1. HOME
  2. World Now
  3. 大富豪で慈善家、ジョージ・ソロスが読む米大統領選の行方

大富豪で慈善家、ジョージ・ソロスが読む米大統領選の行方

ニューヨークタイムズ 世界の話題
FILE — George Soros, the billionaire investor and Democratic donor, in Southampton, N.Y., July 3, 2018. The philanthropist, liberal champion and former currency trader has published a collection of essays called “In Defense of Open Society.
ジョージ・ソロス。ニューヨーク州サウサンプトンの別荘での一コマ=2018年7月3日、Damon Winter/©2019 The New York Times

ジョージ・ソロス。大富豪にして慈善家、かつては通貨投機家として知られた。自由主義のチャンピオンであり、ある特定の人びとの間ではブギーマン(お化け、妖怪、悪霊)でもある。ブギーマンのレッテルは名誉の証しのようでもある。

「私は、私の『敵』をとても誇りに思っている」。ニューヨーク・アッパーイーストサイドにある自宅マンションでのインタビューで、ソロスはそう語った。「もし私を『敵』と断じるなら、その人は独裁者か独裁志願者と言う以外にない」

ソロスを「敵」だと考えていそうな人びとを挙げれば、米大統領ドナルド・トランプと彼の個人弁護士のルディ・ジュリアーニ、それに中国政府や数えきれないほど多い陰謀論者が含まれる。

ソロスは89歳。彼に対する反発は(1)彼が自由主義を支持している(2)(訳注=2016年の大統領選挙で)トランプに反対し、ヒラリー・クリントンのような民主党候補者を支持したスーパーPAC(特別政治活動委員会、訳注=政治資金団体)を支えている(3)世界約120カ国で民主主義と人権の擁護活動を展開、しょっちゅう独裁政権に異議を唱えるオープン・ソサエティー財団(訳注=慈善団体)を彼が数十億ドルを投じて創設した、といったことから生じている。

また、ソロスがハンガリーのユダヤ系家族の出身ということもあり、反ユダヤ主義の実質的な批判の矛先になっている。

19年10月、ソロスは「In Defense of Open Society(開かれた社会を守るために)」というエッセー集を出版したばかり。彼は自身のブランドであるグローバリズム――彼が考えているグローバリズムは、法の支配による統合されたグローバル経済という意味合いだ――が、トランプが進めている「アメリカ第一主義」や貿易戦争、ブレグジット(英国のEUからの離脱)をめぐる論争や混迷の度を深める中東の紛争の中では、邪魔者扱いされていることは分かっていた。

セントラルパークが広がる窓の外を見やりながら、ソロスは中国やトランプ、20年の大統領選で現職に対抗できる候補者について語った。

その中で特に目立ったのは、ソロスが歴史の弧は間もなく彼の方向、すなわちグローバリズムに回帰するかもしれない、と確信していることだ。トランプの大統領選出とブレグジットは反グローバリズムの最悪の状態であり、そのナショナリズムへの反動が起こるだろう、と。

FILE — George Soros, the billionaire investor and Democratic donor, in Southampton, N.Y., July 3, 2018. The philanthropist, liberal champion and former currency trader has published a collection of essays called “In Defense of Open Society." (Damon Winter/The New York Times)
ジョージ・ソロス=2018年7月3日、ニューヨーク州サウサンプトン、Damon Winter/©2019 The New York Times

「トランプはとんでもないダメージを今も与え続けている」。机の椅子からちょっと身を乗り出して、ソロスは口を開いた。「つまり、先週(訳注=19年10月13日の週)、彼が中東でしでかしたことは世界におけるアメリカの影響力をぶち壊した」と米軍のシリアからの撤退発表に言及した。

「トランプは常軌を逸している。彼は国家の利益より彼個人の利益を明確に優先させている。そのことは間違いない」。ソロスはそう言った。

表情は一転明るくなって、「それが来年(訳注=大統領選のある20年)、彼の失墜の一因になると思う。だから私は物事が方向転換すると、かすかながら予測している」と言葉を続けた。

その大統領選で、ソロスが賭けているのは上院議員のエリザベス・ウォーレン(マサチューセッツ州選出)。彼女がトランプの対抗馬として民主党の指名を受けることだ。

「彼女なら勝てることがはっきりしてきた」とソロス。「私は、公的な立場は取らない。しかし、彼女には大統領の資格があると信じて疑わない」

そう言ってからすぐ、彼はウォーレンを推薦してはいない、と付け足した。おそらく、ちょっとしたコメントでも推薦したとみなされて、彼女の反対勢力に利用されてしまいかねないことをよく分かっているからだろう。

