日が暮れると、優しいオレンジ色の街灯がともる。夜空を見上げれば満天の星に、うっすらと流れる天の川。町の高台にある「星空公園」に天文ファンが集まってきた。
1954年に四つの村が合併して、町を流れる美山川と星田川から、美星町と名付けられた町は1989年、他の自治体に先駆けて「光害防止条例」を制定。夜10時以降は屋外照明の消灯を促すといった取り組みを始めた。1993年には美星天文台が開館。2005年に井原市と合併後も、条例は町の区域で適用されている。
ただ、条例制定から30年がたったころ、「町が明るくなってきた」という声が多くなった。防犯灯が、省エネで長寿命の白色LED照明に変わり、上空への光漏れが指摘され始めた。そんななか、市は星空保護区の認定を目指して活動を始めた。
認定には、まぶしすぎない電球色の照明に替え、光漏れもなくすことが必須だった。だが、当時、国内製品で認定基準を満たす防犯灯はなかった。そこで、市はパナソニック(本社・大阪府)に相談した。
パナソニックは、グラウンドや建物の照明で、光を当てる対象物以外を照らしてしまう光漏れを抑える光害対策用の製品を展開してきた。だが、上空への光を抑える照明ではなかったため、開発を開始。黒い遮光板を付けて上空への光漏れが0%になる照明をつくった。町内の防犯灯や道路灯など計740基が、この照明に交換された。
パナソニックの唐沢宜典さんは「社内に評価試験の設備が充実していたこともあり、うまく開発が進んだ」と振り返る。
町観光協会は、照明の交換費用の一部をクラウドファンディングで集めた。市観光交流課の職員として星空保護に携わる藤岡健二さん(52)は「全国からたくさんの寄付をいただき、認定を目指すうえで自信になった」と話す。
条例の一部改正や、照明の環境整備といった取り組みが実を結び、2021年11月、星空保護区に認定された。
当初、暗くなることによる犯罪への不安や、自販機の照明を落とすことで売り上げが減るのではという懸念の声もあったという。
ただ、今ではそんな声を聞くことはない。市が行ったアンケートでは、照明の交換直後は、町の印象について「明るさがちょうど良い」が24.5%、「とても暗すぎる」が25.3%だったが、半年後にはそれぞれ32.3%、20.9%と変化している。
「犯罪は増えていないし、電球色の街灯が並ぶ様子に『雰囲気がいい』と言ってくれる人が増えた」と藤岡さん。アンケートでも、約80%が星空保護区を「誇らしい」と答えた。今では、星空観光ツアーを商品化して星空ガイドを養成。小中学校での教育にも力をいれる。
一方で、宿泊施設や飲食店が少なく、交通が不便といった課題も残る。藤岡さんは「『認定されて何が変わったん?』という声があるのも事実。時間はかかるが、星空の町を守り、育てていきたい」と話す。
世界では、200カ所以上が保護区に認定され、日本でもほかに沖縄県の西表石垣国立公園、東京都の神津島、福井県大野市南六呂師が認定された。さらに、沖縄県国頭村や群馬県高山村などが認定を目指す。