「ニューノーマル」はソウルを舞台に、チェら6人の男女の絡み合う奇妙な運命と、出会いの裏に潜む恐怖と絶望を描いたスリラー映画だ。チョン監督は「超自然現象や幽霊の恐怖ではなく、人間の恐怖を描いた」と語る。このなかで、チェ・ジウは笑うことのできない女性「ヒョンジョン」を演じている。チェは脚本を読んで「果たして自分に演じられるのか」と考えたという。それだけ、従来の役柄とは異なる作品になった。
日本で、チェ・ジウと言えば、2002年に韓国で放送されたテレビドラマ「冬のソナタ」があまりにも有名だ。チェは、けなげで純粋な女性ユジンを演じて高く評価された。2003年から2004年にかけて放送されたドラマ「天国の階段」も人気を博したが、その後はヒット作になかなか恵まれなかった。今回の作品も、映画としては7年ぶりの出演になる。
韓国大手紙・東亜日報で映画・ドラマを長く担当した李虎宰(イ・ホジェ)記者は「チェ・ジウは韓流スターとして大きな功績を残した女優だが、もはやトップ・スターとは言えない」と語る。「冬のソナタ」の放映から20年以上が経ち、様々な女優が活躍しているという意味だ。
そのうえで、李記者は「韓国の映画・ドラマもどんどん多様化している」と語る。韓国の映画・ドラマは1980年代までは不毛の時代が続いた。「冬のソナタ」は韓国ドラマにラブロマンスという新境地をもたらした。ただ、当時はユジンに代表されるように、「男性に守られる、はかない女性」というストーリーが受けた。演出も画一的で、「主人公の女性は貧しい家の出身」「必ず登場する財閥系の家では、大理石の食卓などが登場」「最後の別れの行き先はパリかニューヨーク」といったものがほとんどだった。
その後、韓国では2014年、ラブロマンスの要素を全く入れない社会派ドラマ「ミセン」が大きなヒットを記録した。この作品に主演した男優イム・シワンがマラソン選手を演じ、8月30日に日本でも公開される映画「ボストン1947」(カン・ジェギュ監督)にも、ラブロマンスは登場しない。
時代の流れとともに、韓国の女性の描き方も多様化した。李記者によれば、この流れに乗って成功した女優の一人がチョン・ジヒョンだという。
2001年に公開された映画「猟奇的な彼女」がヒットし、人気女優の仲間入りをした。その後も、2013年にドラマ「星から来たあなた」で高い評価を受けた。2015年に公開された映画「暗殺」では狙撃手、2021年に配信されたNetflixオリジナルドラマ「キングダム:アシンの物語」では復讐を誓って戦う女性を、それぞれ演じた。
李記者は「韓国では最近、様々な女性像が描かれるようになった。いつまでも、はかない女性を演じているだけでは、女優として評価されない」と語る。
韓国でも、「ニューノーマル」のようなスリラー・ホラー作品は手堅い人気がある。韓国では今年、公開された「破墓(パミョ)」が1000万人以上の観客動員数を超えるヒット作になった。李記者は「チェ・ジウが復帰作にホラー映画を選んだのは悪い選択ではない」と語る。
チェ・ジウは8月16日の舞台挨拶で「これからはもっと頻繁に(日本のファンに)お会いできるチャンスが増えたらと願っています」と語った。同席したチョン監督も「チェ・ジウと言えば、成熟した素晴らしい俳優ですが、いまでも常に新しい面を見せてくれる、どこまでも可能性のある女優さんだと思います」と励ました。