11月末、ノーベル平和賞の授賞式が毎年行われるノルウェーの首都オスロの市庁舎で、大規模な「古着交換会」が開催された。
古着といっても、値札がついたままの服や、数回着ただけの服も多い。
実は、このイベントを主催したのは政治家と自治体だ。
ノルウェーの人のファッション傾向
オスロ・メトロポリタン大学の2017年の調査によると、
- ここ数年で古着を購入したノルウェーの女性は23%、男性は11%
- ここ数年で古着をもらった女性は28%、男性22%
服を捨てる主な理由は、
- 男女の約半数が「外見の装いを変えるため」
- 11%が「似合っていないなど、好みのため」
- 7~8%が「成長など状況の変化のため」
- 5~10%が「機能的に欠点があったから」
- 4~9%が「ファッションやスタイルが変わったから」
服との付き合い方は人それぞれだ。カフェにいると、肘などに穴が開いたままのセーターを着ている男性はよく見るし、古着を着ている人は日本よりも多い印象がある。
同時に、日本よりもファッションへのこだわりがノルウェーの人は弱いので、このような傾向があると私は感じる
- H&Mなどの格安ファッションを大量に買う
- 「みんなと同じ」でいることに安心するため、「黒色」の服を何着も所有
- 安い服を高温のお湯で洗濯するため、すぐ痛み、長く着ることはできず、短い寿命の服を何回も買う
- 普段着にはお金はかけないが、アウトドアやスポーツウェアとなるとたくさんのお金を使う
環境や気候意識が高い国なので、ファッション業界の「生産しすぎ・消費しすぎ・捨てすぎ」の輪が、地球に負担を与えていることはずっと議論されている。
市民が寄付した服を売る店、蚤の市、古着交換会は全国各地で頻繁に行われているが、今回のイベントが特別だったのには理由がある
- 舞台がノーベル平和賞の会場
- 市庁舎は首都政治のシンボル
- 率先したのが自治体とオスロの政治家たち
- 大安売り「ブラックフライデー」への対抗行事「グリーンフライデー」の一環だった
市庁舎という政治的な場所なので、商品の売買はできない。だから、市民は7着までの衣服を持参し、服の枚数分のチケットをもらい、他の人が持ってきた衣服と交換できるシステムにした。市庁舎側によると、来場者はおよそ1000人。5500着ほどの衣服が集まったそうだ。
11月末に開催されるアメリカの行事「ブラックフライデー」は、ノルウェーにも数年前に上陸した。
セール自体は珍しいものではないが、あふれる企業広告、「安い」はずの価格が実際はそうでもない詐欺まがいの行為、他人を押しのけて商品に飛びつくカオスな現場、本当は必要ではないのに「買わなきゃ」という雰囲気に流されるストレス、過剰な消費が環境負荷を大きくしていることなどから、クリスマスセール以上に問題視されるようになった。
それでも、ブラックフライデーにクレジットカードを使う人は減らない。そこで、疑問を感じていた人々が、環境に優しい緑色を表す「グリーンフライデー」を呼び掛けるようになった。
グリーンフライデーの波と価値観の対立
今では、ブラックフライデーと同時期に、古い商品を交換するイベント、ヴィンテージイベントも多く開催されている。
一部の企業は、自分たちの社会的責任を自覚していると意思表示するために、「私たちはこの日はセールをしません。ボイコット表明として、お店はこの日はクローズします」「この日は通常価格で売り、売り上げの〇%は慈善団体に寄付します」と発表するようになった。
まさに、「自分のライフスタイルや価値観を選択する日」なのだ。
企業の価値観が露わとなる日
ブラックフライデーに便乗するか・しないかで、企業の価値観は露わとなり、消費者がその姿勢を支持するか・しないかを判断するきっかけとなる。
石油採掘で裕福なノルウェー。公営消費研究所の調査によると、ノルウェーでは1人あたり359の衣服を所有しており、5着に1着は一度も使われずにいる。世界中の人々がノルウェー人と同じような生き方をしたら、地球は3個分も必要だそうだ。
「服は美しい。けれど、気候変動対策のための目標を達成するためには、服の話題は避けては通れない。服を買う量を減らし、政治家は消費量を抑えるための政策に乗り出さなければいけない」と同研究所のクレプ氏は語る。
自然保護団体のギルグレン氏は、「店に入る前に、必要かどうか、自分の頭でもっと考えて。本来は、誰もこれ以上の新しいものはいらないはず」と話した。
「クレームせずに、不満足だった服を黙って寄付する人が多すぎる。問題を指摘しなければ、企業は質の悪い服を生産し続けます」と語るのは、消費者団体のインステフィヨール氏。
オスロ市長であるマリアンネ・ボルゲン氏は、ブラックフライデーによって、市民が「何かお得なものを買わなきゃ」というストレスに追われ、よりたくさん消費をするようになったことに、眉をひそめる。
「私が小さい頃は、人々は今ほど裕福ではなく、服はこれほど安くはなかったので、たくさんの買い物をすることはありませんでした。服の交換会をきっかけに、新しいものは買わなくてもいいかなと、市民の考えに変化を起こすことができたら嬉しい」と市長は答えた。
同じ服を、何回も大事に着る市民を増やそうと、政治家が動きだした。
ファッションの「当たり前」を変えるために、今後は消費者や企業だけではなく、政治家の責任もより問われるようになるのかもしれない。