳市(そうさし)エリアでソーラーシェアリングを実践しながら(株)TERRAの代表取締役として日本全国でもその導入を推進している方です。
まずは、そんな東さんが取り組むソーラーシェアリングについてご説明します。
ソーラーシェアリングとは、農地の上に短冊状の太陽光パネルを一定の間隔を空けて設置することで、発電をしながら畑や田んぼで農業もできる、つまりは太陽の光を「売電」と「農業」とでシェアできる仕組みのことを言います。
「え、それで、農作物が育つの?」。そんな疑問を持つ方も大勢いると思いますが、現在、全国の農地で実証実験も行われていて、作物ごとにパネルの角度を変えるなどの調節をすれば、一般的な農業と同様に美味しい作物を実らせることができるのだそうです。
当初、東さんもソーラーシェアリングに対して半信半疑だったそうです。東さんがソーラーシェアリングに出会ったのは2011年の東日本大震災の時。東さんは当時、有機農産物の流通の仕事をしていて、東さんが関わる多くの有機農家さんが原発事故により廃業に追い込まれました。
「これからは安心安全な農業のことだけではなく、エネルギーについても考えていく必要がある」
そう考えた東さんは、開発者の長島彬さんに会いに行きました。ただ、最初は「畑の上で太陽光パネルなんてけしからん!文句を言ってやろう」くらいの気持ちで行ったのだそうです。
しかし長島さんの畑で見た野菜たちが「僕たちは元気だよ」と言っているように感じられるくらい良好な生育状態で衝撃を受け、「この技術を広めたい!」と強く決意したのだそうです。
長島さんが開発した技術は、ある一定以上、植物に光を当てても光合成の量が増えないという「植物の光飽和特性」を利用したもので、農地の上に一定間隔の隙間を空けた太陽光パネルを設置しても、生育上問題がないとのこと。それについて東さんは以下のようなたとえで私に説明してくれました。
「もともと森の中でも植物って育ってますよね? まさにあれです。野菜だって、当たり前ですが植物なので、太陽光をある程度制限しても大丈夫なんです。つまり、ソーラーシェアリングの畑は、森の木陰で農業しているようなものなんです。だから木漏れ日の下で働く農家さんにも優しい技術なんです」
おー、なるほど。つまりソーラーシェアリングは、農産物による収入も確保できながら売電収入も得られるようになり、かつ下で働く農家さんにも優しいシステムということなのですね。
さらに言えば、再生可能エネルギーをつくるわけだから、温暖化対策にもなる!一石二鳥どころか、一石三鳥?四鳥?どころではない価値があるのではないか。農業就労人口がものすごい勢いで減っている日本において、ものすごく意義のある技術ではないか。
実際にソーラーシェアリングの技術は、2013年に農水省にも「営農型太陽光発電」として正式に認可され、全国で広がりつつあります。
今、世界ではアップル、アマゾンをはじめとするグローバル企業が、事業に関わるすべての電力を100%再エネにしようという運動「RE100」に参加しています。
日本の企業でもその動きは加速し、気候変動対策のパートナーとなる再エネ事業者を探している状況で、そんな中、農産物も収穫しながら再エネがつくれ、環境負荷の少ないサステナブルな仕組みとしてソーラーシェアリングが注目されるのは当然の流れかもしれない。
実際、東さんたちがやられているソーラーシェアリングでは名の知れた企業との共同事業がスタートしています。例えば、大手エネルギー会社ENEOSやSBI証券、パタゴニア、サザビーリーグなどとのコラボも。
参加している企業では、各店舗でその畑で作った電気を使ったり、社員が農作業に参加したり、共同で商品を開発したり、お金を出すだけではなく、様々なシェアが行われているのです。
また東さんは匝瑳市を拠点にしつつも、全国各地で様々な事業者とコラボしながらソーラーシェアリングの普及活動を展開。鳥取では国立競技場などのスポーツ施設で使う芝生を砂丘で育てるプロジェクトや沖縄ではコーヒー豆を栽培するプロジェクトも進んでいるそう。
