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改めておさらい、SDGsってなに? キホンからビジネスへのインパクトまで

World Now 更新日: 公開日:
慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科の蟹江憲史さん=目黒隆行撮影

■SDGsは「2030年の未来の形」

――まず始めに、SDGsとはどういったものなのでしょうか。

2015年に国連でできた、2030年に向けた世界の目標です。17の目標(ゴール)があり、その下により細かなターゲットが169あります。私は一言で「2030年の未来の形」と言うようにしています。というのも、国連の全加盟国が合意した目標ですので、全ての国がそこに向かっているという意味で、未来の形があると言っていいと思います。

――どういった経緯でSDGsはできたのでしょうか。

まず2000年に国連でできた「ミレニアム宣言」のエッセンスから、MDGs(ミレニアム開発目標)というものができました。それは2015年を目標の達成期限にしていたのですが、期限が近づいても未達成の目標があることが明らかになってきました。その先をどうしようか、という議論が、まずありました。

それと並行して、「持続可能な開発」を今後どう進めるかという議論もありました。2012年にリオ+20という大きな世界のサミットがあったのですが、ポストMDGsの議論に持続可能な開発の議論を統合しよう、という提案がコロンビアとグアテマラからあったんです。最終的にこの二つが一体化した形で、持続可能な開発に関する目標がポストMDGsの目標に統合されていった、というのが経緯です。

――コロンビアとグアテマラ……意外な印象を受けます。こうした大国ではない国々が提案したのはなぜでしょうか。

MDGsは世界の中の貧しい国々を対象としていましたので、コロンビアもグアテマラもかなり関係していた国です。そういった国々が発展していく中で、いろいろ目標が分かれて存在するよりも、持続可能な開発という目標をしっかり持った方が良いのではないか、ということで提案されました。

持続可能な開発の文脈では「目標」を持とうという議論がこれまでなかったので、それを持ち込んできたことが非常に画期的だと言えます。このときの、女性を中心とした交渉担当者たちの発想力が非常に豊かだったと言えると思います。

■企業が正面切って参加できる

>国連が掲げる17項目の持続可能な開発目標

――MDGsは社会一般への広がりはあまりありませんでしたが、SDGsの浸透度についてはどう見ていますか。

日本ではかなり広まってきていると思います。特に企業や自治体。一部上場企業ではほぼ常識、100%近い認知度になっていることが調査結果でも分かっています。一般の方でも4人に1人か、3人に1人くらいにまで広がっています。知っているという意味では、この5年間でだいぶ進んだと思います。

――MDGsとSDGsで、浸透度がこれだけ違うのにはどんな理由があるのでしょうか。

やはり先進国が自分の問題として扱っているかどうかですね。MDGsは途上国の中でも経済発展の進んでいない国々を対象としていたので、日本など先進国にとっては関係ないと思われがちだったんです。援助に関わるような機関や団体の人でないと関係ない、当事者じゃないと思っていたんですね。

ただ、SDGsはすべての国が対象になりますし、すべての主体が対象になってきます。みんなでやらないといけない、という点がまず違います。

中身に関しても、「経済・社会・環境」の三つの側面という言い方をするのですが、MDGsはそのバランスがあまり良くなかった。例えば、MDGsには八つ目標がありましたが、環境面は一つだけでした。平たく言えば三つの側面とはお金・人間・地球の話ですが、2015年になってはじめてこの三つがバランス良く含まれてきた。特に経済の持続可能性がちゃんと含まれているというのが、企業など経済的主体が正面を切って参加できる、がんばろうと言ってくれている大きな要因だと思います。

■コロナは「持続可能じゃない状態」の典型

――経済の持続可能性、と言われてもなかなかピンとこないのですが。

いま、このコロナ危機が持続可能ではない状態の典型だと思います。経済がストップして経済成長がなくなってしまう。そんな風にさせないということです。だからコロナは、私は本当にすごく重要な機会になり得るものだと思っています。

コロナで、経済をはじめ社会が持続可能じゃなかったということが明らかになってしまったわけですよね。ということは、これを乗りこえるために、あるいは将来同じような事態が起きたときに備えるためにも、経済を持続的に進められるようにしなければいけない。感染症でも、気候変動の影響があっても、経済がきっちり成長していくというのが経済の持続可能性です。

高級ブランド店などが並ぶ「五番街」。日曜にもかかわらず、車も人もまばらだった=2020年4月、米ニューヨーク、藤原学思撮影

――2020年からはSDGsの「行動の10年」とされていましたが、その最初の年にコロナが起きてしまいました。とても悪いタイミングですが、2030年に向けて大事なことは何でしょう。

