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ビットコインを法定通貨にしたエルサルバドル、サービス禁止の中国…仮想通貨の将来

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ビットコインをマイニングするために使われる大量のコンピューター=2018年4月、イタリア・フィレンツェ、ロイター
ビットコインをマイニングするために使われる大量のコンピューター=2018年4月、イタリア・フィレンツェ、ロイター

仮想通貨とはインターネット上で送金や決済ができる電子データで、法定通貨の円やドルなどと交換できる。

法定通貨のように中央銀行が発行、管理するのではなく、仮想通貨は「ブロックチェーン」という技術を使って、送金や決済に関わる複数のコンピューターで管理し、偽造を防ぐ仕組みだ。

国家による「裏付け」がなく、価格が乱高下することもある仮想通貨の賛否が割れる中、エルサルバドルは9月8日、仮想通貨の一つであるビットコインを法定通貨に加えた。

元々の法定通貨であるアメリカ・ドルと並び、2通貨体制となった。

ビットコインを法定通貨にする「旗振り役」だったブケレ大統領は「利便性が向上し、経済的メリットがある」と強調する。

国民の7割が銀行口座を保有しておらず、まともな金融サービスを受けることができていない。

一方で、海外から同国への送金額は、国内総生産(GDP)の2割に達するほど大きな割合を占める。背景には、多数の国民がアメリカで出稼ぎし、本国の家族らに送金している実態があり、送金コストが安い仮想通貨を利用すれば国民のメリットが大きいし、送金額が増えて経済が活性化する可能性もあるというわけだ。

ただ、この政策には国民からの反発も大きい。世論調査では国民の4分の3以上がビットコインの法定通貨採用に懐疑的という結果で、多くの国民は引き続き米ドルを使用することが予想されている。

エルサルバドルのブケレ大統領=2021年9月、首都サンサルバドル、ロイター
エルサルバドルのブケレ大統領=2021年9月、首都サンサルバドル、ロイター

このように、世間一般のエルサルバドルに対する評価は「危ない実験をしている新興国」、だろう。

仮想通貨は価格が1日で10%上下、1年間では数倍にも数分の1にもなることがある。それを国家の法定通貨にしようとしているのだから無理はない。

実際、正式に法定通貨となった9月8日、ビットコインの価格は17%も下落した。これは投資家がブケレ大統領の政策について、その実効性と持続性に疑念を持っており、エルサルバドルがビットコインの値動きに振り回された挙句、結局は法定通貨から外すという未来を予想しているのだろう。

投資家だけでなく、信用格付け会社からも疑問符を突きつけられた。エルサルバドル議会が仮想通貨導入の法案を可決した後、アメリカの大手格付会社ムーディーズはエルサルバドルの信用格付けを引き下げた。それに伴い、同国が発行している国債の価格も大幅に下落している。

格付け会社も投資家も危ない実験をしている同国に「経済悪化、破綻リスクが高まった」という辛辣な評価を与えているわけである。

国民からは多くの反発があり、国の信用力も右肩下がり、今のところ福音はないように思える。しかし同国には仮想通貨を法定通貨とする真の狙いは二つある、と筆者は考える。

一つは、自国での「マイニング(採掘)」である。マイニングとはコンピューターの計算によって仮想通貨を新規発行することである。

前述のように、エルサルバドルはこれまでアメリカ・ドルを法定通貨としてきた。それまでは独自通貨コロンがあったが、価格が不安定なため2001年にドルに切り替えたのだ。

外貨を法定通貨とした国にとって、通貨の発行は「かなうことのない夢」であったろう。だが、仮想通貨であればマイニングによって発行が可能となる。外貨を購入するのではなく、マイニングによって仮想通貨を「生産」し、国家資産として積み上げ、財政を安定化することもできる。ブケレ大統領はそう考えているのではないだろうか。

実際、エルサルバドルはマイニングによって有利な条件を持っている。マイニングは膨大なコンピューターによる計算が必要で、そのためにはコンピューターを稼働させる電力が必要だ。

