「光の都」と呼ばれるパリで7~9月、「星の下のパリ」と題したイベントが開かれた。フランス天文学協会(AFA)とパリ市が企画する毎年恒例のイベント。市内南西部の公園では8月末の夜、AFAのメンバーが望遠鏡を用意して市民ら約50人を迎えた。
参加者が肉眼で見えない星を見つけて喜ぶ姿に、AFAのニコラ・フランコさんは「ストレスの多い現代こそ、星空を見て平穏に過ごす夜が必要だ」と訴えた。
フランスでは2009年に施行された包括的な環境保護法で、電力の浪費や星空鑑賞の妨げにつながる夜間照明を規制の対象とした。深夜1時以降の街頭広告や看板の消灯など具体策が定められ、欧州では光害対策の先進国の一つとされる。
ロシアによるウクライナ侵攻を背景に起きた燃料費の高騰を受けて、パリ市は2022年12月から、節電と光害対策を目的に、街頭広告の消灯時間を国の規制よりも厳しい午後11時45分としている。
しかし、夜空の保護を訴えてきた市民団体「ANPCEN」のミシェル・ドロムさん(67)は「パリは明るすぎる」と指摘する。違反者への罰金もあるが、市の対策は、職員の人手不足などで取り締まりの実施が限定的になっているという。
地方都市では、治安面の不安の解消が課題だ。「夜間照明が消されるせいで、ヘッドランプをつけないと歩けない」。9月10日、仏南東部グルノーブル市の市長エリック・ピオルさん(51)をゲストに迎えたテレビ番組で、司会者が市の清掃員の意見を読み上げた。夜間照明の抑制が治安悪化を招いているかのような物言いにピオルさんは「フェイクニュースだ」と反論した。
同市は2015年に光害対策を本格化し、約2400カ所の街灯を削減。副市長のモード・タベルさんは取材に「住民の理解を得て粘り強く進める政治的意思が欠かせない」と話した。照明を減らした地区のガイド付き説明会を開くなど、住民に必要な明るさは確保していると体感してもらう取り組みを続けている。
観光大国のフランスでは、名所のライトアップと照明の抑制の両立も課題。ANPCENは、名所については訪問者数の調査を通じて効果的な時間帯に限った照明の点灯を勧める。
東京では「明かりの質」チェック
「ここは、光の犯罪者。ここは英雄」
9月21日夜、東京都の有楽町・日比谷周辺で、若者たちがネオンや照明の場所を地図に落とし込んでいった。まぶしすぎるなど課題がある光は「犯罪者」で青いシールを貼る。よい照明は「英雄」で赤いシール。参加者で意見が分かれるときは、黄色いシールを貼った。地図には、青が四つ、赤が四つ、黄色が一つ並んだ。
照明デザイン事務所、ライティングプランナーズアソシエーツ(LPA)が主催する研修の一コマだ。照明デザイナーの道を考えている学生らが参加した。
LPAの面出薫代表は、穏やかな色合いが特徴的な東京駅丸の内駅舎のライトアップを手がけた。1990年から、照明のあり方を考える市民参加のワークショップ「照明探偵団」も主宰する。
この日の研修は、探偵団の手法を知ってもらおうと企画。指導役の照明デザイナーの村岡桃子さんは「スポット的に明るすぎるものを規制するだけでなく、まち全体でどういう明かりにしていきたいか、地域のコンセンサスが重要。目に障害がある方のために一定の明るさの担保を考える必要もある」と語りかけた。
東京都は2018年、「東京都景観計画」の大規模建築物の景観形成基準に夜間照明の事項を追加。手引も作り、光の色や照明の当て方などのポイントを示した。手引作りにはLPAも協力した。
中央区では2022年6月、光害と判定する照度などを定めた光害防止指導要綱を独自に施行。きっかけは、電子掲示板などへの苦情の増加だった。区内は銀座など商業地域も多く、住宅地域が隣接する。担当者は「光害への意識を高めていくことが大切」と話す。