あまりにも虚弱で過去の時代の雰囲気
9カ月前、ガソリン価格の高騰と議会のgridlock(手詰まり)の状況で、不安を抱えた民主党支持者は、バイデン大統領の再選について、同じ評価を続けていた。つまり、あまりにもfrail (虚弱)で、政治的に弱く、too much of a throwback(過去の時代の雰囲気が強すぎた)といったものだ。
しかし、中間選挙で民主党が予想をはるかに上回る成果を手にし、さらに弱体化したドナルド・トランプ氏との再戦の可能性に直面した今、バイデン氏に関するbickering(口論)は収まったと言える。
他に有力な候補者がいないため、党組織は大統領の再選を支持することで一致団結している。80代の候補者が全国的な選挙戦のrigors(厳しさ)に挑むには、それなりのリスクがあるにも関わらず。
バイデン氏の肉体的・精神的な体力に関する懸念は、2019年に大統領選に出馬して以降、任期の最初の2年間ずっとhung over him(つきまとってきた)。さらに昨年11月に80歳を迎えたことで、米国で「大統領執務室に80代がいる」という前代未聞の状況をつくりだしている。
これまでの最高齢の大統領、ロナルド・レーガン氏は77歳で退任したが、当時は最高責任者としての年齢の限界に挑戦していると広く考えられていた。バイデン氏が2期目に出馬して当選した場合、2025年の就任時には82歳、2期目終了時には86歳となる。
ホワイトハウスは実績アピールに躍起
ホワイトハウスの関係者は、バイデン氏への攻撃をかわし、有権者の心の中にある年齢問題をneutralize(中和する)最善の方法を急いで模索していると言われている。彼らは、年齢に関する懸念を払拭するためには、大統領が活動的で熱心であることを示すことが最良の方法であると考えている。
ホワイトハウスの戦略は、バイデン氏が有権者と接する際にquick on his feet(機転を利かせる)ことをアピールすること、精力的な活動を示すために出張を増やすこと、仕事をこなせる証拠となる実績を挙げること、などである。
医療記録や彼と頻繁に交流している人々によると、ちょっとした身体の変化を除けば、バイデン氏は衰えの兆候をほとんど見せていない。
就任時70歳だったトランプ前大統領も、年齢や精神的体力に関する質問にたびたび直面した。特にerratic(不規則)な発言をしたり、incoherence(支離滅裂)になりがちだったためだ。彼はバイデン氏より運動量が少なく、食生活も悪い。トランプ氏は再度の大統領選出馬を強く示唆しており、2024年に当選した場合、2025年の就任時には78歳、2期目を終えたときには82歳になる。
トランプ氏は口撃「息を吹きかけたら倒れる」
トランプ氏は、2020年からバイデン氏を 「Sleepy Joe」という蔑称で攻撃し始め、現在に至っている。「彼に息を吹きかけたら、彼は倒れるだろう」と、最近のインタビューで語っている。
バイデン氏は、年齢に対する厳しい視線にgrown prickly(苛立ちを覚える)こともあったが、軽妙なユーモアを交え、自分の業績を強調することで対応してきた。テレビのインタビューでは、自身の実績を紹介した後、「年寄りがどうやってそんなことをしたんだ」とジョークを飛ばした。
一般市民は、バイデン氏が2024年に再出馬することに懸念を抱いている。
最近のワシントン・ポストとABCの共同世論調査、民主党の有権者のうち、2024年にバイデン氏が党の大統領候補になることを望む人はわずか31%で、そうでない人は58%にのぼった。
他の多くの世論調査でも、民主党の有権者の大多数が、2024年の候補者として他の人物を希望していることが示されている。ある世論調査員によれば、「党の支持者が離れれば、彼が再び出馬することにreticence(遠慮)が生まれ、支持も少なくなる」のだという。
「党と前回の選挙にバイデン氏を支持した人の大多数はバイデン氏に投票したのではなく、トランプ氏に投票しなかったのだ 」 と、2020年にバイデン氏に投票したミシガン州の民主党全国委員会会議の代表、リアーノ・シャロン氏は言う。「党が再び草の根に対してバイデン氏を押し付けるなら、バイデン氏の政策や約束違反、その他の大きな問題のために、彼らの多くは投票に臨まないだろう」と、バイデン氏が衰えの兆しを見せていることを懸念した。
左翼団体「立候補しないで、ジョー」
ある左翼団体は、初期予備選の重要な州であるニューハンプシャーで、「立候補しないで、ジョー 」と促す広告を出したほどだ。「彼の人気の低さを鑑みれば、賭けに出過ぎだ」と、広告の中のある女性は言った。
年齢的な懸念や世論調査の数字が気になり、「新しい血」や「世代交代」を求める声が時折あがっているにもかかわらず、民主党の選挙関係者や党員たちは、バイデン大統領の再選を応援しているようだ。公には、バイデン氏は選挙遊説が上手く現職の大統領であるから、もちろん彼は再出馬すべきだ、と言っている。
多くの民主党支持者は、半世紀にわたって党のstalwart(中心的存在)であったバイデン氏に好感を抱いており、2期目への適性を公に問うこと自体が不誠実あるいは無神経に見えることを躊躇している。彼らはまた、第一次選挙で現職の大統領がいかに弱体化したかをkeenly aware(痛感している)。
バイデン氏の仲間は、1980年にエドワード・M・ケネディ上院議員がジミー・カーター大統領との予備選に失敗し、カーター氏がレーガン氏に敗れたことを指摘している。民主党がトランプ氏の復活や、彼のような政治スタイルを実践する人物の台頭を民主主義への脅威とみなしている今、党内のあらゆるところからバイデン氏へのダメージを避けようとするenormous(非常に大きな)圧力がかかっている。
バイデン氏は、トランプ氏を打ち負かしたのは自分だけであり、再び打ち負かすのに最も適した民主党候補は自分であると、どんな人にでも念を押すのが好きである。世論調査では、バイデン氏は不人気であるにもかかわらず、トランプ氏より多くの支持を得ている。昨秋の中間選挙における共和党の後退が、党内で元大統領を弱体化させているのだ。
有力候補に動きなし 民主党に代わりはいない
しかし、バイデン氏が民主党の2024年候補になることがほぼ確実な最大の理由は、明確で強力な代替候補がいないことにある。
民主党の有力候補になれる人は、大統領選の前兆となるような寄付者の支援活動やスタッフの採用、予備選初期の州への訪問などを行っていないようだ。イリノイ州知事のジェイ・プリツカー氏やカリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏など、多くの候補者が2024年には出馬しないことを表明している。
そして、バイデン氏の後ろにunproven(実績のない)bench(控え要員)しかいないという現実がある。
多くの党関係者は、カマラ・ハリス副大統領が勝てないのではないかと深く心配している。ピート・ブティジェッジ運輸長官は、人気はあるが、重要な黒人有権者には人気がなく、さらにオハイオ州で起きた鉄道事故に対する政府の対応への批判で、その名を汚してしまった。
他にも候補者はたくさんいるが、大統領が安心して党を任せられるほどの影響を与えた者はおらず、また有権者にも有力候補となるほどの影響を与えた者はいない。
つまり、民主党の多くの有権者は別の候補者を望んでいるのに、党の権力者たちはバイデン氏を強固に支持し、バイデン氏への挑戦を検討する人たちを排除しているという奇妙な構造があるのだ。ある意味では安全な選択であり、ある意味では危険な選択でもある。