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人種差別やジェンダーなど関連本の禁書運動、自由の国アメリカで深刻化 一体何が?

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米テキサス州の自宅で読書をする8歳のキーガンちゃん。お気に入りは「プリンス+ドレスメーカー」という本で、両親は、彼の読書リストにLGBTQの児童文学も加えているという
米テキサス州の自宅で読書をする8歳のキーガンちゃん。お気に入りは「プリンス+ドレスメーカー」という本で、両親は、彼の読書リストにLGBTQの児童文学も加えているという=2019年4月撮影、ロイター

書籍禁止の試みは加速しているし、分断が強くなっている
Attempts to Ban Books Are Accelerating and Becoming More Divisive
2022年9月26日付 ニューヨーク・タイムズ

書籍を禁止する動きはアメリカでは新しいことではない。しかし、人種差別、セクシュアリティ、ジェンダーアイデンティティを中心とした書籍が公立学校や図書館文化的な争いの激化で危険にさらされ、新たに注目されるようになっている。

昨年のchallenged books(問題視された図書)の増加、検閲に関する戦略の拡大、教師や図書館員への組織的な嫌がらせによって、禁書運動は頻繁にニュースの見出しを飾るようになった。

書籍が問題とされる理由は、歴史を振り返ってみてもさまざまである。

1999年以前は、profanity(冒涜的な言葉)や暴力が子供には不適切だとされ、多くの異議申し立てが行われた。2000年から2009年にかけては、ハリー・ポッターシリーズが魔法やwizardry(魔術)を題材にしているため、頻繁に異議申し立てが行われた。

現在、最も頻繁に異議申し立てが行われる本には、ある共通のテーマがある。

  • LGBTQの話題や登場人物に関係する
  • 性、中絶、10代の妊娠や思春期に関係する
  • 人種や人種差別に関係する、または有色人種をprotagonists(主人公)としている
  • 歴史、特に黒人の歴史に関係する

こうした書籍を学校や図書館から排除したい人は、「読者は読めなくなった本は購入すればよい」と主張しているが、それは経済的に余裕のある人にしか当てはまらない。

多くの人々、特に子どもや若者にとって、学校や公共の図書館は文学に簡単に触れることができる唯一の手段である。

禁書運動を主導しているのは約50の団体で、約300の地域支部がある。これらの団体は、教育委員会の会議に出席し、同じ本に異議を唱え、同じ苦情を伝えることによって、ますます禁書運動に拍車をかけている。

ウェブサイトも立ち上げられ、問題があるとされる本のリストが州を越えて共有されている。

アメリカ図書館協会の新しい報告書によると、このような活動家に後押しされ、本を禁止しようとする動きは、20年以上前に追跡が始まって以来、全米でかつてないほどの勢いで加速しているそうだ。

9月にあった禁止図書週間(問題視された本を読み、言論の自由について考える期間 )を記念して、米国図書館協会は検閲の回数が増加していることを示す報告書を発表した。2022年には、1,651冊の本の利用を制限する試みが行われたという。

教育者、図書館員、言論の自由の擁護者によれば、このような試みは長い間、教育委員会の会議のstaple(定番)だったが、その頻度と、背後にある戦略と展開される場も変わったという。

禁書運動はこの2年間で急速に数を増やし、より組織的で過激になり、地域社会を分裂させ、学校や図書館の理事会に激しいrifts(亀裂)をもたらし、ソーシャルメディアや政治運動を通じて国中に広がっているのである。

公共の図書館は、本の撤去を拒否したために、政治家や地域住民からの資金提供を失うと脅されている。また、図書館員もターゲットになりつつある。

例えば、ルイジアナ州リビングストンの中学生司書であるアマンダ・ジョーンズは、地元の図書館の理事会で撤去に反対する意見を述べたところ、ネットでpervert(変態)などと呼ばれるような嫌がらせの標的となった。

図書館員や教育者を刑事告発しようとする動きもあったが、ほとんど頓挫している。フロリダ州やワイオミング州などの警察当局は、犯罪捜査をするための根拠を見いだせなかった。また、裁判所は基本的に、図書館は本を排除すべきではないという立場をとっている。

しかしある図書館員によれば、告発に対して反論をしなければならないという恐れがあるだけで、多くの教育関係者はそもそも本を置かないという判断をしてしまうそうだ。告発という事実があるだけで十分なのだ。

米国図書館協会の知的自由事務局の事務局長デボラ・コールドウェル=ストーンは、「これは間違いなくchilling effect(冷や水を浴びせる)ことになるだろう」と述べた。

