先日、企業の採用面接での女性差別が話題になりました。
記事によると、ある子持ちの女性が企業の採用面接で「2人目の子供を作る予定があるかどうか」を聞かれた上に、「子供が熱を出した時などは誰が対応するのか」と質問されたそうです。女性が「夫が対応する」と答えたところ、夫の仕事内容や部署についてまで質問が及んだことが書かれています。
1985年5月に成立した男女雇用機会均等法の第5条は「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」としているため、性別を理由に、女性だけに「子供」にまつわる質問をすることは差別に該当するといえます。
しかし実際には、面接を受ける側は立場が弱く、「この会社に入りたい」という気持ちが多少なりともあるから面接に挑んでいることを考えると、その場で「お答えできません」と回答したり、反論したりすることは現実的ではありません。
上記の記事では、「そんな時代遅れの質問をする会社なら入社しない。面接の段階で気づけて逆に良かった」という考え方をすることは解決になっていないとしています。
なぜならば、このような差別的な質問を投げかけられることが、女性らの仕事へのやる気をそぎ、正社員のポジションを「諦めること」につながっているからです。
実際にコロナ禍では、雇用形態が「非正規」であったがために多くの女性が経済的に困窮しました。
面接で妊娠の有無を聞かれたらうそをついてもいいドイツ
ドイツには、面接の際に会社側が応募者に妊娠の有無について尋ねてはいけないという法律(ドイツ一般平等待遇法、第7条)があります。
女性にだけ妊娠に関する質問をすると、面接の際に女性が男性よりも不利になるため、これが性別による差別だと見なされます。
「妊娠しているか」「今後の妊娠の予定」などについて面接担当者に聞かれた場合、ドイツでは「うそをつく権利」があります。
つまりうそをついてよいということです。質問をされた場合、うまくかわしても良いですし、真っ向から「答えられません」と答えても良いですし、事実に反した回答(つまり、うそ)を言っても良いのです。
面接時に妊娠について「うそをついたから」という理由で、会社は雇用関係を解消できないことになっています。
たとえば面接時に会社側が「現在、妊娠はしていますか?」と質問をしたとします。それに対して女性が、実際は妊娠をしているにもかかわらず「いいえ、妊娠していません」と答え、その後その女性が雇われたとします。しかし次第におなかが大きくなり妊娠が明らかになっても、会社は「女性にうそをつかれた」という理由で解雇できません。
その背景には、妊娠しているかどうかの有無を尋ねること自体が違法だということが挙げられます。
「産休代理人」に妊娠の有無を尋ねるのも禁止
ドイツには「産休代理人制度」があります。名前の通り、産休に入った女性の業務を期間限定で代理の人がこなすわけです。
以前、ある女性が産休代理人として弁護士事務所のパラリーガル職に応募しました。この女性が実際には妊娠をしていたのに、面接時に偽って妊娠を隠したとして、弁護士事務所が雇用関係の解除を求めた裁判がありました。
しかしケルンの州労働裁判所は2012年10月11日の判決で、女性が妊娠を雇用主に告げる義務はないとして、弁護士事務所の訴えを退けました。
このように、産休を取る従業員の労働力を補うために雇われる、期間限定で働く非正規の雇用形態であっても、妊娠の有無を確認するのは禁じられています。
本当にフェアなのは男女が「同じハンディ」を負うこと
日本の雇用市場で女性が時に敬遠されるのは、(妊娠により)「仕事を辞めるのではないか」「勤務を時短にするのではないか」「子供の病気などで突発的に休むのではないか」といった雇用主側の懸念があるからです。
しかし男性も「子供の発熱で突発的に会社を休む」「時短で働く」「育児休暇をとる」ことが増えれば、結果として「女性は突発的な休みや時短などが多い」という考え方は徐々になくなるのではないでしょうか。実際に時短制度が進んでいるオランダやドイツのような国では、企業が女性に対してそれほど懐疑的ではありません。
語弊があるかもしれませんが、「家事や子育てを一手に引き受けてくれる専業主婦の妻のいる男性」は「残業が可能」で欠勤もあまりしない傾向があるため、本人たちに何ら落ち度はないものの、そういった状況の人が増えると、社会では「やっぱり男性は会社に貢献する」という考えが固定化されていってしまう気がします。
そのような状況は男女平等だとはいえません。男女平等というと、「同じ権利を持つ」ことだと考えられがちですが、仕事においては「同じハンディを持つ」(「残業できない」「子供の熱で突発的に休まざるをえない」等)ことなのかもしれません。
近年よく聞く「育児に積極的な男性」とは、いわば会社から見ると「懸念材料のある人」ということになるわけですが、日本の社会がこれからはこういった男性も歓迎することに期待したいです。