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「マウンテンデュー」では争わず 民主・共和両党の副大統領候補がともに好む背景とは

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
マウンテンデューは世界中で販売されている
マウンテンデューは世界中で販売されている。ポーランド・クラクフでは店頭にペットボトルが並んでいた=2022年3月、Jakub Porzycki via Reuters Connect

米社会を揺さぶる保守対リベラルの文化戦争では、ほんのつかの間だがダイエット・マウンテンデューのような清涼飲料水でさえ激しい対立点になりかねなかった。だが、今回はむしろ社会の統合役を果たすことになりそうだ。

共和党の副大統領候補のJ・D・バンスと民主党の副大統領候補ティム・ウォルズがともに、ダイエット・マウンテンデューが大好物であることが判明したからだ。

ハートランド地帯(訳注=中西部を中心とする地域。大西洋岸、太平洋岸の州は含まれない)の票の奪い合いに関心が集まっている今回の選挙において、この地域で好まれている飲料が話題になるのはもっともなことである。

ことの発端は2024年7月22日にオハイオ州選出の上院議員でもあるバンスが同州ミドルタウンの集会でこう発言したことだった。

「民主党の連中は、我々が何を信じても何をしても、人種差別主義だと非難する。私は昨日ダイエット・マウンテンデューを飲んだし、きょうも飲んだけど、きっとこのことも『人種差別主義』と呼ぶだろう。かまわないけどね」

2024年7月15日の共和党全国大会で、正式に副大統領候補に指名されたJ・D・バンス
2024年7月15日の共和党全国大会で、正式に副大統領候補に指名されたJ・D・バンス=ウィスコンシン州ミルウォーキー、CNP/NSTARimages via Reuters Connect

その日のうちにCNNテレビのニュース番組「ザ・ソース」で、ケンタッキー州知事のアンディ・ベシア(民主党)が次のように応じた。「バンスがきょう人種差別主義について冗談を言って、さらにダイエット・マウンテンデューについて触れたのは奇妙な話だ。ダイエット・マウンテンデューなんかだれが飲むのだろう」

ところが実際には飲んでいる人はたくさんいるし、ベシアの地元にも大勢いる。ケンタッキー州は、米国内でも1人当たりのマウンテンデューの消費量がトップクラスなのだ。ベシアはただちに発言を撤回し、謝罪した。

翌日の記者会見でベシアはこう言った。「ダイエット・マウンテンデューを好むなら、どうぞご自由に。私たちはみなさんを支持する。それからダイエット・マウンテンデューに対して、ごめんなさい。悪口を言うつもりはなかった」

次期大統領選に出馬する民主党の現副大統領カマラ・ハリスの副大統領候補にミネソタ州知事であるウォルズが指名されたあと、ウォルズもまたダイエット・マウンテンデューの熱烈なファンであることが報道された。

米大リーグのテキサス・レンジャーズ対ミネソタ・ツインズ戦の始球式で2019年7月7日、投手を務めた民主党副大統領候補のティム・ウォルズ
米大リーグのテキサス・レンジャーズ対ミネソタ・ツインズ戦の始球式で2019年7月7日、投手を務めた民主党副大統領候補のティム・ウォルズ=ミネソタ州ミネアポリス、David Berding/USA TODAY Sports

このことは清涼飲料水の持つ文化的意味合いを複雑にしたとも言えるし、また明確にしたとも言える。

政治家は昔から、自分が本物であり、地に足が着いていることを示すために、食べ物の話を持ち出してきた。例えば、元大統領ジョージ・ブッシュ(父)は豚の皮が好物で、ヒラリー・クリントンはいつも大好きな唐辛子ソースを持ち歩いていた。

だが、マウンテンデューが好きだというのは、もっと純粋な話で、ロナルド・レーガンのジェリービーンズ愛や、ビル・クリントンのビッグマックを食べる習慣に近いようだ。

ウォルズとバンスが2人とも、ダイエット版であれ、マウンテンデューが好きだというのは、彼らの地盤を考えれば驚くことではない。オハイオとミネソタ両州は、アパラチア山脈から米国中南部、中西部へと延びる「マウンテンデュー・ベルト」にある。

