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コンドーム伝道師の元教諭、高校生に1万個配布へ「教えずに社会に出す?どんだけ過激やねん」

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大津市内の高校で生徒らにコンドームの付け方を教える清水美春さん=2019年、大津市、ハフポスト日本版提供
大津市内の高校で生徒らにコンドームの付け方を教える清水美春さん=2019年、大津市、ハフポスト日本版提供

清水さんが配布を計画しているコンドームは「びわこんどーむ」と名付けたオリジナル品。滋賀の名所、琵琶湖にちなんでおり、パッケージには湖に生息するビワコオオナマズをモチーフにしたキャラクターを印刷する。

びわこんどーむのパッケージデザイン=清水さん提供
びわこんどーむのパッケージデザイン=清水さん提供

清水さんは教諭時代にこのキャラクターを発案。講演会などで長年使ってきた。

高校生たちには、活動に賛同する高校教諭らを通じて届ける予定。活動費をまかなうため、クラウドファンディングも活用する。

清水さんが性教育、とりわけコンドームに熱心なのは青年海外協力隊として派遣されたケニアでの経験があるからだ。

ケニアの子どもたちにコンドームの大切さなどを訴える清水さん(左)
ケニアの子どもたちにコンドームの大切さなどを訴える清水さん(左)

2002年に高校の保健体育教諭になり、性教育の授業にたびたび取り組んできた。そうするうち、自分でも性感染症について知識を深めたいと思うようになり、HIV陽性者が多いケニアで活動できる青年海外協力隊に応募した。2010年のことだ。

滞在したのは首都ナイロビから約80キロ離れた「宿場町」ナイバシャ。ここにある「HIV感染者ケアセンター」で活動を支援した。

ナイバシャはナイロビを目指す長距離トラック運転手が一夜を過ごす場所だ。彼らを相手にする売春業が盛んだった。

コンドームを正しく使えば、HIV感染をはじめ、性感染症の予防には一定の効果がある。だが、売春婦らはコンドームを使わないことが多かった。

清水さんはケアセンターを訪れた女性たちにコンドームを使うよう訴えたが、「コンドームを使ったら客が減ってしまう。仕事を奪う気か」「コンドーム1個買うお金で1週間食べていける」と聞いてもらえなかった。

清水さんによると、当時の売春相場は1回あたり日本円で50円から5000円。それに対し、コンドームは1個50円だったという。

だが、清水さんはあきらめなかった。学校を回ってコンドームの大切さを伝える活動を始めた。コンドームがより身近になるよう、ゆるキャラ「コンドマスター」も考案、着ぐるみにした。

コンドマスターのゆるキャラを取り囲むケニアの子どもたち=清水美春さん提供
コンドマスターのゆるキャラを取り囲むケニアの子どもたち=清水美春さん提供

2年間のケニア滞在を終えて帰国したのは2012年3月。高校教諭に復帰し、ケニアでの経験を生かして滋賀県内でも同じような活動を始めた。

中学と高校などで性教育の「出前」講演を開き、ケニアの実体験を交えながら性感染症予防の大切さを説いた。ペニスの模型を使い、コンドームの装着方法も実演した。コンドマスターをヒントに「びわこんどーむ」も思いついた。

清水さんの講演を受けた子どもたちは約10年で計約1万人にのぼる。だが、清水さんがつくづく感じたのは「子どもたちはコンドームすら知らない」ということだったという。

「子どもたちの性に関する知識は偏っています。ネットやアダルトビデオで非現実的な『テクニック』の知識は増える一方、コンドームについては使い方はおろか、どこに売ってるかも知らない。コンドームを単に避妊の道具だと思っている子が多く、自分を性感染症から防ぐものだとわかっている子は少ないです。『コンドームを見たこともない』という日本の性教育の現状をそろそろ断ち切りたいなと思ったんです」

清水さんはこの春、教諭を辞めて立命館大大学院(京都市)で性における女性の自己決定力やセクシャルプレジャー(性的快楽)について研究するという。

「コンドームは単なる衛生用品です。私としてはそろそろ、その先の話をしていきたい。それはパートナーとの関係だったり、そもそも性的快楽とは何なのかということであったり。人類のウェルビーイングにつながる研究をしていきたいと思います」