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子供番組で全裸を見せるデンマーク流教育「ありのままを見せるのが私たちの方法」

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
Participants prepare to disrobe for “Ultra Strips Down,
デンマークの子ども向けテレビ番組「ウルトラ・ストリップス・ダウン」で、バスローブを脱ぐ準備をする出演者たち=2020年6月23日、Betina Garcia/©2020 The New York Times

「さあ、みんな、誰か質問はないかい?」。テレビ番組のホスト、ヤニック・スコウ(29)が聞いた。11歳から13歳の観客のうち、ほんの数人しか手が挙がらない。「覚えておいてほしいんだけど、何も間違ったことをしているわけじゃあないよ」と彼は言い、「良くない質問なんてないんだ」と続けた。

子どもたちの思いがどこか別のところにあったとしても、それを責めることはできない。デンマークの首都コペンハーゲンの暖房が効いたスタジオで、子どもたちの前にあるステージにバスローブにくるまった5人の大人が立っている。彼らの顔つきが真剣になり、短い沈黙があった。子どもたちは、数日前から学校でそのことについて話し合っていたので、次に何が起きるのかがわかっていた。スコウがちょっとうなずくと、大人たちはローブを脱ぎ捨てた。

子どもたちに向かい、そしてカメラに向かって、大人たちは手と腕を背中の後ろで組み、彫像のように全裸で立つ。

このようにして、デンマークの子ども向け番組「Ultra Strips Down(ウルトラ・ストリップス・ダウン)」の最新シリーズの収録が始まった。同番組は受賞歴がある。全国放送局DR(訳注=公共放送局「デンマーク放送協会」の略称)のオンデマンド子ども向けチャンネルUltraで放映されている。この日のトピックは肌と髪。

この番組のプロデューサーは、身体についての恥ずかしさに立ち向かい、身体を肯定的にとらえるよう促す教育ツールとしての意図を込めたプログラムだと言っている。コペンハーゲンにあるオレスタッド学校の子どもたちは、最初はためらいながら、その後は熱心に、大人たちに質問をぶつけた。たとえば、こんな質問だ。「何歳で下半身に毛が生えてきましたか?」「タトゥーを消すことを考えていますか?」「プライベートパート(陰部)に満足していますか?」

大人の一人、マーティンは自分のプライベートパートについて「否定的な考え」を持ったことは一度もないと答えた。同じくマーティンという名前の別の大人は、若いころ、サイズについて悩んだことがあると認めた。「でも、私自身との関係は時が経つとともに変化した」と彼は話した。子どもたちは、真剣な顔つきでうなずく。

このプログラムは現在第2シリーズに入っており、おそらくデンマーク人以外はショックを受けるかもしれないが、この国では非常に人気がある。ところが最近、右翼のデンマーク国民党の主要メンバーであるピーター・スコーロップは「ウルトラ・ストリップス・ダウン」は「我が子どもたちを堕落させる」と指摘した。

男性や女性の性器から(身体教育を)始めるのは「子どもたちには早すぎる」と彼はデンマークのタブロイド紙「B.T.」に語った。彼が言うには、その年齢だと、「それでなくても子どもたちは多くのことで頭がいっぱいなのだから」。

彼は「子どもたちは適切な時期にそれを学ぶ必要がある」としたうえで、「子ども向けチャンネルで流しているような下品な方法で配信されないよう、こうした情報は親か学校が提供すべきだ」と語った。

とはいえ、おおむね、デンマーク人は長い間ヌードになじんできた。たとえば、公共のビーチなどで。

スコウは、あるプロデューサーが着想を得てから番組のコンセプトづくりを手伝ったのだが、彼は完璧な――非現実的な――肉体を持つ若者たちの画像が連日SNSに炸裂する状況に対抗することも大切だと言うのだ。(出演者の)大人たちは俳優ではなく、ボランティアである。

「たぶん、一部の人は『オーマイゴッド(何てことだ)、裸と子どもたちを組み合わせて番組を作っている』と思うのだろう」とスコウ。「でも、セックスとは何の関係もない。子どもたちがしているように、身体を自然なものとして見ることについてのプログラムなのだ」

多くのデンマーク人は、子どもたちには、たとえケガを負うとしても、監視されずに遊んだり探索したりする時間をたくさん与え、人生の現実から遠ざけるべきではないと信じている。