東さん曰く「残念ながら地球温暖化がどんどん悪い方向に進んでいるので、自然エネルギーに対する企業からの投資は高まっていくでしょう」。気候変動や農業に対して国も企業も向き合わなければいけない時代に、ソーラーシェアリングが求められるのは当然のことかも知れません。
「ソーラーシェアリング」は、これからの農業と地域を支えるインフラになる。だからこそ「地域に還元する、幸せをシェアする気持ち」が大切。
関心のきっかけは原発事故
ここで私(山田)自身の話をしたいと思います。今回なぜソーラーシェアリングについて取り上げたいと思ったのか。実は元々私は大手広告会社にいた時に東京電力さんを担当していました。
原発はエコでいいね、エネルギー自給率が低い日本において正義だね、ということで、推進する側の立場で広告を作っていました。
しかし東日本大震災があり、福島で原発事故が起きました。私の祖父や親戚が多く住む福島をはじめ、幅広い地域が大変なことになりました。そのあたりから再生可能エネルギーを増やしていこうとFIT(固定価格買い取り制度)が始まり、全国各地で市民がお金を出し合って「市民発電」が生まれたり、開発業者が山を切り開き、メガソーラー(大規模太陽光発電)も誕生しました。
私自身、原発や化石燃料に頼らない社会にしていくために再エネを増やしていかなければならない、その流れを加速させたい!と思う一方で、仕事で各地に行くたびに目にするメガソーラーに対して、モヤモヤした気持ちがありました。
メガソーラーは、温暖化対策として環境を守るものなのか、山や景観を破壊して環境を壊すものなのか……。そんな時に知ったのがソーラーシェアリングという技術でした。
仕事で行った環境系の展示会でデモンストレーションをしていて、「うわ、なんじゃこりゃ、すごい!」と思い、微力ながら何か応援できることはないかとずっと思っていたのです。そんなこともあり、今回、東さんへのインタビューとなったわけなのです。
しかし、今回改めてソーラーシェアリングの現場を見させていただいて、東さんのお話を聞かせて頂き、その印象が変わりました。それは、ソーラーシェアリングは、ただの「太陽光発電の一種」ではないということです。どういうことか、東さんはこう語っていました。
「ソーラーシェアリングは、どちらかというと『農業』と考えた方が理解しやすいのではないでしょうか。畑の上にできた太陽光パネルでできた電気も『農産物』ととらえられます。昔、農家さんは農閑期に炭を焼いて町で売って現金に変えたり、いろんな生業がありました。その現代版だと考えるとわかりやすいかと思っています。また、ソーラーシェアリングはいろんな『つながり』を生み出すことができます。そういった『つながり』もまた『農産物』と言えると思います」
なるほど、参加している企業の社員さんが農作業体験をする、地域の人たちと収穫祭をしたり、一緒に商品を開発したり、そういったいわゆる社会関係資本(ソーシャルキャピタル)もまた「農産物」ということだ。
東さんはさらに続けます。
「2023年から日本でCO₂などの温室効果ガスの排出削減量や森林管理による吸収量を『クレジット』として国が認証し、企業や自治体が購入する制度『J-クレジット』がスタートしました。例えば、うちの農地のうち10%は『畑を耕さない農業( 不耕起栽培)』をしています。不耕起栽培をすると、微生物やミミズなどの生き物の力によって畑の中に炭素が残留するので、その量がきちんと測定できれば、これを『クレジット』として売ることができるのです。現在、我々の方で、不耕起栽培による炭素残留量の測定を進めていて、それが確かだと証明ができれば、『J-クレジット』の対象となります。自然の生態系を守れるような農業が広がることで、農家さんの収入も増やしていくことができるのです」
ソーラーシェアリングを真ん中に置くことで、たくさんの生業や関係性が生まれていく。たくさんの仕事をするから昔、農家さんのことを「百姓」と言うようになった、と聞いたことがありますが、まさにこの技術は、農業に新しい「百姓」としてのパワーを授けることができるのです。
「ソーラーシェアリングは農業と地域と未来を支えるエンジン」