コロナがもたらしたものは非常に不運なものもありますし、SDGsの達成を大きく遅らせるところがあります。貧困や格差対策といった分野はとんでもなく後退させられてしまいました。航空業界なども非常に大きなダメージを受けてしまいました。

ただ一方で、SDGsはそもそも「変革」を求めているものなんですよね。SDGsが入っている2030アジェンダという国連の文書のタイトルは「我々の世界を変革する(Transforming our world)」です。変革しないと達成できないような、そもそも大変なチャレンジが含まれているんです。

コロナで様々な仕組みが壊れてしまいました。ですが、それが逆に変革するための大きなチャンスになると思っています。例えば、グローバルなサプライチェーンが壊れてしまって、食料や製品の素材などが入ってこなくなった。じゃあ持続可能にするためにどうすればいいか、考えるきっかけになったと思うんですね。生産拠点を国内に戻したらどうか、コストが高くなるが環境に与える負荷を加味するとどうなるか……。様々なことが継続したままだったらできなかったかもしれませんが、大きく変えるチャンスを与えてくれたのもコロナじゃないかと思います。

■社会と共に歩まないと、そっぽを向かれる時代

岸田文雄外相(当時)や子どもたちと、SDGsの目指す17分野の「17」をあらわすポーズを取るピコ太郎さん=2017年7月、米ニューヨーク、笹川翔平撮影

――企業はやっぱり稼いでナンボで、そのために環境への負荷がかかってもしょうがない、という面もあるように思います。そんな企業がなぜいまSDGsを掲げているのでしょうか。

やっぱり社会と共に歩まないと、企業が逆にそっぽを向かれる時代になってきたのではないですかね。「社会に貢献する」とか、「価値を共有して一緒に進もう」、という動きは今までもありました。ただそれは、何とか回っていたにすぎない面があったと思うんです。

いまは色々な変化が目に見えるようになってきました。様々な人がツールを持ち、発信できるようになりました。例えば生産現場の写真をインスタグラムに上げた時に、後ろに児童労働の現場が写っていると、もう世の中は黙っていないですよね。そういった社会の側で起きた変化の影響は大きいと思います。

今までにも増して、企業が社会と歩むことが大事になってきています。逆に言えば、社会の課題と今の状況、社会のあるべき姿と今の現実にギャップが出てきていて、そこを合わせることがビジネスになる、ということがあると思うんです。ギャップがあるということはそこに仕事があるし、イノベーションが起こる可能性もそこにある。企業はそういった所に注目し始めているんじゃないかなと思いますね。

■「やっぱり変だな」と感じ始めてきた

――経済と環境が一つになったことが画期的だと冒頭にうかがいました。それでは、なぜいままで一本化できていなくて、なぜSDGsでできたのでしょうか。

環境に関する影響ひとつとっても、色々なところで課題が関係し合っていることが明らかになってきたからだと思います。そうしたメカニズムを解明するための科学的な検討が進んできた、というのが一つの大きなきっかけだと思います。

もう一つは、様々な影響が目に見えて感じられるようになってきたこともあります。例えば、地球温暖化もずっと先の話だと思っていたら、夏になったら毎年暑いし、台風もやたらと大きいし、豪雨もやたらたくさん来る。「やっぱり変だな」ということをみんな感じ始めてきたのではないでしょうか。

また、格差も目に見えるような形になって、リッチな人はリッチなままだし、貧しい人たちは貧しさが固定化されつつあるということが分かっていたということもあります。日本だけじゃなくて、世界でそういう考え方が明らかになって、個別で対処していてもだめだということが実感されるようになってきたし、実感されるだけの証拠も出てきました。それが大きいと思います。

■カギになる「目標ベースのガバナンス」

――そういった問題に対処する主体は、伝統的には国家だったわけですが、SDGsでは企業の役割などが前面に出てきています。MDGsができた2000年代初頭から、2030年を見据えて、国家だけでない主体の役割はどうなっていくとお考えでしょうか。

SDGsに関する動きなんかを見ていると、国の方が動きが遅れていると思います。日本もそうですけど、民間の方が進んでいます。国が音頭を取って調整するというのも一定程度大事だと思いますが、それよりも個人レベルの動き、一つ一つの企業の動き、そういったものが連携して組み合わさって世の中の動きが変わっていくんじゃないかなと思います。