エルサルバドルには23の火山があり、地熱発電によって電力は潤沢だ。実際、ブケレ大統領は国営の地熱発電会社にマイニングの計画を立てるよう要請している。

エルサルバドル西部のアワチャパンにある地熱エネルギーを抽出する施設。ブケレ大統領はこれらの施設を使い、ビットコインのマイニングをしようと考えているとみられる=ロイター
エルサルバドル西部のアワチャパンにある地熱エネルギーを抽出する施設。ブケレ大統領はこれらの施設を使い、ビットコインのマイニングをしようと考えているとみられる=ロイター

もう一つの狙いは、アメリカ・ドル依存からの脱却だと、筆者は推測する。アメリカ・ドルだけが法定通貨の場合、通貨に関する全ての権限はアメリカのコントロール下に置かれ、同国の政治や経済の影響を大きく受けることになる。

アメリカとの関係が悪化した場合、そもそもアメリカ・ドルを使用できなくなる可能性もある。通貨を「使わせてもらっている」以上は無言の主従関係にあるといっても過言ではなく、貿易や国交で対等に交渉できるわけがない。

米ドル以外の法定通貨を持てばその「呪縛」から解放される可能性がある。

ただ、エルサルバドルのように仮想通貨をポジティブに受け止めている国は現状、そう多くはない。むしろ自国が管理者としてコントロールできないことから反発するケースすらあるだろう。中国がいい例だ。

中国の中央銀行にあたる中国人民銀行は9月24日、仮想通貨の決済や取引情報の提供などといった関連サービスをすべて禁止すると発表した。

中国人民銀行=2019年12月1日、北京市
中国人民銀行=2019年12月1日、北京市

表向きの理由は資金洗浄(マネーロンダリング)など違法な金融取引を減らすためだが、本当の狙いは2022年に控えた「デジタル人民元」発行への布石であろう。

デジタル人民元とは中国人民銀行が発行する中国公認のデジタル通貨である。中国国内の資金をデジタル人民元に集中させるために仮想通貨関連のサービスを禁じたわけである。

人民元をアメリカドルを超える世界の基軸通貨にしたい中国にとって、仮想通貨は邪魔な存在なのである。

だが、それでも筆者は仮想通貨を法定通貨に採用する新興国は今後も増えると考えている。その大きな理由は、やはり米ドル依存からの脱却である。

例えば反政府勢力タリバンが全権を掌握したアフガニスタンでも、実は仮想通貨を法定通貨に採用するのではないかとの臆測が広がっている。

同国もアメリカ・ドルを法定通貨に採用していたが、ガニ前政権がタリバンに打倒されたことで状況が変わった。前政権がアメリカに保有していた資産がタリバンに使われないよう、アメリカのバイデン政権が凍結に踏み切ったとされる。

これによって法定通貨アフガニは一時暴落。国民も現金を引き出すことができず、生活に大きな異常をきたしている。

アメリカとの関係次第で自国経済が大きく影響を受ける新興国にとっては、いつでも誰でも使用できる仮想通貨を法定通貨に採用する十分なメリットが存在する。

そういう意味でも、エルサルバドルでの「実験」からはしばらく目が離せない。

個人にとっても注目

仮想通貨は国家レベルだけでなく、一般の人たちからもリスクヘッジ先として注目が高まっている。例えばビットコインは7月中旬の安値が320万円台だったが、アフガニスタンでタリバンが攻勢を強めると価格が上昇。首都カブールが制圧された8月15日には500万円に達した。1ヶ月足らずで50%以上、上昇したことになる。

さらに8月末のアメリカ軍完全撤退から、その後の政局の混迷に至るまで最高値では570万円台に達し、9月19日現在は再び530万円程度で落ち着いている。

ここで筆者が強調したいのは、ビットコイン価格の変化でどれだけもうかるか、損をするのかということではない。世の中でアフガニスタン情勢のような地政学的リスクが起きたとき、ビットコインを持ちたいと思う人が確実に増えているという事実だ。

