「水の代わりに重りを使うことで、より安く、効率的で、環境に優しいエネルギーの貯蔵を実現できる」
そう話すのは、米国のスタートアップ企業「Energy Vault」の共同創設者でCEOのロバート・ピコーニさん(54)だ。
太陽光や風力など再生可能エネルギーが余っているときに、電気を使ってクレーンなどでブロックを高い位置まで上げておき、電力の需要に応じてブロックを落下させ、連動した発電機を回すことで発電する。原理は、ダムに水をくみ上げ、落下させて発電する揚水発電と同じだ。
水の代わりに上げ下げするのは、巨大なブロック。コンクリート製である必要はなく、残土やがれきなどでもつくることができる。落下速度の制御や発電量の最適化などを含め、一連の操作はAIを搭載した自社のソフトウェアですべて自動化している。
2017年に創業し、2020年にスイスでタワー型の試作モデルを建設。高さ70メートルのタワー上部に設置したクレーンで、一つ35トンのブロックを上げ下げし、35メガワット時を貯蔵できることを実証した。
中国・上海に近い江蘇省では、風力発電所の近くに、世界初となる商用重力蓄電施設を建設している。高さ120メートルの巨大な立体駐車場のような建物で、すでに地域の送電網と接続し、今年5月には試運転に成功。年内にも政府の最終承認を得て、本格的な稼働を見込む。最大で100メガワット時を貯めることができ、3万5000世帯分の電力を2、3時間賄うことができるという。
さらに5月末には、ドバイにある世界一高いビル 「ブルジュ・ハリファ」の設計などで知られる米大手設計事務所と戦略的パートナーシップを締結。高層のマンションや商用ビルに重力蓄電装置を組み込む計画をしており、2026年にも着工を見込む。
重力蓄電の強みを、ピコーニさんはこう挙げた。
「時間が経っても位置エネルギーは劣化しない。化学的な発火などの危険性もない。従来の蓄電池に使われるレアメタルなどの鉱物資源が不要で、サプライチェーンの心配もない。いったん建設してしまえば、数十年の長期間の利用が期待でき、持続可能性に優れている」