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UFO目撃情報がアメリカで急増、なぜ 研究者が教える理由に納得

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
Virginia “Cookie
宇宙人と出合った場所の一つに立つバージニア・ストリングフェロー=2021年4月5日、Libby March/©2021 The New York Times。ここはニューヨーク州ロチェスター近郊の自宅にほど近く、戦死した米軍人を偲ぶ一角がある

バージニア・ストリングフェロー(75)には、もう何年もごく限られたサークルでしか語らないできたことがある。

米ニューヨーク州北西部の都市ロチェスターの近郊にある自宅の庭にいたとき、宇宙人に連れ去られた……。

そのことを話す相手は、みなUFO(unidentified flying object=未確認飛行物体)と出合った体験の持ち主ばかりだ。

ところが、そのサークルへの出席者が、この1年で急に増えた。地元の人たちだけで毎月開いていたUFO体験者の会に、次々と新顔が加わるようになった。平均で毎回5人ほど。最近、空に浮かぶ謎の物体を見たという人たちだ。この他に、地元以外からも参加しようとして果たせない人が、まだ計50人ほどもいる。

「断らねばならない人もいるぐらい」とストリングフェローは肩をすくめる。

これを裏付ける数字がある。2020年のUFOの目撃情報は、ニューヨーク州では前年の倍近くも増え、計300件ほどになった。米国全体では、約1千件増の7200件超に上る(UFO関連情報を集めている非営利団体「全米UFO報告センター=National UFO Reporting Center〈NUFORC、本拠・ワシントン州〉」調べ)。

UFO研究家によると、こんな現象が起きているのは、宇宙人の侵略が始まったからではない。むしろ、別の侵略者が引き起こしているようだ。

その正体は――新型コロナウイルス。ロックダウンで巣ごもりを余儀なくされ、空を見上げる時間が増えたからだ。

ニューヨーク州では、都会を脱出する人の群れすらできた。そして、州中部のキャッツキルや州北部のアディロンダックといった山地に移り住んだ。夜間の明るさによる光害もほとんどなく、満天の星がきらめく。その様子はTikTokで急速に広まり、反響は何百万ビューにも達した。

一方、NUFORCが収集した20年の米国全体の目撃情報を月別に見ると、4分の1が3月と4月に集中していた。ロックダウンが最も厳しかったときだ。長年のUFOマニアたちも、じっくり夜空を見上げる人がパンデミックで増えたのは間違いないとしている。

さらに、もう一つの要因も加わった。

地平線のかなたに見えた光の揺らぎを知らせた方がよい。そう考える人を増やしたと思われるのは、20年夏の米国防総省の発表だ。米軍機から目撃された、いわゆる「unidentified aerial phenomena(UAP=未確認空中現象)」(訳注=主に正体不明の無人偵察機などによる領空侵犯を想定。宇宙人飛来の意味合いを持つUFOとは力点が異なる)について、実態解明にあたる特別チームを発足させることを明らかにしたのだった。それに先立ち、(訳注=20年4月には)この現象をとらえた三つのビデオ映像の軍事機密が解除されている。

しかも、おまけが付いた。この案件を含む総額2兆3千億ドルの関連予算に、当時のトランプ大統領が20年暮れに署名した。その中には、国防長官と国家情報長官が共同でUFOについての報告書を作り、公表するという条項も入っていた。

「政府のこうした方針は、私たちのようにUFO学に携わる多くの者の励みになる」とNUFORCを率いるピーター・ダベンポートは評価する。「こうした事象の存在を政府として公に確認し、目撃情報を寄せる人々に真剣に向き合う姿勢を示しているからだ」

「政府側は、以前は私のような者は、頭がおかしいだけと思っていたようだ」とダベンポートは語る。「そんなことはないのに」

では、UFOの目撃情報が増えている現状をどう見るか。ダベンポートら専門家は、ただちに空飛ぶ円盤の増加を意味するわけではないと指摘する。

UFOとは、すぐに正体を確認できない空の事象を単に指しているにすぎない。NUFORCに寄せられる目撃情報のほとんどは、精査すると、そう時間をおかずに何だったのか分かる。鳥やコウモリ、人工衛星、飛行機、ドローンなどだ。

実際に20年の目撃情報の数多くは、すぐに特定の人工衛星と確認された。あの(訳注=電気自動車最大手テスラの経営者)イーロン・マスクが宇宙探査のために設立したスペースX社が打ち上げた衛星が、(訳注=ネット接続サービスの)試験運用をしながらアイダホ州北部の上空を通った光跡だった。