擁護団体「PENアメリカ」で表現の自由と教育の責任者を務めるジョナサン・フリードマンは、「その規模、論争が行われている学区や州の多さ、一度にリストアップされている本全体を削除しようとする組織集団の増加という観点において、前例のない事態だ」と言う。

特に保守的なグループは、ソーシャルメディアに後押しされ、州議会、法執行機関、政治家選挙に課題を突きつけている。

禁止しようとしている本のほとんどは、何らかの形で法と関連づけられようとしているか、あるいは選挙で選ばれた議員がrouse the rabble(民衆を奮い立たせ)ようとしているのだ。

この動きが最も盛んな州は、テキサス、フロリダ、ペンシルバニア、カンザス、ユタ、ジョージアなどである。つまり、本を禁止しようとする努力は、子どものためというより政治的な駆け引きのために行われているように見える。

これは、アメリカの教育における文化的価値観をめぐる戦いの高まりの一部であり、生徒の教育方法や学校での権利を変更することを意図した新しい州法は、国のほぼ半分で施行されるに至っている。

ワシントン・ポストの分析で、過去3年間で、45州の立法者が283の法律を提案したことが明らかになった。

その内容は、人種、人種差別、アメリカの歴史について教師が言えることを制限しようとするもの、性自認、セクシュアリティ、LGBTQ問題について教える方法を変えようとするもの、子どもの教育に対する親の権利を高めようとするもの、学校の図書館や本に対する生徒の利用を制限するもの、トランスジェンダー生徒の権利をcircumscribe(制限する)もの、立法者が「愛国心」教育として定めたものを推進しようとするものなどであった。

これらのうち、64の法案が25の州で署名され、その人口を合わせると全アメリカ人のおよそ42パーセントになる。

ハーバード大学の講師で教育学を研究しているホウマン・ハロウ二は、文化的・社会的な問題をめぐる教育法の乱立は前代未聞だと言う。

このことは、アメリカの両政党が文化的な争いを加速させ、教育論を通して有権者に自分たちの価値観を示そうとしていることの表れだ、と彼は言う。共和党がこの法案を提案し可決する一方で、民主党は声高に反対している。

右派系機関であるアメリカン・エンタープライズ研究所の上級研究員ロバート・ポンディシオは、「だから今、一部の保守派には、このような法案を推進すれば実際にswing voters(政治的に中道の浮動票)をwin over(味方に引き入れる)という感覚がある」と話す。「公教育を攻撃することは選挙に勝つ」という感覚だそうだ。

本の撤去を要求する人々は、これは親の権利と選択の問題であり、すべての親は自分の子どものupbringing(養育)に関して自由に指示できるべきだと主張する。

一方で、これらの本を全面的に禁止することは、他の親の権利や、これらの本を読むことが重要であると考えている子どもたちの権利をviolates(侵害する)、という人もいる。

フラグラー・パームコースト高校に通う17歳のジャック・ペトックスは、LGBTのキャラクターや人種差別に関する本を排除することは差別であり、すでに自分が少数派であると感じ、自分の経験がほとんど文学で表現されていないと感じている学生にとって有害であると述べた。

最も問題となるのは、たとえ学校や教室の図書館で入手したものであっても、生徒がon their own accord(自分の意志で)読んでいる本である。

禁書令は、教師が授業のために「読まなければならない」と指示した本ではなく、アメリカの若者が読みたがっている本も対象にしているのだ。このように、禁書運動は生徒の知的好奇心を失わせる危険性が懸念される。

 参照した記事一覧

文化戦争から生まれた法律の爆発的な普及が学校を変えている。その影響を紹介します
An explosion of culture-war laws is changing schools. Here’s how.
2022年10月18日付 ワシントン・ポスト

本を禁止する前に考慮すべき10のポイント
Ten points to consider before banning a book
2022年9月28日付 ミネアポリス・スター・トリビューン

書籍禁止の試みは加速しているし、分断が強くなっている
Attempts to Ban Books Are Accelerating and Becoming More Divisive
2022年9月26日付 ニューヨーク・タイムズ

図書禁止派が帰ってきた。抵抗せよ
The book-banning croud is back. Resist them.
2022年9月21日付 ワシントン・ポスト

今日の出版禁止令は、過去のものより危険かもしれない
Today’s book bans might be more dangerous than those from the past
2022年9月12日付 ワシントン・ポスト

図書の発禁が増加しています。最も禁止されている本とその理由とは?
Book bans are on the rise. What are the most banned books and why?
2022年6月29日付 USA・トゥディ

図書禁止令の増加の解説
The rise in book bans, explained
2022年6月9日付 ワシントン・ポスト

全米に広がる図書禁止運動
Book Ban Efforts Spread Across the U.S.
2022年1月30日付 ニューヨーク・タイムズ