これに対し、リスクヘッジ資産の代表である「金」はどう動いたのか。ビットコインの価格が50%上昇した2021年7月中旬から8月15日までの間、金の価格はほぼ変わらなかった。むしろ前年同期比だと値下がりの方が目立つ。

仮想通貨は資産規模としても金に迫っている。現在の金の時価総額は8兆ドルで、仮想通貨は全体で2兆ドル。まだ4倍の差があるが、2021年1月時点の仮想通貨の時価総額は1兆ドルだった。つまり、2021年9月までの8カ月間で時価総額が2倍に成長したことになる。

この間、金の時価総額はほとんど変化していないので、成長の速度を考えるといずれ仮想通貨が金に追いつく可能性がある。

こうしたことから、仮想通貨は国にとっても個人にとってもリスクヘッジの代表的な手段になると、筆者は考える。

国にとっては前述の通り、基軸通貨であるアメリカドル依存に対するリスクヘッジ、個人にとっては「国家財政に依存する」ことへのリスクヘッジである。

これはどういうことか。例えば個人が資産分散として保有する通貨、株式、債券、不動産などほとんどの資産は、所在国の信用に基づいて存在している。

日本が破綻したら日本株は価値を失うし、アメリカが破綻したらアメリカの不動産は大きく値下がりするだろう。

つまりどのような資産も国家の信用という裏付けがなければ価値が崩壊するということである。

これに対し、仮想通貨は国家という信用の裏付けがなく、所在国も存在せず独自に価値を放っている。

国家財政に対するアンチテーゼとして存在する仮想通貨を保有することで、国家の財政や破綻に対するリスクヘッジとなるわけである。

現在、各国は新型コロナウイルス対策で財政が肥大化し、先進国の借入残高は第二次世界大戦以降もっとも高い水準となっている。

日本で言えば、国内総生産(GDP)対比の借入残高が約250%と先進国の中でもっとも高く、とても財政が健全とは言えない。

数字だけで考えると国家財政のアンチテーゼである仮想通貨がもっとも必要なのは日本人なのかもしれない。

戦争、内戦、国家の破綻、経済ショック、基軸通貨アメリカドルの崩壊…。そんな巨大リスクに対するヘッジ(回避)手段として、仮想通貨がより存在感を増す未来が近づいているのではないか、と筆者は考える。

アフガニスタンの首都カブール陥落から1カ月。戦闘で電撃的勝利を収めたイスラム主義組織タリバンは、一転して平時の安定政権を築くという難題に直面している。写真はカブールの空港周辺をパトロールするタリバン戦闘員。9月2日撮影(2021年 ロイター)

注意すべきリスク

ただ、投資という意味では仮想通貨もまた、リスクをはらんでいることを理解する必要があるだろう。

なんといっても最大のリスクは値動きの激しさである。1年で数倍になるということは1年で数分の1になる可能性もあるということである。

特定のイベントリスクにも注意が必要である。例えば2017年までの第1次仮想通貨バブルのときはコインチェックという大手の仮想通貨取引業者で通貨の不正流出があった。

会見するコインチェックの和田晃一良社長(手前)と大塚雄介取締役(中央)=2018年1月、東京都中央区
会見するコインチェックの和田晃一良社長(手前)と大塚雄介取締役(中央)=2018年1月、東京都中央区

これによりバブルは終焉を迎え、価格は2017年の高値から翌年以降は数分の1まで下落した。1業者の1イベントでここまで価格が下落するという不確実性の高さを理解しなければならない。

このようなリスクを考えれば、そもそも資産全体に占める仮想通貨の割合を高くしすぎてはいけない。

資産運用を生業(なりわい)としている筆者から言わせてもらえば、仮想通貨はせいぜい資産全体の5%程度にとどめるべきで、仮想資産に魅力を感じていたとしてもせいぜい10%以内にとどめるべきだろう。

仮想通貨には資産としての将来性はあるものの、現時点ではまだその程度の信用に過ぎないということである。