「ハートランドはマウンテンデューの一大故郷だ」と言うのは、業界誌「ベバレッジ・ダイジェスト」の編集長兼発行人のデュエイン・スタンフォードだ。「ハートランドが消費地の中心をなす」

市場調査会社ミンテルによれば、マウンテンデュー全種類を合計すると、米国内の清涼飲料水市場で第5位にランクされる。しかし、ハートランドではさらに売り上げが多く、特に年間所得5万ドル以下の世帯の男性に飲まれている。

この地域で人気がある理由のひとつは、ここが発祥の地だからだろう。マウンテンデューは、バーニーとアロイシアス・ハートマン兄弟によってテネシー州産の密造酒に混ぜて薄める飲料として考案された、と一般に信じられている。「マウンテンデュー」という名前自体が、密造酒の俗称なのだ。

会社の所有権や正確なレシピはなかなか定まらなかったが、マウンテンデューの味は現在の表現しにくいかんきつ系の甘さに落ち着き(砂糖入りバージョンの場合は、オレンジジュースが今でも3番目に多い原料である)、1964年には会社はペプシコの傘下に入った。今日では、各種のマウンテンデューが、多くの国で売られている。

ミンテルの調査員であるケイトリン・チェコウスキーによれば、バンスとウォルズの清涼飲料水の好みが同じであるのは驚くにあたらない。

「彼らは中西部出身の男性なので。異なるイデオロギーを持つ両極端な人たちだけど、人口統計の上ではいくつかの共通点がある」(これに関して、バンスの選挙陣営はコメントを断り、民主党の広報担当は後で回答すると言った)

長年にわたって、マウンテンデューは自然に、また意図的にも、この地域の田舎暮らしを連想させてきた。

「ベバレッジ」誌編集長のスタンフォードが言うには、「マウンテンデューの長年のマーケティング活動を振りかえってみると、カントリー・ミュージックの影響を大きく受けていることが多く、基本的にモトクロスとか広大な土地を駆け回るスポーツと親和性の高い同じ人たちのグループを宣伝に活用してきている」という。

調査員のチェコウスキーは次のように指摘する。マウンテンデューは、NASCAR(全米自動車競走協会)の催しとかESPN(娯楽スポーツ専門チャンネル)に広告を出しており、ボトルについている景品コードで、水上バイクやオフロードの車両などが当たるのだ。

「マウンテンデューは単に楽しい時間を過ごすためのもので、まったく気どりがない。大胆なことは何も言わない。世界を団結させるなんて言わない。単なる清涼飲料水だから」

実際、マウンテンデューの最新の広告は、昔なつかしいスローガン「デューをやろう(Do the Dew)」を復活させ、1970年代の長髪のロック歌手のキャラクター、マウンテン・デュード(マウンテンなやつ)を使っている。

マウンテン・デュードはコマーシャルの中でこう言う。「山で使う言い回しがあるじゃないか。『ケツを上げろ(Get off your ass)』ってね」

飲料が与える活力もまた、この飲料の歴史的アイデンティティーの一部である。12オンス(約350cc)缶のダイエット・マウンテンデューに含まれるカフェインは、レギュラーのコカ・コーラの缶より40%近くも多い。コーラのカフェインは歴史的には製造過程の副産物であるのに対して、マウンテンデューは常にカフェインを添加している。

共和党の副大統領候補バンスは、ケーブルTVのニューズマックスに出演した際に、高いカフェイン含有量がマウンテンデューの魅力だと紹介した。「これが良いんだ。カフェインたっぷりで、低カロリーなんだ」

スタンフォードは、高校教員の経験があるウォルズがマウンテンデューを習慣的に飲んでいることに関して、カフェインが理由だろうと推測している。裏付けるデータはないのだが、午後にソフトドリンクを飲むのは毎日の習慣になっていると、多くの教師から聞いたことがあるという。

「教師をやっていたら、昼下がりには何か元気の出る飲み物が欲しくなるものだ」(抄訳、敬称略)

(Brian Gallagher)©2024 The New York Times

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