7月中旬、群馬県昭和村の実証サイトを訪ねた。
草地に太陽光パネルが並び、脇に立つ小さな倉庫のようなコンテナの中には、棚にティッシュ箱くらいの直方体の計算装置(コンピューター)が60台ほど並ぶ。太陽光でつくった電気で装置を動かし、仮想通貨の取引に必要な暗号計算を行う。計算結果を無線でネットワークに送ることで、報酬として仮想通貨を得られる仕組みで、仮想通貨の「マイニング(採掘)」と呼ばれる。
取り組むのは、東京電力グループの子会社「アジャイルエナジーX」。東電の原子力技術者だった立岩健二さん(52)が発案し、2022年に社内ベンチャーとして設立された。立岩さんが代表を務める。
海外では、再エネを使った仮想通貨マイニングのビジネスもある。一方で、立岩さんたちの実証サイトで得られる仮想通貨は平均で一日1000~1500円相当。これだけでは採算は取れないが、「狙いは仮想通貨で稼ぐことではなく、余った電力を仮想通貨に変換することで上手に使い切れると示すこと」と説明する。
発電量が変動する再エネの安定供給のためには、電力系統の強化や大容量の蓄電池など「貯める」技術がカギとされる。ただ、現在約20%の再エネ率を47%にするための送電網の増強に6兆~7兆円の投資が必要と試算されるなど、設備強化には膨大なコストがかかる。
余剰の最大値にあわせて設備を整えるのではなく、状況にあわせて地元で使い切るための「柔軟な需要」を作り出せないか。目をつけたのが、仮想通貨のマイニングだった。
きっかけは九州で2018年、発電量が需要を超え、再エネの出力制御が始まったことだった。同じころ、代表的な仮想通貨「ビットコイン」のバブルが崩壊。マイニングによる大量の電力消費にも批判が集まった。「捨てる再エネと、電気の『無駄遣い』とされるマイニングを組み合わせれば、新たな価値を生み出せるのでは」
マイニング装置は、電気とネット環境があれば、導入できる。電気が余っている場所・時間でのみ稼働させることができ、台数の増減や移設も簡単だ。マイニングによって柔軟に電力を消費すれば、小さなコストで出力制御の問題を解決できる、と立岩さんは言う。
「再エネによる電力を上手に使い切ることで、デジタル価値を生み出しつつ、結果として再エネの導入を後押しすることができる」
将来的には、仮想通貨のマイニングで出る廃熱を農業用ビニールハウスの暖房や、空気中の二酸化炭素を直接回収する装置に使い、循環経済システムとして地方創生につなげるなど、さらに大きな構想も描いている。