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エシカルの起源はアダム・スミス? フェアトレード、グリーン調達…消費者運動の歴史

LifeStyle 更新日: 公開日:
中原秀樹さん=本人提供

そもそも「消費者」とはいつ生まれ、どのような変遷を遂げたのか?消費者運動に詳しい東京都市大名誉教授の中原秀樹さん(74)は「欧米では民主主義的な『あるべき市民社会像』を前提に、エシカル消費が発展してきた」と指摘する。

「消費者」は18世紀後半に英国で起きた産業革命をきっかけに生まれた近代の概念だという。産業革命で大量生産が可能になり、それまでの「売り手」と「買い手」から、市場を介した「生産者」と「消費者」になっていく。

「消費者」の意識が顕在化するのは19世紀末だ。きっかけは、薬と加工肉だったという。「薬に何が入っているのか、何の肉を食べているのか分からない」と、成分などの表示を求める動きが起きたのだ。1899年には米国初となる消費者団体「全米消費者連盟(NCL)」が生まれた。

中原さんは「このころから消費を通して、より良い生活を送りたいという機運が高まった」と説明する。

米連邦政府は1906年、医薬品や食品に有害な化学品、防腐剤などを使用することを禁止する法律を制定。商品の成分を調べる機関として、1929年に米国でNPO「コンシューマーズ・リサーチ(CR)」ができ、後に「商品テスト」と呼ばれる調査を始めた。

その後、自動車やテレビ、ラジオなども対象となり、消費者運動は国際的に広がった。第2次世界大戦後、英国やオランダ、フランス、ドイツ、豪州などで、商品テスト誌が続々と生まれた。

ベトナム反戦運動で局面転換

局面が変わるのは、ベトナム戦争だ。1969年に米国で設立されたNPO「経済優先度評議会(CEP)」は、ベトナム戦争に加担する企業からの投資引き揚げを呼びかけた。社会的責任投資の始まりでエシカル投資と呼ばれ、これが「投資撤退(ダイベストメント)」の考え方につながっていったという。

CEPは1988年に買い物ガイド「よりよい世界のための買い物(Shopping for a Better World)」の出版を始める。買い物を通した社会の変革を目的とし、環境や女性・マイノリティー登用などの項目から企業を評価し、公開した。それはやがて、フェアトレード運動にもつながっていく。

1980年代、南アフリカ共和国のアパルトヘイト(人種隔離)政策への反発が世界的に高まると、南アフリカで事業を展開している企業へのボイコットも盛んになっていった。そうした企業に投資していた英国の銀行も対象となり、預金の引き揚げが相次いだ結果、収益が15~20%減ったという。

1989年に英国でボイコットの情報誌として「エシカル・コンシューマー」が発行され、CEPのエシカル投資に倣って「エシカル消費」という言葉が生まれた。

1990年代には、倫理的企業の製品を積極的に買う「バイコット」がボイコットの反意語として生まれ、バイコットが広がった。

環境や人権、高まる関心

公害問題を引き金に1970年代から環境問題への関心が国際的に高まり、グリーン調達(購入)という言葉が生まれた。

1992年にブラジルで開かれた国連環境開発会議では、持続可能な消費と生産が議論された。2015年には、国連で持続可能な開発目標(SDGs)が採択された。こうして、「グリーン・コンサンプション(緑の消費)」という概念が、消費者運動の大きな要素になり、市場のなかでの消費者運動から、地球規模で物を考える「グリーン・コンシューマー」の活動に変化した。

気候変動がもたらす様々な地球規模の環境破壊は、経済格差と貧困問題を引き起こし、同時に人権問題も大きなテーマとなっていった。

1990年代、サッカーボールがパキスタンなどの児童労働でつくられていたことが発覚した。2013年には、バングラデシュで先進国向けの衣料品をつくる工場が入ったビルが崩壊し、1000人以上の死者を出した。劣悪な環境で働かされていたことが判明し、問題となった。

グローバル化が進むなか、安く売られていた商品が、児童労働や劣悪な労働環境で製造されていたことに消費者が気づくことになったのだ。

中原さんは「よい商品をつくり、成分を表示し、安全性を担保する。消費者には選ぶ権利があるので、商品供給は平等でなければならない。それだけでなく、ジェンダーを含め、人権を守ることが企業の社会的責任になっていった」と話す。

2015年には、英国で「現代奴隷法」が成立し、一定規模の企業に対し、奴隷労働や人身売買が生まれないための対策を公表するよう義務づけた。こうした人権を守る取り組みを企業に義務づける法整備は、主要国で進んでいる。

エシカル、起源は「見えざる手」の経済学者?

ただ、エシカルの概念は「新しいものではない」と中原さんは指摘する。

「経済学の祖」といわれるアダム・スミスについて、中原さんは「彼は『国富論』で、市場経済では『見えざる手』で富が平等に分配されると主張した一方、『道徳感情論』では、平等に分配されるにはルールが必要で、ルールの基本は道徳感情、まさにエシカルな活動が必要だと言っている」と解説する。

「いま、デジタル技術の活用が叫ばれているが、どういう社会をめざすのか、という問いがないのは問題だ」

中原さんが注目しているのは、欧米の消費者教育が移民にも向けられていることだ。「移民が自分たちで稼いだお金をだまし取られることなく、豊かになれば犯罪に手を染めることもない。社会の一員として責任を果たしてもらうのが目的だ」

1996年から、中原さんは環境に配慮した商品を購入することで持続可能な社会を目指す「グリーン購入ネットワーク」を主導してきた。「グリーン・コンシューマー」を育てるのが目的だ。

エシカル消費を広めるため、高校生らを対象とした「エシカル甲子園」の審査委員長も務めてきた。「よりよい世界をつくるため、若い世代のパワーが必要だ。次の世代を育てていかないといけない」