人間は昼は太陽の光を浴び、夜はほとんど浴びない生活をして進化してきた。それをもとに、体内時計のシステムはできている。だが、現代人は逆に、昼間は建物の中で太陽光をあまり浴びず、夜は多くの人工の光を浴びてしまっている。
夜間に人間が強い光を浴びると、メラトニンという体内時計を調節するホルモンの分泌が減るという研究結果がある。
米ハーバード大の研究によると、夜間に100ルクス程度の薄暗い光を浴びるとメラトニンの分泌が約90%抑えられ、3ルクス程度でも約10%抑制されるとの結果が出ている。ちなみに月明かりは1ルクスほど、一般的な部屋の明るさは100~200ルクスほどだ。
メラトニンは、体内時計を調節する作用や睡眠を促す作用などがあり、それが減ることで体内時計のリズムが乱れ、睡眠障害やうつなどの疾患が誘発される可能性がある。
奈良県立医科大疫学・予防医学講座の大林賢史特任准教授らは、日常生活における光の健康への影響について、2010年から研究を続けている。
睡眠時の寝室の明るさはどのくらいか、外に出ることが多いか少ないか、毎日どのくらいスマホを見るのか、照明や太陽の光の浴び方は人によって様々だ。
これを、腕時計型照度計や寝室に設置した照度計で測って調査する。そして、その人のその後の健康状態を追跡している。
成果の一つに、肥満との関連性を調べた研究がある。
奈良県に住む40歳以上の男女2947人を対象に、寝室の明るさを測って調べた。夜の寝室が明るい人たち(平均照度4ルクス以上、上位25%)は、暗くしている人たち(平均照度0.2ルクス未満、下位25%)に比べ、BMI(体格指数)、腹囲長、中性脂肪、LDL(悪玉)コレステロール値が高い値を示した。
大林さんは「夜間の光を多く浴びるほど、体内時計が乱れ、肥満を引き起こす可能性がある」と話す。
他にも大林さんらの調査では、夜に光を多く浴びることが、睡眠障害、うつ症状、高血圧、糖尿病、動脈硬化などと関連することが明らかになっている。
大林さんは、睡眠環境の指導にも力を入れる。「夜は暗くして寝る、スマホを寝室に持っていかないなど『要するに原始人のような光の浴び方をすると健康になる』と指導している」と話す。