SDGsはその典型例だと思うんですけど、進める上で非常に参考になる出来事がコロナです。マスクして、手洗いをする。それは自分一人を守ることでもありますが、みんながやることで社会が守られることが分かった。分かってしまったんです。これはすごく大事なことで、温暖化にしても、差別や偏見にしても、フードロスにしても何でもそうだと思うんですけど、一人の行動、一つの企業の行動から始まって、みんながやっていくと大きなことになっていくんだと。そういうことが分かってしまったということなんだと思います。

政府が音頭をとったルールがなくても、共通目標を立てれば、そっちの方へ向かえるというのが分かりつつあるというのがSDGsだと思うんですよね。やるべきこと、到達するべきところがシェアされていれば協調できる。それが同じ志を持った人を結びつけていく。それがパートナーシップということだと思います。

そうすると、数の論理や規模の経済が働いて、動きが大きくなっていく。私自身は「目標ベースのガバナンス(Governing through goals)」という言い方をしているんですけど、これが案外うまくいきそうだということが分かってきました。興味のある人はこの指とまれで一緒にやろうということを、スマホ一つでみんなが発信も受信もできます。ツールを手にした時代に、目標ベースで動けるというのはタイミングが合っているんだという気がします。

――「目標ベース」の考え方について、もう少し詳しく教えて下さい。

要は目標は作っておくけど、そこへ向けどう実施するかは最低限しか作らないものです。そうすることによって、アイデアや知識、資源、お金が寄ってくる。同じビジョンで同じ所をめざすんだったら一緒にやろうかという仕組みです。

対照的なのがルールに基づくガバナンスです。国内レベルではルール作りは非常に大事ですし、その延長で国際的にもルール作りを重視してやってきたわけですよね。ギシギシと国際交渉をして半歩進むというのは大事だと思いますけど、それと、必要とされるあるべき行動のレベルがだんだん離れてしまっている。そういう時に、じゃあ離れてしまった先のゴールの方から考えようという仕組みが出てきたということだと思います。

――これが今後のグローバルガバナンスを考える上でのキーになると。

キーになると思いますね。目標ベースで見ると、SDGsだけじゃなくて、例えば気候変動に関するSBT(Science Based Target)というイニシアチブがあります。日本の企業も米英に次ぐ世界で3番目での多さで、いま増えています。それはやはりビジョンを共有するというところからスタートするのが大事だということを体現していると思います。

■民主主義のあり方を一段階上げる

――逆に考えると、国家の役割というものは小さくなっているのでしょうか。

小さくなっていると思います。ただ、SDGsはそもそも国家の集まりである国連が作って、だからこそ説得力を持っています。大局的な方向を示すという役割は大事です。

国が作る政策も大事ですが、むしろ個人や企業の側から動き出すことによって政府を動かすこともできますよね。民主主義だと当たり前のことですが、日本ではこれまであまり活発ではなかったのが、SDGsをきっかけにそうした動きになりつつあるのではないかと見ています。そういう意味では、民主主義のあり方を一段階上げるような、興味深い取り組みだと思います。

■希望の光はどこに

――SDGsへの関心は、若い世代の方が高いという印象があります。

いまは高校生、中学生もSDGsの勉強をし始めていますし、大学で教えていても学生にはSDGsを楽しみながら考えようという雰囲気が強いと感じます。若い人たちは、このままではいけないという思いを持っていると思いますし、我々が思う以上に、社会にある課題を解決するということを普通に考えていると思います。

――それはなぜでしょうか。

やはり災害を生きてきている世代だからだと思います。いま10代だと、生まれてすぐ東日本大震災があって、毎年のように夏は暑くて、地震が頻発して、コロナも起きて、災害があるのが定常状態です。20代でも米同時多発テロがあって、社会が不安定になって、リーマンショックで経済も不安定になって……。今の若者、子どもたちの世代は、本当にきれいごとじゃなくて社会の課題を解決しないとだめだと思っている人が、我々の世代と比べて多いと思います。10代や20代、あるいは30代の人でも、切実な思いで世の中を良くしようと考えている人がいる。そういう人たちが、希望の光なんじゃないかなと思いますね。

 

かにえ・のりちか 1969年生まれ。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。専門は国際関係論。国連が4年ごとにまとめる持続可能な開発のリポート(GSDR、次は2023年)を執筆する世界の15人の専門家のうちの1人として、今年10月に国連事務総長より任命を受けた。著書に『SDGs(持続可能な開発目標)』など。