ソロスは「私は誰も推薦していない。なぜなら私は誰とでも一緒に働きたいからだ」と言うのだった。「だいたい私は自らの見解を表明することはしない。有権者が選んだ人物と共存していくしかないのだから」と。

だが、幾多の億万長者やウォール街の彼の仲間はウォーレンの政策――富裕層への課税と銀行に対する厳しい法規制――は、ソロスが財産を築いた資本主義システムへの脅威だと考えている。記者がそう問うと、彼はかつての投資仲間たちの意見には賛成できないし、富裕層への課税を支持していると繰り返し述べた(ソロスは最も金持ちのアメリカ人の財産に追加課税を呼び掛ける公開書簡に署名している)。

「私は金持ちに課税するのは賛成だ。富裕税を含めて」と彼は言った。

ちょっと間を置いて、彼は自分のことを説明する言葉を探している風だった。

「投資家は人びとを懐疑的にしてしまう」とソロスは口にした。「それが私には道徳的な問題となるのだ。私が成功するに従って、その問題が私に自己規制させ、実際に金もうけを妨げたのだ」と言葉を継いだ。

それでもソロスは、彼やウォール街の同業投資家が政治力と政治的影響力を持っている、あるいは少なくとも今回の大統領選は以前に比べて政治力が弱まっているとよく言われることについて、ことごとく一蹴した。

「アメリカの実体経済はウォール街よりずっと力をもっている。ウォール街が金の出元であること以外に、大統領を選出する上で独自の方法を持っているなどとは思わない」とソロスは言った。

それは彼の見方であろう。しかし、金は米国の政治にとって明らかに重要だ。その理由の一つとして、選挙資金に関する最高裁判決で、各政党は宣伝や投票支援活動に使う莫大(ばくだい)な資金を調達することが許されている。トランプ陣営と共和党は19年の9月までの3カ月間で1億2500万ドルという記録的な資金を調達した。

しかしソロスは、米国の人びとは国家主義的傾向にくたびれてきている兆候が見えると言い張った。

People attend a rally outside George Soros
ハンガリーの首都ブダペストにあるジョージ・ソロスが設立した中央ヨーロッパ大学(CEU)周辺で、同国のオルバン政権による同大の「国外追放」に抗議する人たち=2018年10月26日、ロイター

私たちは、米プロバスケットボール協会(NBA)の人気チーム幹部が香港のデモを支持し、中国が反発した問題についても話し合った。その中でソロスは、今回の事件は、閉ざされた社会がいかに危険であるのかを世界に見せつけたと語った。

彼は、中国の国家主席について「習近平(シーチンピン)の中国は『開かれた社会』に対する最悪の脅威だ、と私は思っている」と述べ、19年1月にスイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)での発言を繰り返しながら、中国の反論を引き起こした。そして「我々は米国の当事者が彼(習近平)の姿勢を正してくれるよう望んでいる」と語った。

ソロスは、他の閉鎖的な国家を「開かれた社会」にしていく戦略として、これまでずっと自由貿易を鼓舞してきた。しかし、期待していたその戦略も中国には通じず、「さらなる介入が必要だ」と述べた。指先を掲げるしぐさをしながら、ソロスは中国を「不倶戴天(ふぐたいてん)の敵」と呼び、西側世界は中国に対し疑わしきは罰せずの原則を過度に適用した、と語った。

「我々は中国のことを認識しなければならない。中国は、異なったシステムであり、我々とはまったく正反対なのだ」とソロスは言った。おそらくその言葉の強さを抑えようとして、彼は次のように言い添えた。「私は『反中国』ではまったくない。ただ『反習近平』なのだ」

彼は、米国は中国を開かれた社会にするためにも華為技術(ファーウェイ、訳注=中国の通信機器大手)といった企業に圧力をかけていくべきだと思っている。そうしないと、習が引き続き中国を閉ざし続けてしまうだけでなく、人工知能(AI)のような最新技術の開発がそのままの状態で何世代にもわたって維持されてしまうだろう、と述べた。

マーチン・ルーサー・キング・ジュニアの名言の一つである「モラルの領域の弧は長いが、それは正義の方に曲がる」を念頭に置いてか、ソロスは社会が開放に向かってゆくという考え方に反論して、こう言うのだった。

「歴史の弧は自ら曲がることはない。曲げていく必要がある」。そして「私は正しい方向に曲げるよう、真剣に取り組んでいる」と言うのだった。(抄訳)

(Andrew Ross Sorkin)©2019 The New York Times

ニューヨーク・タイムズ紙が編集する週末版英字新聞の購読はこちらから