「私たちは傷つくことの大切さを理解している」とソフィー・ミュンスターは言う。全国的に認められた「北欧の子育て」の専門家だ。「デンマークの親は、一般的に子どもたちを保護するよりも現実にさらすことの方を好む」

デンマーク人がこの考え方をどこまで取り入れているかを示す有名な事例の一つに、コペンハーゲン動物園で2014年に行ったキリンの安楽死と解剖がある。子どもたちはそれを最前列で観察した。

(キリンの死骸を)ライオンにエサとして与えたことを、海外では多くの人が悪夢のような光景と受けとめたが、デンマークでは人びとは肩をすくめた。その日、観察していた子どもたちは「とても良い質問」をしたと、ある動物園の担当者はCNNに語った。

「一方には過大な注意を好む人がいるかもしれないが、私たちは過小な注意の方を好む」とミュンスター。「自由であること、そして自分自身をみつけることが大事なのだ」。仮に子どもが木から落ちて腕を折ったとしたら、それは「理想的」なことではないかもしれないが、もっと大きな目的にかなうと彼女は付け加えた。

裸の大人が目玉の子ども向け番組は、デンマーク流の極端なやり方かもしれないことを彼女は認める。だが、身体の問題に関する子どもたちの不安を和らげるデンマークの方式は、裸の身体に「子どもたちをさらすこと」なのである。

「これが子どもたちを教育する私たちの方法だ」と彼女は言い、「彼らにありのままの現実を見せる」と続けた。

肌と髪のプログラムになぜ出演したかを尋ねられ、大人たちの一人、ウル(76)が答えた。彼女は、完璧な身体はまれであり、ソーシャルメディアで見ている身体はしばしば誤解を招くということを子どもたちに示したかったと話した。

「ファイスブックやインスタグラムでは、多くの人がファッションモデルなのだ」と彼女は言う。「ここにいる私たちは普通の体つきをしている。これが当たり前の身体だということをみなさんは理解してほしい」。彼女は自身の裸を指さしながら視聴者に話しかけた。

不完全なことへの恥ずかしさは、ソーシャルメディアに起因する。スコウはそう言う。

「ソーシャルメディアで目にする身体の90%は完璧だが、世界の90%はそうではない」と彼は指摘する。「余分な脂肪や毛髪やニキビがある。それでいいのだということを、子どもたちに早い時期から示したい」

録画された番組のシリーズは、YouTubeの検閲済みクリップで見ることができるようになっており、白人、黒人、太った人、やせた人、背の高い人、低い人、老いも若きもさまざまなタイプの大人が出演する。ジョンは小人症だし、ハゲ頭に小さな角を埋め込んだ男性のマフもいる。

すべてを包み込むこと。それが、この番組の重要な目的の一つだ。精管切除とテストステロン治療を受けて、they/them(訳注=LGBTを対象に使う時は、単数の彼や彼女も指す)として識別されるレイが子どもたちに紹介されたのもそのためである。

「私は男の子でも女の子でもない。何でも少しずつ一通りある」。レイは、タトゥーで覆った胸と剃髪した頭を示しながら、そう話す。「私はいま、ヒゲを7本生やしている」

子どもたちは、レイが「学校でヘンだと感じたか」とか、どっちのトイレを使うのか、ビーチではどんな水着を選んだのかといったことを知りたがった。

番組収録の後、3人の子どもがテレビ局の外の芝生に足を組んで座り、体験を話し合った。初めは、番組の構想をクスクスと笑っていたけど、何らかの有益なことを学んだと彼らは語った。

「おかしかった」とセオドア・ナイトレイ(11)は言う。「大人の人たちからの僕たちへのアドバイスがよかった」

イダ・エンゲルハルト・グンダーセン(13)は、最初は緊張したと述べた。「私は、ボランティアが素っ裸でいるのを見ることや、彼らに質問することに慣れていない」と彼女は言い、「だけど、私たちは身体のことや、他の人が自分の身体についてどう感じているのかを学んだ」と話した。

ソーニャ・チャクラバルシー・ゲックラー(11)は何を期待すべきかわからなかったと言う。だが、彼女は「いまは自分の身体について、もっと自信を持てるように感じている」と話していた。(抄訳)

(Thomas Erdbrink、Martin Selsoe Sorensen)©2020 The New York Times

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