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広がる「自由な学び方」、学校序列化への一歩? 米国の模索

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数学の授業で、解答を先生に見せるヘロン高校の生徒。夏季講習の授業料も無料だ=米・インディアナポリス、藤原学思撮影

6月下旬、インディアナ州インディアナポリス中心部からすぐのヘロン高校の前に、数十台の車が列をなした。11年生(高校2年生)のダニエラ・マイルズ(17)は午前5時45分に起きてバスを乗り継ぎ、1時間半かけて夏季講習に来た。「4000人も生徒がいて、クラスの人数も、教師ひとりあたりの生徒の数も多すぎる」という地元高から転校してまで選んだ学校だ。授業をのぞくと、日本の半分ほどの大きさの教室で、21人が午前8時から午後2時まで、みっちりと経済学を学んでいた。

インディアナポリス中心部近くにあるチャータースクールのヘロン高校。6月下旬、夏季講習を受ける生徒たちが登校してきた=藤原学思撮影

ダニエラは大学では人類学を学ぶつもりで、来年には台湾への短期留学も決めている。「前の学校じゃ考えられなかった」と母のニシェル(50)はいう。アメリカでは高校も義務教育。民間が運営していても「公立」のため、授業料が無償なのも魅力だ。4分の3は州税、残りは寄付でまかなわれている。

インディアナポリス中心部近くにあるチャータースクールのヘロン高校=藤原学思撮影

学校の売りのひとつが、学業成績だ。全生徒860人のうち99%が卒業し、大学に進んだり軍に入ったりする。

「よく生徒を選んでいると誤解されるが、違う。誰でも入学できます」と校長のジャネット・マクニール。06年の開校時は生徒数は98人だったが、ラテン語を必修科目とするなど独自のカリキュラムを組んだ結果、進学率が上がって希望者が殺到。17年に姉妹高を開設し、さらに小中学校も開く予定だ。

インディアナポリス中心部近くにあるチャータースクールのヘロン高校校長のジャネット・マクニール=藤原学思撮影

「チャータースクールの需要が高いのは、生徒に多様な学びの機会を提供しているからだ」。学校選択制の推進団体で理事長を務めていたジェラルド・ロビンソンは話す。「理系に特化したり、学区を取り払ったり。伝統的な公立校で教えていた教員も裁量の広さに魅力を感じ、チャータースクールで教えることを選んでいる」

インディアナポリス中心部近くにあるチャータースクールのヘロン高校で体育の授業を受ける子どもたち=藤原学思撮影

ヘロン高で働いて6年目になる歴史教師、ミシェル・ハディックス(30)も、その一人。「クラスが小さいから目配りできるし、何を教えるかの自主性も重んじられる」。年度末には生徒一人ひとりに論文を書かせているが、これも規定のカリキュラムが重視された前の学校で、やりたくてもできなかったことだ。「もっとできる、もっとできる、と生徒の背中を押してあげたい。そのために学校のサポートは欠かせない」

インディアナポリス中心部近くにあるチャータースクールのヘロン高校。6月下旬の夏季講習で生徒たちが経済学の授業を受けていた=藤原学思撮影

■見えてきた学校格差

拡大し続けるチャータースクールは、一部で従来の公立学校を押しのけるまでになり、影の部分も目立ってきた。

「うちの学校のランチは午前9時半にしてくれ、と他の学校から言われているんだ」。ニューヨーク・マンハッタン島のウェスト・ハーレムに立つ市立小学校「PS125」で15年に保護者会役員をしていた鈴木大裕(45)は、校長の言葉に耳を疑った。

日本では中学教師だった鈴木は、米国の教育改革を研究するため家族で渡米。あえて「学校を選ばないこと」を選び、黒人やヒスパニックの貧困層の家庭が大半を占めるこの学校に、2人の娘を通わせていた。

「PS125」は学校選択制のあおりで児童数が減り、新しく設立された著名なチャータースクールや名門コロンビア大学の付属高と、同じ建物内での同居を余儀なくされていた。市からの予算も削られ、保護者からの寄付金も乏しい。

共同で使う音楽室や体育館は、同居する有力2校に占領される。他校のジャズバンドの音が聞こえるなかで勉強し、教室内で身体を動かす。そして今度は食堂から押し出されて「朝のランチ?」。

保護者たちが一致団結するきっかけになり、さすがにこれは是正はされた。だが、いま高知県土佐町議として教育問題に取り組む鈴木はいう。「チョイスの名のもとで序列化が進めば、公教育は根底から崩れる」

アメリカでの経験から日本の教育のあり方に警鐘を鳴らす鈴木大裕。現在町議をつとめる高知県土佐町で=市川美亜子撮影

校長のレジナルド・ヒギンズも、11年の就任当時から悩み続けていた。「勉強、勉強といわれる子どもは楽しそうじゃない。教師たちもうんざりしている。親もそんな学校の様子に不安になる」

ヒギンズは大胆な方向転換を決めた。「何を教えるべきか」「何を教わるべきか」。保護者らと話し合い、ダンスや音楽、演劇の授業を充実させた。「なぜモノをリサイクルするのか」「じぶんたちが食べるものはどこからくるのか」。そんな、考えさせる授業を展開した。

いまやPS125の児童数は就任時の2倍になり、さらに200人が入学を待つ。ヒギンズは言う。「授業時間が長く、学力を伸ばすことに力を入れるチャータースクールと競合なんてとてもできない。だが、子どもが興味を持たないことをさせて、児童の好奇心を殺したくはない」

民間団体「公教育ネットワーク」は、公金の詐取や私的流用など、全米のチャータースクールの不祥事を頻繁に更新している。

カリフォルニア州立大学サクラメント校の教授(教育学)ジュリアン・ヘイリグは「ほとんどの州でチャータースクールは公立校よりも財政的な報告義務が緩い」。と指摘。「説明責任を負う公立校というよりは、民間が運営する市場原理に基づく学校になってしまっている」と指摘する。「革新的、ユニークであろうと始まったはずなのに、生徒の獲得に躍起になった結果、(世界最大のスーパーマーケット)ウォルマート化が進んだ」。(藤原学思、市川美亜子)