さらに、ニュージャージー州上空に静止した物体もあった。そのビデオ映像は、TikTokでまたたく間に広まった。しかし、米タイヤメーカー、グッドイヤーの小型飛行船であることが判明した。

「優秀なUFO研究家は、海千山千の経験をして、この上なく懐疑的な見方をするようになるものだ」とダベンポートはいう。

寄せられた情報にNUFORCがふるいをかけると、真に正体不明の未確認物体として残るのは、ほんの一部にすぎない。目撃情報が増えても、それはそうは変わらないというのがダベンポートの経験則だ。

UFOの目撃情報が見るからに増えることは、ままある。すると、UFOの研究者たちはつっけんどんになる。

これまでも、情報件数の増加は定期的に繰り返されてきた。目撃情報が増えると、よくニュースで取り上げられるようになる。それが、また目撃情報を増やしてしまう――ダベンポートは、そう警告する。

ニューヨーク州での急増についていえば、新型コロナウイルスから逃れようとして都会を脱出した人たちが、地方での目撃情報の件数を押し上げたとクリス・デペルノは見ている。民間の研究家を互いにつないでUFOの報告事例を調べている非営利団体「相互UFOネットワーク(Mutual UFO Network=MUFON)」ニューヨーク州支部の副支部長だ。

Chris DePerno, assistant director of the New York State branch of the Mutual U.F.O. Network, in Marcellus, N.Y., April 6, 2021. Sightings of unidentified objects in 2020 nearly doubled in New York from the previous year, to about 300, according to data compiled by the National U.F.O. Reporting Center. (Libby March/The New York Times)
民間のUFO研究家を束ねる非営利団体「相互UFOネットワーク」のニューヨーク州支部の副支部長クリス・デペルノ=2021年4月6日、同州北部、Libby March/©2021 The New York Times。コロナ禍で都会から州内の地方に移り住んだ人たちのUFO目撃情報が、大幅に増えているという

都会のようにひどい光害がない夜空で、移住者たちはさまざまな発見をする。

「ニューヨーク市の北にあるハドソンバレーにやってくる。美しい自然と、澄み渡った空がある。突然、すごい勢いで夜空を動くものを見つける。狭い空間に止まったかと思うと、急発進し、また戻ってくる。猛スピードで」と元刑事のデペルノは目撃情報を再現してみせる。

そして、首を振る。「コロナ禍なんかが起きるものだから、空を見上げる人が増えてね」

それでも、目撃情報が増えたことでほっとしている人たちもいる。空中に浮かぶ不思議な物体を見たのは自分だけだと、それまでは思い込んでいたからだ。

「国防総省が(訳注=UAPやUFOのことを真剣に受け止めていると)カミングアウトしてくれたので、関連ニュースが増え、目撃情報の通報も増えた」。菓子の「クッキー」という仮名を使っている冒頭のストリングフェローは、今はさして警戒もせずにこう話せるようになった。

「『もう、びっくり。森や湖にいたら、あの物体が下りてきたんだ』という話を、これまではみんな胸の内にしまっていた。でも、もう、そんなに心配することもなくなった」

一方で、社会に完全に受け入れられるには、まだ時間がかかると思う人がいるのも確かだ。

ニューヨーク州立公園警察の元警官で、隣接するバーモント州に近いグランビル出身の男性(65)。UFOや地球外生命体の存在を信じているが、それを公表する気にはまだなれないでいる(このため、匿名を条件に取材に応じた)。

冷笑の的になるとの心配がくすぶり続けており、それがUFOの目撃件数を実際よりも押し下げているとの見方を、この元警官は示した。そんな状況さえなくなれば、確実に件数は伸びると考えている。

その上で、移住してきた都会の人には、UFOを見ても大騒ぎをしないでほしいと訴える。

30年ほど前のある晩のこと。現役警官だった自分も目撃した。パトロール勤務を終えたときだった。(訳注=先のハドソンバレーを通る高速道路)タコニック・ステート・パークウェーの脇に浮かぶ巨大な物体が目に入った。長さは、アメリカンフットボールのフィールドほどもあった。

そんな目撃をしたときは、からかわれるのを恐れて通報するのをためらいがちになる。しかし、最も大切なのは、勇気を出して知らせることだと元警官は話す。そして、こう続けた。

「UFOを見て通報する人がたくさん出てくれば、目撃談は本当のことなんだと世界中が信じてくれるようになるだろう」(抄訳)

(Sarah Maslin Nir)©2021 The New York Times

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