東さんはインタビューの中でそう言っていました。今、農業にロボットやAI、ドローンが導入されはじめています。外に輸出するために高付加価値な農作物を作る農家さんも出てきました。その流れにソーラーシェアリングがプラスされれば、まさに「鬼に金棒」ではないでしょうか。
しかしそこに課題はないのでしょうか?東さんに聞いてみました。
課題は、ソーラーシェアリングそのものの認知と地域での担い手をどう育成するか。
東さんは言います。
「圧倒的な課題は、それぞれの地域で、地域特性を生かした農業を掘り起こせるかという一点です。農家さん側の担い手にどう繋がり、育成していくか、ということです」
確かに気候変動に取り組む企業からの出資は得られるとして、その担い手となる農家さんにまずはソーラーシェアリングの価値を伝えなければいけない。東さん曰く、地域にはまだまだ太陽光パネルに対するネガティブな印象をもつ方も多いのだという。
また、本当に農作物が育つかといった偏見もきっとまだまだあるでしょう。まずは、ソーラーシェアリングとは何か?この技術がもたらす様々な価値を「見える化」し、農業従事者に伝える必要があるわけですね。
そしてそもそもソーラーシェアリングについて知らない人が多い。2022年に関東エリアで行われたWEB調査では約7割の方が「全く知らない」「あまり知らない」という状況です(早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科の野津喬教授の論文をご参照下さい)。
実際私の周りでも環境意識が比較的高いのかなという人でさえ知らないことが多いです。
ここに我々の出番があるわけです。ソーラーシェアリングの認知を上げ、担い手を増やすための作戦をつらつらと考えてみたいと思います。
都市生活者とソーラーシェアリングとの接点づくりをしつつ、
認知を上げていくために考えられることは?
ソーラーシェアリングの課題を整理すると大きく以下の3点が挙げられます。
- 気候変動対策が急務の企業や投資家から注目されている一方で、世間一般の認知が低く、ソーラーシェアリングとは何かを理解している人が少ない。
- メガソーラーが社会問題化し、太陽光パネルに対してのネガティブな意識が国民の間に醸成されている。
- 地域で「うちの農地で導入したい」「うちの地域の耕作放棄地でやってみたい」と思う担い手が少ない
これらの課題を解決するためにどのような発信をすべきでしょうか。
認知を拡大していくために二つ、大事なポイントがあると思いました。一つ目は、ソーラーシェアリングがもたらす「様々なハッピーの見える化」です。
今回、ソーラーシェアリングの農地に行って感じたこと、例えば、畑に立った時の気持ちよさ、開放感、多様な生き物の姿、働く農家さんの楽しそうでかつ清々しい表情など、そこにある「ハッピー」が都市に暮らす人たちにも伝えることができれば、絶対にこれいいね!となるはず。
そこで必要なのは、動画の活用です。動画なら、遠隔でも、ソーラーシェアリングの「様々なハッピー」を視覚と聴覚で感じさせることができます。
しかし現在、ソーラーシェアリングについての基本情報や、関わる人たちのハッピーな姿を端的に伝える動画コンテンツは少ないようです。まずは全国のソーラーシェアリングに関わる農家さん、パートナーとして関わる企業さん、地元の方々などへのインタビューやソーラーシェアリングの仕組みやメリットがアニメーションなどでわかりやすく伝わる1、2分程度のプロモーション動画が必要です。
これ一本あれば、「ソーラーシェアって何?」って様々な場面で問われた時に「まずはこちらをご覧ください」と簡単に済ませることができるようになります。
もう一つは、ソーラーシェアリングを実践されている農家さんの「スター」化です。今、農業は危機的状況といったニュースの一方で、最先端のテクノロジーが導入されたり、とてもイノベーティブな業界という印象もあります。IOT、ロボット、ドローン、AIなどが導入されて効率よく高付加価値な農業ができるといったこともニュースとして取り上げられます。その流れにバッチリのってしまうのが良いかと思います。
