SAFでは温暖化物質ゼロにはならない
廃食油由来の航空燃料に期待が高まっていますが、こうした原料からつくられるSAFの量は限られており、需要を満たすことはできません。欧州では2050年に見込まれる航空燃料需要のうち、廃食油からつくられるものは2.9%しかないと推計されています。ほかに原材料になりうる獣脂や農作物ざんさなどを積み上げてもせいぜい20%程度にしかなりません。
そもそも名前が挙がっている原料のなかには、すでにほかの産業で使われているものもあります。例えば、獣脂は化粧品やペット産業で利用されています。廃食油のサプライチェーンはどこかで不正が起きるリスクをはらんでいます。
また、SAFには確かにCO2の削減効果はありますが、ジェット燃料の燃焼時に排出されるのはCO2だけではありません。代表例は飛行機雲です。飛行機雲は熱を閉じ込めてしまうため、温暖化につながります。SAFはこうしたCO2以外の温暖化物質も削減する効果がありますが、いずれもゼロになっているわけではありません。
CO2を排出しない航空機にするためには、電力や水素燃料を使う必要があります。しかし、こうした技術はまだ未成熟で、既存の技術を全面的につくりかえることが求められます。エアバスは30年代に水素燃料の飛行機を導入する計画ですが、遅れる可能性もあり、仮に開発がうまくいっても、既存の機体の置き換えには相当な時間もかかる。こうした時間軸の問題を置いておいても、当面は長距離飛行は難しいと見られます。電動や水素動力の機体は相当重くなるはずだからです。
そうすると、長距離飛行は当面SAFに頼らざるをえず、航空業界の脱炭素にSAFは不可欠といえます。ただ、供給量の制約や原料の課題などを見ると、特効薬とは言い切れないのが現状です。
航空業界のCO2排出量は増えている
そして、根本的な問題は、新興国の経済成長や格安航空会社(LCC)の増加によって、航空業界のCO2排出量が速いペースで増えているということです。コロナ禍で落ち込んだ乗客数は増加傾向で、このペースでいけばコロナ前を超えるでしょう。
ジェット燃料の利用はそれに伴い増えていきますが、SAFの量は限られ、脱炭素のスピードは追いつかない。コロナ禍で私たちは出張しなくても会議はできることを学びました。有効な脱炭素の手段が講じられるまで、フライトの回数を減らすことも考えないといけません。