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変革を迫られる性教育「先進国」スウェーデンで教師が抱える困難 求められる支援とは

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シェレンゲン基礎学校での地理の授業。この日は同性婚に関する内容だった
シェレンゲン基礎学校での地理の授業。この日は同性婚に関する内容だった=2024年3月12日、スウェーデン、島崎周撮影

ストックホルム大学での教職課程をとっている学生向けの「学校における社会的関係」の授業。この日は、セクシュアリティーや同意などをテーマにディスカッションがあった
ストックホルム大学での教職課程をとっている学生向けの「学校における社会的関係」の授業。この日は、セクシュアリティーや同意などをテーマにディスカッションがあった=2024年3月11日、スウェーデン、島崎周撮影

教師の卵にも性の知識や考える力を義務化

3月中旬、ストックホルム大学で教職課程の学生たちが受けていた授業は「学校における社会的関係」。この日のテーマは「セクシュアリティー、同意、人間関係」だった。

13、14歳の7年生を想定した授業を学生たちが考え、発表する。そこで、二つのシナリオが提示された。一つはパートナーから裸の写真が送られ、パートナーから何のコメントもない場合に、写真を保存していいのか。もう一つは、パーティーで年上の友人からアルコールを調達するように言われたが、ある人が「自分とセックスをするなら代わりにアルコールを買ってくるよ」と言ってきた際、どうするかだ。

学生たちはグループに分かれ、7年生になったつもりで、また7年生ならどんな議論になるかも予想し、話し合う。「許可なく画像を保存することは、法律に違反する犯罪」「人間関係をめぐるプレッシャーがかかっている」といった意見がでた。

スウェーデンでは2021年に、初等教育等教育などの学位を取得する学生たちに対し、「アイデンティティー、セクシュアリティー、人間関係に関する問題についてコミュニケーションをとり、考察する能力を示す」ことを義務づけた。

講師のダニエル・フランツェンさん(42)は、子どもたちが年齢によってどんなことを考えるのか想像し、生徒が安心して話せる環境づくりをすることが重要だという。教員を目指す学生たちが、セクシュアリティーや人間関係に関する問題に対応する能力を養うことについて、「すべての学校段階を通じて、子どもたちが日々向き合っている『人間関係』を中心においた教育が重視されるようになったことは肯定的にとらえている」と話す。

教育現場で浮き彫りになった課題

子どもたちが学校で性教育を学ぶことが義務化されたのは、1955年のことだ。画期的な出来事だったが、スウェーデン性教育協会のハンス・オルソンさん(61)は、1950年代の性教育について「非常に規範的なものだった」と指摘する。「大人になる前に性的関係をもつべきではない」「性交をする前に結婚をした方がいい」と教えるよう示されていたが、教師や生徒らから「実際の生活と一致していない」と、当時から批判が出ていたという。批判を受け、義務化から約10年後には見直しが進められ、1970年代には、ジェンダーにおける差別をなくすことも性教育の重要な役割となった。

スウェーデンの性教育協会のハンス・オルソンさん
スウェーデンの性教育協会のハンス・オルソンさん=2024年3月14日、スウェーデン、島崎周撮影

2018年には、学校監察庁が450校を対象にした性教育に関するアンケートを公表。4分の3の学校で性教育をする教師をサポートできておらず、「多くの教師は性を教えるのは難しいと感じ、サポートとツールを必要としている」と指摘している。同じ年には、いわゆる「同意法」が施行された。相手が同意する意思表示がない場合は性交を望んでいないと判断し、その後も性交を続ければレイプとみなされることになった。

こうしたことから2022年には、小中学校のカリキュラムの改訂で、「学校は生徒がセクシュアリティー、同意、人間関係に関わる話題について繰り返し議論することを保障する責任がある」と明記。学校間の格差をなくし、どの学校でも質の高い性教育が受けられるようにする狙いがある。学校では様々な科目で性について教えているが、方法や程度は現場に委ねられているのが現状だ。

「社会の変化に合わせることが大切」

3月中旬のある日、シェレンゲン基礎学校(小中学校)の9年生の地理の授業では、教師のセシリア・クラングさん(53)が同性愛をテーマにあげた。スウェーデンで同性婚が認められた経緯を説明した上で、同性愛を禁止する69の国を示し、「なぜこれらの国では禁止されているのか」と問うた。生徒からは「イスラム教徒が多い国である」「貧困で経済格差が大きい国が多い」などの意見が出た。

クラングさんが「なぜ性的アイデンティティーの権利は、社会の持続可能性を達成するために重要なのか」と問いかけると、ある生徒はこう答えた。「自分の国で安心して生きることができ、なりたい自分になることが許されるべきだからだ」

同校の生物教師のサンドラ・カールソンさん(26)は、14、15歳の生徒に対しての生物の授業で、ペニスの模型を生徒に配って、コンドームのつけ方を教えたり、性的マイノリティーや中絶について議論する機会を与えたりしている。一方で「自分が当事者ではない性的マイノリティーをどう教えるのかは難しい。教師同士の情報共有が欠かせない」と話す。

マルメ大学で性科学を研究するシャルロッタ・ローフグレーンさん
マルメ大学で性科学を研究するシャルロッタ・ローフグレーン教授=2024年3月15日、スウェーデン、島崎周撮影

性科学が専門でマルメ大学のシャルロッタ・ローフグレーン教授(62)は、性教育が義務化されている長い伝統に対して、「国民は何の疑問も抱いておらず、性教育が科学的知識に基づいていることに大きな信頼を寄せている」と言う。

一方で、スウェーデンが、複数の規範が共存し、互いに矛盾する多文化社会へと変化してきたこと、そしてジェンダーとセクシュアリティーに関するステレオタイプな描写があるポルノをネットで簡単に得られるようになった現状を指摘する。そして、こう話す。「スウェーデンの性教育は、今でも世界で最も進んでいると思うが、だからといってベストだという保証はない。常に大切なことは、性教育を社会の変化に合わせていくことだから」