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81歳のバイデン氏、記憶違いなど連発で高齢批判 専門家「良好なスーパーエイジャー」

World Now 更新日: 公開日:
選挙集会に姿を見せたバイデン米大統領
選挙集会に姿を見せたバイデン米大統領=2024年4月、米フィラデルフィア、望月洋嗣

4人に3人が「(バイデン氏は)年取りすぎ」

バイデン大統領が記憶違いや言い間違えをするたび、SNSやメディアが取り上げる。3月下旬、メリーランド州ボルティモアの大橋が貨物船の激突で崩壊した事故について「電車や車で何度もあの橋を通った」と発言したが、橋は自動車専用で鉄道は通っていなかった。

大統領選に向けた同月の選挙集会では「私を米議会に送ってください」と支持者に要請。「独コール元首相と2021年に交わしたやりとり」を2月に回想した際は、実際の会話の相手はメルケル前首相だった。話し方や身のこなしも年齢と結びつけて話題になる。

米ニューヨーク・タイムズ紙とシエナ大が3月に発表した世論調査結果によると、「仕事をこなせる大統領になるには年を取りすぎているか」という質問に、回答者の4人に3人が「強く同意」「ある程度同意」と回答した。11月の大統領選で一騎打ちになるドナルド・トランプ前大統領(77)に比べ、高齢への懸念は31ポイントも高い。前回大統領選でバイデン大統領に投票した人の約2割も、2期目は職務を続けられないと考えている。

ただ、バイデン大統領は外交・内政にわたる日々の激務をこなし続け、深刻なミスは露呈していない。ホワイトハウスは2月、バイデン大統領の主治医が「健康で活動的で元気な81歳男性」と記した健康診断結果を公表し、2期目に向けて職務継続に問題がないことをアピールしたが、高齢への懸念はくすぶり続ける。

年齢差別が横行するアメリカ

バイデン大統領の年齢批判の背景について、ペンシルベニア大のマウロ・ギレン教授は「年齢差別がいまなお米国で横行している証拠」と指摘する。ミシガン大が2022年に公表した50~80歳の2035人を対象にした調査では、93%が「スマホやパソコンを使えない」といった偏見を受けたり、「価値や重要性のあることをしていない」と思われたりした、と回答した。

65%は、テレビやインターネットで「高齢者は魅力がない」と示唆する表現に触れたとし、45%はだれかから直接そのように感じさせられた、という。

「加齢に対する固定観念や偏見がエイジズムを助長しています。それらを変えるために、私たちができることはいくらでもある」。4月上旬、ワシントンで開催された「高齢化への見方を変えるサミット」で、年をとることを捉え直す全国センターのパトリシア・ダントニオ代表は呼びかけた。

ワシントンで開かれた「高齢化への見方を変えるサミット」では、議論の内容がその場でイラスト化され、展示されていた
ワシントンで開かれた「高齢化への見方を変えるサミット」では、議論の内容がその場でイラスト化され、展示されていた=2024年4月、米ワシントン、望月洋嗣

米国老年学協会を事務局とするこのグループは、年齢差別の解消に向け、連邦政府や州政府に対策を呼びかけ、啓発活動を続ける。サミットでは、Z世代やミレニアル世代、ベビーブーマーなど、年齢が近い集団を同一視して扱いがちな米メディアのあり方も議論された。

「高齢世代の増加は『老人のTsunami(津波)』とおそろしい災害のように表現されることもありますが、『多くの米国人がより健康により長く生きるようになった』と肯定的に言い換えるべきです。『年寄り』『高齢の扶養家族』という表現もより包摂的なものに変えられます」とダントニオさんは説明した。

両候補とも「職務遂行の能力は十分」

長寿研究の権威で遺伝学者のニール・バルジライ氏(68)らは、バイデンとトランプ両氏が初対決した4年前、2人の健康状態を分析。両親のいずれかが90歳以上の長寿であることや、健診データ、飲酒や喫煙をしないことなどから、ともに同年齢の平均よりも健康状態がはるかに良好な「スーパーエイジャー(超高齢者)」だと結論づけた。大統領の職務を遂行する能力は十分にあるとの指摘は、世論に一石を投じた。

「証明書に書かれる数字としての年齢は、私たちの生物的な年齢ではない、という大事な議論を投げかけたかった」とバルジライ氏はいう。

大統領選の討論会に出席するバイデン氏とトランプ氏
大統領選の討論会に出席するバイデン氏(右)とトランプ氏=2020年9月、オハイオ州、Pool/ABACA via Reuters Connect

「老化」は、運動や食事、睡眠のほか、社会との関わりや適度なストレスといった要因で大きく左右される。「生物としての年を取る速度は人によって違い、年齢自体には意味がない。日々の取り組みで長年の間に大きな個人差が生じる。同い年でも8歳なら個人差は小さいが、28歳、48歳となればかなりの差になる」

米国では、2054年までの30年間に、100歳以上の人口が現在の10万人から42万人に増加すると推定されている。バルジライ氏は、高齢者の能力や体力が様々であることを理解し、社会で活躍する機会を増やせば、経済的な貢献度も上がる、というロンドン大の経済学者アンドリュー・スコット教授らの研究にふれ、加齢に対する固定観念を変えたいと意気込む。

「年を重ねても、日々の工夫次第で、健康で楽しく過ごすことができる。そうした理解が広まれば、高齢者への偏見も変わっていくのではないでしょうか」