2023年8月24日、ドナルド・トランプ前大統領が約2年半ぶりにX(旧ツイッター)に投稿した。投稿の中心は「逮捕写真」。2020年の大統領選に介入した罪で起訴されたトランプ氏が拘置所へ出頭した際に撮影された。
その下には「選挙妨害」「絶対に降伏しない!」という言葉とともに、ウェブサイトのアドレスが記されていた。クリックすると、トランプ<氏への献金を呼びかける内容となっている。
「2024年」を意味する「20ドル24セント(約3000円)」、「第47代大統領」の「47ドル(約7000円)」などを選ぶことができる。
計4事件で起訴されながらも、2024年の大統領選での返り咲きを目指すトランプ氏は、起訴されるたびに「魔女狩りだ」などとアピールし、かえって支持を伸ばしてきた。起訴は選挙資金集めのための、格好の機会でもあるのだ。米メディアによると、この投稿をした次の日だけで、418万ドルを集めた。
アメリカの選挙は長期間にわたって続くこともあり、とにかくお金がかかる。政治資金について分析を続けているNPO「オープンシークレッツ」によると、2020年の大統領選は推定で57億ドル(約8600億円)超が使われ、同時に行われた連邦議会の選挙は上下院を合わせて87億ドル(約1兆3100億円)を超えた。ともに、過去最高額だ。
使途は必ずしも明らかになっていないが、オープンシークレッツによる分析では一番大きい使い道は「メディア」で、2020年の選挙では56%を占めた。これにはテレビ広告などのほか、選挙コンサルタントへの支払いなども含まれる。
選挙にかかるお金の問題は以前から何度も問題になってきた。だが、規制は容易ではない。選挙活動のために公的資金を受け取る代わり、支出や献金が制限をされる仕組みはある。しかし、2008年の大統領選で民主党のバラク・オバマ氏が資金集めを優先するため、公的資金を受け取らないと判断。2012年以降、公的資金に頼った候補はいない。
表現の自由を重視 規制は困難
また、連邦最高裁が2010年の判決で「企業による政治献金を一律に禁じることは、表現の自由を保障する憲法に反する」と判断したことも大きい。青天井で献金を受けることが可能な政治団体の誕生につながった。
さらに、近年目立つのは、インターネットなどを通じた資金集めだ。ネットを通じた献金の特徴の一つは、200ドル(約3万円)を超えない額の献金がしやすいことだ。オープンシークレッツの分析によると、2016年の選挙では小口献金が全体の15%程度だったが、2020年は23%近くまで増えた。アメリカの政治学者らの分析では、献金の総件数は2012年に約1638万件だったのに対し、2020年には約1億9502万件と10倍以上に膨らんだ。
アメリカの法律では、陣営は選挙を通じて200ドル超の献金を受け取った場合はその人の氏名などを明らかにしなければならない。こうした小口献金は対象外で、候補者らも「草の根の支持」だと誇り、大口献金者や企業による支援よりも好感度が高い。
だが、ニューヨーク大のリチャード・ピルデス教授(政治学)は「小口献金者は両党の極端な候補を支持する傾向にある。結果的に、米国の政治の二極化を進めている」と指摘する。
実際、オープンシークレッツの分析によると、2022年の選挙で小口献金者からの寄付の割合が最も高かった下院議員候補はトランプ氏支持を鮮明に打ち出している共和党のマージョリー・テイラー・グリーン氏で、約1255万ドルのうち68.3%が小口献金だった。次に続いたのは、民主党左派で著名なアレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏で、1230万ドルのうち67.7%が小口献金だった。
「小口献金の増加は、大口献金に対抗するという意義はある。また、献金者はある程度、有権者を代表するグループとなる。しかし、それは米国の有権者全体、あるいはアメリカ市民の全体を代表するわけではない。政治献金をするような人は、一般の人よりずっと二極化している」とピルデス教授。
解決策の一つは選挙を公的資金でまかなうことだが、広く浸透はしていない。ピルデス教授は「自分たちの税金が使われることに抵抗がある人が多い」と語る。