8月14~16日、オスロ・ファッションショー「オスロ・ランウェイ」(Oslo Runway)が開催され、最新のコレクションがお披露目された。
ノルウェーファッションのこれまで
北欧各国の中でも、ノルウェーのファッションブランドやファッションショーというのは、世界的にはあまり知られていないかもしれない。ファッション業界に限らず、ノルウェーでは多くの分野で、デンマークやスウェーデンなどに後れをとってきた背景がある。
北欧の中で唯一、石油・天然ガスを国外に輸出してきたノルウェーは、資金に困ることがなく、資源以外の分野において、「のんびり」しすぎていたためだ。しかし、オイルマネーにいつまでも頼っているわけにはいかないと、「第二のオイル」となるビジネスを活性化させようと気づく。今、国からの支援をエネルギーに、各業界が重い腰をあげつつある。
一方で、ノルウェーでは、ファッション・美容というジャンルは、既存メディアからは批判的に報道されやすい。男女平等先進国であるため、外見を重視するファッション業界は必ずしも好かれない。ノルウェーの人々も、個人主義が強く、流行にはあまり大きな影響を受けない傾向がある。
機能的なスポーツやアウトドアファッションにお金を使うことは大好きだが、普段着となると、H&Mなどの格安ファッションや古着が好まれやすい。
加えて、ノルウェー独特の傾向が、「インフルエンサー」に対する厳しさ。
SNSインフルエンサーに厳しい国
SNSやブログでたくさんのフォロワーを持つノルウェー人インフルエンサーたちは、業界からお金をもらって商品を宣伝し、若者のメンタルヘルスに悪影響を与える、として叩かれやすい。
叩かれすぎていて、たまに可哀そうだなとも感じる。彼女たちは、日本だったらもっと優しく受け入れられていただろう。
ノルウェーでの「普通」が日本に持ち込まれると、たくさんのメディアや読者モデルなどが、批判を受けることになるだろう。
ファッションショーの紆余曲折
オスロ・ファッションショーにも影の時代があった。以前やっていたものは、あまりに不評で2012年に打ち切られ、新しく立ち上がったのが今のオスロ・ランウェイ。
ノルウェーでは各業界が政府や自治体から補助金をもらうのが当たり前だが、ファッション業界が(国民の税金を)もらおうとすると叩かれる。そのような報道が、今年はやっとなくなっていた。
ノルウェーという国は、ファッション業界を盛り上げたいと思う人には、可能性がある市場にも、可能性がない市場にもうつるだろう。
私は個人的にはファッションは好きなので、「がんばれ~」と密かに思う。
ミニマリズムの北欧ファッションに進化の兆し?
さて、今回のオスロ・ランウェイからのレポートをお届けする。
「北欧ファッション」といえば、ここ数年の全体の傾向として、「ミニマリズム・機能的・シンプル」があった。
カラフルだったり、奇抜なデザインは珍しい存在。写真映えすることよりも、北欧現地で「売れるか」という目線が重視された。
ノルウェーの消費者に好かれることを気にしてしまうと、陥ってしまうのが、「安全路線」と「白黒の世界」。
ノルウェーの人は、アウトドアウェアは驚くほど派手な色を組み合わせて着るのに、普段着となるとモノトーンカラーを好む。
特に、黒信仰がすさまじい。
「北欧は冬が寒くて暗いから、インテリアなどには明るい色を好む」という決め台詞を日本のメディアではよく見るが、その定義はファッションにおいては全く通用していない。
ノルウェーの冬ファッションは、黒色で溢れる。電車の中には黒色の服を着た人でいっぱい。その反動で、「みんな」とかぶることが好きではない私は、黒色の冬コートをこの国では着たくない。
その黒シンプルな法則が、今回のショーでは全体的に破られつつあるので、なんだかほっとした。
フランスなどの他国に比べると、まだまだ落ち着いた型でおとなしい色使いだが、ノルウェーブランドが、「実験」をやっと始めたと感じる。
そういう意味で、ノルウェーの「by TiMo」は、色と花柄・フェミニンさ満載! 見ていて楽しくなるコレクションを毎回発表する。
日本の着物や羽織から影響を受けた洋風キモノガウンがトレンド
by TiMoは、ノルウェーのファッションブランドを代表し、「あなたは美しい」(You are beauriful)と謳い、女性たちを応援する。ノルウェーで働くビジネスウーマンたちが、パーティーなど「ここぞ」という場で、好んで着ている。
インスタ映えもするのがさらに人気の秘密。
これからの活躍が楽しみなHAiKW/
ファッションウィーク中には、複数の候補者ブランドの中から最も優秀な者に、ビクボク賞が贈られれる。今回の受賞ブランドは、HAiKW/。
個性的でカラフルな服をまとい、コツコツと大きな音を立てる不思議な木製の靴で歩くモデルたち。
HAiKW/の素晴らしさは秀逸で、アワードを受賞したことを意外だと思った人は、ほとんどなかったのではないだろうか。
ノルウェーファッションのイメージを覆すかのような独特な世界観。今後の若いデザイナーにも良い影響を与えるだろう。
「私たちは強い」、女性への応援メッセージ
今回は「女性の強さ」と、「互いを応援しあうこと」をメッセージとして発信するブランドが多かった印象を受ける。
「Pia Tjelta」は、地元では人気の女優ピア・シェルタ氏による新ブランド。オスロのファッション通りと呼ばれ始めているプロメナーデンで、「女性の行進」を演出した。
「強い女」「彼女は自分が求めていたヒーロー像に自分でなった」「フェミニズムはみんなのために」などの言葉が書かれたプラカートで行進する女性たち。
音楽や行進の印象が強すぎて、服の印象があまり残らなかったのだが、特定の消費者に強いメッセージを送ることには成功したのかもしれない。
「覚えておいて。私は世界で一番強い女性」と書かれたIbenのTシャツ
#MeTooは、ノルウェーでも大きな影響を及ぼした。有名な政治家などが辞任、各業界でも続々とセクハラ告発が起こる。米国のトランプ大統領のニュースも、自分事として受け止める人が多めのノルウェーで、女性たち同志で互いをサポートしあうことの重要性を強調する人は多い。
働く女が多い国では、歩きやすい靴で!
最後に、ノルウェーのファッショントレンドで、私が一番好きなのは、「靴」かもしれない。
働く女性が多く、外見美なんてどうでもいいと思っている人が多いこの国では、細いヒールよりも、スニーカーが大人気。
ノルウェーに来て、私はヒールを一切履かなくなった。会場にもファッショニスタたちは、太いヒールか、平たい靴で登場!最近のトレンドとしては、スリッパのような靴も目立つ。
ヒールをはかないところはノルウェーのいいところだ。
Photo&Text: Asaki Abumi