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「再エネは安い」が世界の常識、なぜ日本は高いまま? 普及遅れれば企業に打撃も

World Now
風力発電世界最大手オーステッドなどが英国沖で手がける洋上風力発電基地「ガンフリート・サンズ」。50基の風車が回っていた=2021年5月13日、金成隆一撮影

「世界の3分の2の国・地域で再エネが最も安い電力です」。ブルームバーグNEFの日本・韓国市場分析部門長、黒崎美穂さんはそう説明する。

ブルームバーグNEFの集計によると、この10年で太陽光の発電コストは8割超、風力は約6割下がったという。その結果、英国や米国、ブラジルなどでは風力発電が最も安く、中国やインド、オーストラリアなどでは太陽光が最安となった。一方、日本や韓国などでは石炭火力が最安だ。日本で石炭火力より再エネが安くなるのは2025年以降だという。

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ブルームバーグNEF日本韓国市場分析部門長の黒崎美穂さん=本人提供

なぜ日本では再エネが高いのか。黒崎さんは「固定価格買い取り制度(FIT)など政策に主な原因がある」と指摘する。FITは再エネでつくった電気を10~20年間、国が定める価格で買い取ることを電力会社に義務づけるしくみだ。12年に導入され、当初の事業用太陽光の買い取り価格は1キロワット時あたり40~32円と、普及を進めるために高額に設定された。その後、買い取り価格は下がったが、当初の高額の認定を受けながら、太陽光パネルなどの導入コストが安くなるのを待ってから稼働する事業者が相次いだ。

電力会社は買い取りに必要なお金を「再エネ賦課金」として電気料金に上乗せしており、消費者の負担が増している。そのため経産省は制度を変えたが、当初の買い取り価格は最長20年続く。設置コストが大きく下がっているので、事業者はその差額をもうけることができる。普及が進めば発電コストは下がるのにもかかわらず、消費者にとっては電気料金の負担増がのしかかり、「再エネは高いまま」のわけだ。

黒崎さんは「中国やインドでは地方政府が発電所の場所や送電線などを決め、事業者には発電料金の入札をしているので、単純な価格競争となるため値段が下がりやすい。欧州各国の洋上風力発電も同様で、風車を建てる海域の調査やアセスメント、送電線などを国が決め、価格入札をしている。日本はアセスや漁業者などとの地元調整は、事業者がおこなわなければならない。再エネ普及のためには、企業が投資しやすくなるように、政府が目標値を設定し、経済的インセンティブを与えることが重要だ」と話す。

政府が高い目標を掲げ、促進策を導入する。そうやって世界各国は、再エネの普及と価格低下を実現してきた。

世界風力会議(GWEC)によると、世界全体の20年の風力発電導入量は93ギガワットで、累計は743ギガワット(うち陸上707ギガワット、洋上35ギガワット)。国別では、中国が最も多く288ギガワット(うち陸上278ギガワット、洋上10ギガワット)で、米国はほぼ陸上で122ギガワット、欧州は219ギガワット(陸上194ギガワット、洋上25ギガワット)にのぼる。

欧州が19年11月に打ち出した目標は「50年に洋上風力450ギガワット」と野心的だ。欧州では再エネの普及が進んでおり、20年のEU全体の発電比率は風力や太陽光など再エネが38%、石炭火力など化石燃料が37%と、初めて再エネが上回った。風車の大型化も進み、大きいものは発電容量が15メガワットで、ブレード(羽根)の直径は約240メートルに達する。

日本風力発電協会などによると、洋上風力の導入目標は米国が30年までに30ギガワット。「脱原発」を進め、欧州企業を中心に建設が増えている台湾は、35年までに15.5ギガワットをめざす。日本の「40年までに30~45ギガワット」という目標は、「30年までに40ギガワット」の英国、「40年までに40ギガワット」のドイツなどと比べても遜色ないレベルといえる。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の予測では、世界全体で陸上風力は30年に1787ギガワット、50年に5044ギガワット、洋上風力はそれぞれ228ギガワット、1000ギガワット。洋上風力は50年までに18年比で40倍の拡大が見込まれている。

■問われる国家戦略

世界は「気候危機」への対応を軸に回りはじめている。主要排出国が「温室効果ガス排出実質ゼロ」という目標を掲げ、その達成に向け再生可能エネルギーの導入を推し進めている。中でも「主戦場」なのが風力発電だ。

各国で進む風力や太陽光発電の急拡大によって、「再エネは安い」が世界の「常識」になった。つまり、再エネ導入の理由は「environment(環境)ではなく、economy(経済)」と、国際大副学長の橘川武郎さんは指摘する。経済成長と気候変動対策は、対立する概念のようにとらえられてきたが、すでに経済が対策を加速させている。

「パリ協定」から離脱するなどトランプ前政権の4年間で気候変動対策に背を向けていたように見える米国だが、「民」主導で変革が進んでいる。「トランプ政権が気候変動対策に逆行することで、皮肉なことにグローバル企業や投資家が対策を加速させた」。東京大教授の高村ゆかりさんはそう説明する。

東京大学教授の高村ゆかりさん=本人提供

アップルやマイクロソフトなどは自社使用の電気だけでなく、取引先にも再エネ利用を促している。そうした企業の取引先は日本に多く、ブルームバーグNEFによると、日本企業の売上高依存額は730億ドル(約8兆円)。部品をおさめている企業が電気を再エネ100%にできなければ、多額の売り上げを失うおそれがあるという。それなのに日本では再エネの電気がなかなか手に入らない。

金融面からのプレッシャーも高まっている。「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」が拡大し、気候変動対策に積極的でなければ企業は資金調達が難しくなったり、株価が下落したりするおそれがあるなど企業価値に直結するようになった。高村さんは「再エネを増やすのは気候変動対策でありエネルギー政策だが、それ以上に産業政策、雇用政策としての重みが増している」と指摘する。

この30年、欧州は「あの手この手」で、気候変動問題を国際政治・経済の優先課題として「アジェンダセッティング(課題設定)」してきた。地球環境を損なえば生命・財産が脅かされる。早く対策をとらなければ経済的損失が大きくなる。排出削減に取り組めば得をし、減らさなければ損をする。対策に積極的か否かで経済覇権を左右する。気候変動はまさにそうした課題になりつつある。

風力発電世界最大手オーステッドなどが英国沖で手がける洋上風力発電基地「ガンフリート・サンズ」。50基の風車が回っていた=2021年5月13日、金成隆一撮影

国家が目標を設定し、企業にインセンティブを与えて競争を促す。欧州だけでなく米国も中国も、国家主導か民間主導か濃淡はあるにせよ、そうしたメカニズムで再エネ普及が進む。世界の主要排出国が先を競うように走り出している。

これまで再エネ導入に後ろ向きだった日本も「2050年までに排出実質ゼロ」「30年度に46%削減」という宣言で、そのアジェンダにのったといえる。賽(さい)は投げられたのだ。

今世紀半ばの「あるべき世界」という未来のゴールをめざし、いまやるべきことに取り組まなければならない気候変動対策。政策判断がその国の命運を分け、誤れば国民は不利益を被りかねない。まさに国家戦略が問われている。