具体的には「ハイテク・ソーラーシェアリング農家のYouTuber化あるいはTikToker化」です。ソーラーシェアリングやテクノロジーの導入によって効率的に農業が進められ、それにより地域の活動や新しくはじめた事業( 商品の6次産業化など)ができるようになりました。
そういった今までの農家さんとは違い、様々な生業(なりわい)を楽しんでいる「NEO百姓」として農家さんたちが、自分たちの言葉で、今の暮らしを動画で発信していくのです。
現在、スマホで撮影も編集も自分で簡単にできる時代になりました。我々の方で撮影と編集のレクチャーをさせていただき、統一した企画フレームの中で撮影・編集・配信していただく、というようなことができないでしょうか。
ソーラーシェアリングのパネルの隙間から差し込む光をスポットライトととらえ、有機栽培の畑をステージに見立て、そこから日々、全国の農地から発信していくのです。
中身は、農業や再エネなどに興味のない人たちにも響くよう工夫が必要。例えば、採りたて有機野菜を作った農家メシ動画、子育て層に向け畑の生き物にフォーカスした動画、すでに応援してくれている著名人に農地の一角をオーナーになってもらい、その畑でのリモート栽培日記みたいなものなどなど。最終的には全国の農家さんと一緒に話しながら企画を決めていければと思いますが。
そして全国の農家さんとともに情報プラットホームを立ち上げたあとは、そこに集客するためのPRイベントや具体的施策が必要です。
例えば、全国のソーラーシェア農家さんとコラボし「旬の野菜と電気が買えるハイブリッド八百屋」はどうでしょうか。できるだけ都会に暮らす人たちが集まる東京の街などに、期間限定でポップアップストア的にまずはオープンします。
実はまだ知らない方も多いのですが、電気は今、生産者を選ぶことができます。ちなみに弊社(社会の広告社)の電気は「みんな電力」さんという再エネのセレクトショップ的なサービスを通して東さんたちのソーラーシェアリングの電気を買っています。この「ハイブリッド八百屋」では、そのサービスとコラボし、電気と野菜が同時に買える形が実現できるのではないかと勝手ながら考えています。
大都市には、産地や有機にこだわる消費者が多いので、まずはそんな環境意識の高い方に向けて、脱炭素をすすめ、安心安全な農産物と電気をつくることができるソーラーシェアリングの価値をアピールしていきます。と同時に、メディア関係者にも取材をしていただき、より多くの人たちに拡散いただくようアプローチします。
店員は、各地の農家さんが担当。生産者自らが都会の真ん中で、野菜と電気とそしてソーラーシェアリングの価値を語る場にもなり、大都市生活者とソーラーシェアリング農家さんとの接点づくりにもなります。
まとめると、
- 端的にソーラーシェアリングの「様々なハッピー」がわかる動画と発信プラットフォームを立ち上げる
- 全国のソーラーシェアリング農家さんが発信者となる動画企画をスタートさせる
- ソーラーシェアリングの価値が大都市生活者に伝えることができるPR施策を実施し、メディアを含めて世間全般の話題を獲得する
といった流れで、ソーラーシェアリングの認知を高めていくのがいいのではと思っています。
もちろん、予算はどうするのか。全国のソーラーシェアリング事業者の皆さんの理解が得られるかといったこともありますが、改めて東さんやソーラーシェアリング推進連盟の皆さんに提案していきたいと思っております。
日本の農地の1割にソーラーシェアリングが設置されると、日本の電力需要の約37%がまかなえられるそうです。気候変動対策にもなる、農家さんに様々な生業を生み出し、かつ持続可能な地域づくりにも寄与できるこのソーラーシェアリングの普及に、私は今後とも関わっていきたいと思います。
このような形で私、社会の広告社山田英治が様々な社会課題に向き合う人たちを取材しながらキャンペーン企画を考えてみる連載「社会の広告屋がゆく」は続きます。
東さんへのインタビュー動画は、YouTubeチャンネル「社会の広告屋のメガホンch」で配信しています。