選出に15回もの投票 160年以上なかった異例の事態
今後2年間、米国議会はdisarray(混乱)が続くと覚悟しなければならない。議会が今回ほど長く下院議長の選出に失敗した例は、160年以上前までさかのぼらなければならない。
ケビン・マッカーシー下院議員が下院議長に就任するため、1月に数日間かけて15回もの投票を行う必要があった。共和党下院議員は、ホワイトハウスに大規模な歳出削減を認めさせ、一連の財政対決に身を乗り出すつもりだ。
そうなれば、米国政府がデフォルトに陥る寸前までいったbrinksmanship(瀬戸際政策)にまた戻ることになる。
共和党の保守派がマッカーシー氏と交渉し、彼の当選を決定づけた結果、破局の可能性は劇的に高まった。何日も続いたraucous(激しい)論争に終止符を打つため、党員たちは今後の予算協議でdrive a hard line(強硬路線を取る)ことに合意したという。
民主党がすでに資金不足だと指摘している医療、教育、労働などを担当する政府機関を主な対象として、数十億ドルの支出削減を目指すと思われる。
一部の共和党議員は、債務上限引き上げに賛成する代わりに、支出削減を主張するとさえ言っている。この上限は、米国政府が借り入れできる金額の法定上限であり、議員はこれを引き上げるか、停止するよう行動しなければならない。
そうしなければ、国はデフォルトに陥り、多くの専門家は世界的な財政calamity(危機)を引き起こすと懸念している。
共和党の過激派に譲歩し続け…
マッカーシー氏の指導力に対する個人的な反対があったうえ、政治的な思惑による反対もあった。彼のことを深く嫌い、どんなことがあっても彼に投票することはないと言う議員もいたし、下院の機能を抜本的に変えるために、議長選挙を利用する者もいた。さらには、既存のやり方をすべて壊そうとする者もいた。
11回目の投票でも下院議長の座に就けなかった日、マッカーシー氏は彼の就任を拒否する21人の共和党過激派に正式に降伏した。
彼は、下院のどの議員でも自分の議長の座を「vacate(明け渡す)」ための投票を自由に行えるようにすることに同意し、実質的に、自分の職を永久に失う危機に同意したのである。
彼は、造反者を規則委員会に入れ、下院での採決にsway over(影響力)を持たせ、重要な委員会指導者のポストに就かせることに同意した。歳出法案の無制限の修正に同意し、今後2年間続くだろうmayhem(騒乱)を招いた。
さらに、将来の政府機関閉鎖や債務不履行の可能性を高めるような変更にも同意した。基本的に、マッカーシー氏は、議会の秩序を維持するためのあらゆる手段を放棄することで、過激派をplacated(なだめた)のである。
マッカーシー氏の降伏によって、下院は2年、あるいはそれ以上の混乱に陥ることになった。
バイデン大統領は1月末の民主党の資金調達パーティーで、マッカーシー氏を「まともな男」と呼び、議長になるための票を確保するために下院共和党の強硬派をなだめることを余儀なくされたと述べた。「off the wall(常軌を逸した)ことを約束しなければならなかった」
債務上限めぐり 迫り来る対決
経済学者、ウォール街のアナリスト、政治評論家は、マッカーシー氏が財政保守派に譲歩したことで、債務上限引き上げのための票を集めること、あるいはそのような措置を採決することさえ非常に難しくなると警告している。
そうなれば議会は、政府の運営を維持し、請求書を支払い、アメリカの何兆ドルもの債務に対するデフォルトを回避するという基本的な仕事をすることができなくなる可能性がある。
バイデン大統領と議会は、オバマ前大統領と共和党の新議席が合意形成する11th-hour(最後の瞬間)まで国家債務不履行になりかけた2011年以来、最も危険な債務上限に関する議論を今年後半に行う可能性がある。
すべての債務制限の危機は、米国債保有者への支払いがデフォルトになる前に解決されてきた。時には土壇場で、そして多くの場合は数カ月にわたる責任の押し付け合いと提案の拒否の後であった。
しかし、今回の交渉は、2011年と2013年の共和党とオバマ政権の対決よりも難航する可能性があり、大統領と下院議長が交渉を始めると、取引への多くの障害が浮上すると予測されている(一方、トランプ政権時代の共和党は無条件で債務上限を引き上げることを日常的に行っていた)。
連邦法は、政府が借り入れできる金額に制限を設けている。しかし、政府が予算を均衡させることを義務づけてはいない。
つまり、政府がすべての請求書を支払うことができず、軍人の給与や社会保障給付、国債の保有者に対する債務を含む支払いが危うくなるという事態を避けるために、議員は定期的に借入限度額を引き上げる法律を成立させなければならない。
ゴールドマン・サックスの研究者は、そのようなシナリオを回避するためには、議会は8月頃に債務上限を引き上げる必要がありそうだと予測している。
かつて上限額の引き上げは普通だったが、過去数十年の間に次第に難しくなり、共和党は上限額をcudgel(棍棒)のように使って歳出削減を強要するようになった。
共和党は、経済に打撃を与える可能性があることを理由に、上限引き上げを強要する。債務上限の引き上げは、新たな支出を認めるものではなく、米国が既存の債務を賄うことを認めるだけである。もしこの上限が引き上げられなければ、政府は軍人の給与や社会保障費など、すべての支払いを行うことができなくなる。
バイデン氏、条件交渉を拒否 危険で不透明な先行き
共和党は、有権者、特に金融市場を安心させるために、米国経済を崩壊に向かわせることはないと言っている。
しかし、バイデン氏が連邦政府支出の大幅削減を受け入れない限り、法定債務上限の引き上げを拒否するという。
一方のバイデン氏は、議会が無条件で借入限度額を引き上げることを期待しているうえ、引き上げのための条件交渉は行わないと繰り返し述べている。
有権者の間では、赤字削減への支持は少なくなった。ギャラップ社によると、2011年3月の世論調査では、64%の人が連邦政府の支出と赤字を「個人的に非常に心配している」と答えたが、2022年3月にはこの数字は48%に低下している。
Standoff(膠着状態)のリスクは、2月1日のニュースブリーフィングでパウエルFRB議長が「議会は債務上限を引き上げる必要がある」と強調したことでもわかる。
パウエル議長は記者団に対し、「FRBが然るべき時に行動できなかった場合、その影響から経済を守れるとは誰も思わないはずだ」と述べた。「ここで進むべき道は一つしかない。それは議会が債務上限を引き上げることだ。その道から外れることは非常に危険だ」と述べた。
しかし、民主党には明るい材料もある。歴史を見れば、共和党が主導する民主党大統領との歳出争いは、民主党に有利に働く可能性がある。
クリントン氏もオバマ氏も債務上限問題で逆転し、その後再選を果たした。民主党のブレンダン・ボイル議員は、「共和党は歴史から学ぶだろうと思うけど。毎回世論に負けて、次の民主党の勝利のお膳立てをしてきたのだ」と指摘している。