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家事はすればするほど健康上のリスク…女性のメンタルヘルス 新型コロナでさらに悪化

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
汚れた食器がシンクにいっぱい積み重なっている
汚れた食器であふれたシンク。一般的に、女性は男性より長い時間を家事や介護に費やしている=Maggie Steber/©The New York Times

世界中の国々で、女性は男性より多く無給労働をしている。家事や育児、高齢者の介護などだ。それに、家族のことを切り盛りする精神的負荷も男性より大きい。

新たな研究は、そうしたことが女性たちの多くにとって、健康上の負担になっていることを示唆している。

女性がこの種の労働をすればするほどメンタルヘルス(心の健康)に悪影響があることが9月、学術誌「The Lancet Public Health(ザ・ランセット公衆衛生)」に発表された。この研究は、世界7万310人を対象にした計19の調査のメタ分析で、有給で仕事をしている人の無給労働について調べた。

他の最近の研究でも同様に、女性の家事労働は身体と精神の両面で健康状態の悪化と関連していることがわかっている。

この分析結果は、女性は男性と比べて不安障害やうつ病と診断されることが多い理由を示唆しており、(子どもたちの)学校が再開され母親が仕事に戻った現在、彼女たちがパンデミック(感染症の大流行)前よりもストレスを感じている背景を説明する一助になる。母親がパンデミック中に担った追加労働がメンタルヘルスにもたらした影響が今もなお続いているのだ。

「新型コロナウイルスの流行は多くの点において、苦労して獲得した男女平等の成果を失速させるか、逆戻りさせてしまった」とジェニファー・アービンは指摘する。この研究論文の筆者の一人で、豪メルボルン大学「健康公平センター(CHE)」の博士候補生だ。

「(今回の結果は)男性が同等に分担して、女性に偏っている無給労働の負担を軽減することで、女性のメンタルヘルスを改善できる可能性があることを示している」と、彼女は付け加えた。

今回の研究で、家事や育児が男性のメンタルヘルスに及ぼす影響ははるかに少ないことがわかった。それは、おそらく男性は家事や育児をあまりしないからだ。

経済協力開発機構(OECD)のデータによると、米国では、女性の無給労働の時間が1日平均4.5時間なのに対し、男性は2.8時間(その人が雇用されているか否かに関係なく、全体の平均を算出)。ギリシャは女性が4.3時間で男性は1.5時間、スウェーデンのように男女平等が最も進んでいる国でも、女性は男性より1日に50分多く無給労働をしている。

(新型コロナによる)ロックダウンの最中、男性は以前より長く無給労働をしたが、女性もそうだったので、両者が費やした全体的な時間の比率は以前とほぼ同じだった。このことは多くの国でも同様だった。

(なぜ、無給労働が男性のメンタルヘルスに及ぼす影響ははるかに少ないのか?)。男性が行う無給労働のタイプは、一般的に時間にとらわれることが少なく、楽しいか、少なくともより許容できるものだからでもある。

たとえば、男性は芝刈りのような戸外の作業を担当することが多く、そう頻繁ではないし、自分なりのスケジュールで取り組む。女性の場合は、食事の支度や掃除のような一定の時間にやる必要がある日々の仕事をこなす可能性が高い。

社会的な期待にも、おそらく一因がある。

たとえば、複数の研究によると、女性は家をきれいに保つことにプレッシャーを感じており、そうしないと非難されているように感じてしまう。一方、男性は家の掃除や、子どもを約束の場所に連れて行くといったありふれた仕事をしてもほめられることがよくある。

「時間の欠乏」は、仕事や余暇活動をする十分な時間がないことを表現する時に社会学者が使う用語だが、それは特に介護をする必要がある女性や自由がきかない低賃金の仕事をしている人に影響を及ぼす。

研究によると、時間の欠乏はメンタルヘルスを悪化させるし、運動や睡眠、友だち付き合いといった健康増進のための活動も困難にする。

ある研究では、異性のカップルは有給や無給の仕事の責任を分担する傾向が高まっているが、男性は週末により多くの余暇を過ごし、女性は家事により時間を費やすことが判明している。

子どもの世話をするために有給の仕事をあきらめる親が無給労働をすることに幸せを感じるケースがあることもわかっているが、常にそうだというわけではない。それが望んでいることと一致しているのか、あるいは選択の余地がほとんどないと思っているのかによって違ってくる。

米ユタ大学の社会学者で、この問題を研究しているダニエル・L・カールソンは「より大量の、あるいはより多い割合で無給の家事労働を受け持つことが身体的ないし精神的な健康に悪影響を及ぼすかどうかははっきりしない」と言っている。

「そうした任務に中心的な責任を負いながらも、ジェンダーの点で非常に因習的な考え方の母親は、負担を受け入れる。しかし、(無給の家事労働の)負担についてもっと平等であるべきだと考えている女性はメンタルヘルの悪化を招く」と彼は指摘する。

そうしたことの一部に、アイデンティティーの不一致があると彼は言う。「こういう人になりたいけれど、自分はそうではない」といった不一致だ。

早い話、同性カップルは子どもを持ったら仕事と家庭の主な責任を分担する傾向があるが、その負担の区分に満足しやすい。研究によると、同性カップルは性別に基づく負担の分担よりも、どちらが何をするかについてより頻繁に話し合うからである。

ランセットに論文を発表した今回の研究者たちは、19の研究から最終的な結論を導くのは難しく、さらなる研究が求められると言っている。

学術研究で欠けていることの一つは、いくつかの新研究がそれに対処し始めているが、さまざまなタイプの日々の仕事と責任がどのように人びとに影響するかについてもっと詳細に調べることだ。

たとえば、人は洗濯より買い物、皿洗いより料理の方を好む傾向がある。育児は家事よりやりがいを感じるかもしれない。それに、子どもと一緒に読書をしたり散歩に行ったりすることの方が、駄々をこねる子をなだめたり、朝3時に夜泣きをあしらったりすることより楽しいかもしれない。

ただし、男性がもっと無給労働を引き受ければ、女性の負担が軽減されるのは明らかだ。そう研究者たちは言っている。(抄訳)

(Claire Cain Miller)©2022 The New York Times

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