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オランダの子ども向け書店から見る家庭内の性教育「リビングにそっと置いておく親も」 

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子ども向けの本屋の「カスぺーレ」では、性に関する絵本や本が並べられたコーナーがあり、親子が買い求めに来るという
子ども向けの本屋の「カスぺーレ」では、性に関する絵本や本が並べられたコーナーがあり、親子が買い求めに来るという=2024年3月5日、オランダ・アムステルダム、島崎周撮影

小学校から性教育が義務化されているオランダでは、学校だけでなく、家庭内での性教育も盛んだという。親が子どもに教える一つのきっかけになっているのが本だ。本がなぜ今も選ばれるのか。首都アムステルダムにある子ども向けの本屋を訪ねた。

子ども向け書店に性にまつわる本のコーナー

子ども向けの本屋の「カスぺーレ」。店内には0歳から15歳までを対象にしたカラフルな絵本がたくさん。出入り口に近い場所に、「性」に関する本が20冊ほどまとまって置いてあった。

オーナーのカレイン・コーヘンさん(47)が、人気がある本をいくつか見せてくれた。

「カスぺーレ子ども本屋」のオーナーのカレイン・コーヘンさん。特に人気がある本を持ってもらった
「カスぺーレ子ども本屋」のオーナーのカレイン・コーヘンさん。特に人気がある本を持ってもらった=2024年3月5日、オランダ・アムステルダム、島崎周撮影

「イエスとノーの気持ち」(Clavis Publishing)と題され、3歳以上の子どもを対象にした絵本では、子どもたち同士のコミュニケーションの中で、どんなことをしたときに気分がよくなるか、どんなことをされたときに嫌だと思うのかなどが描かれている。

比較的新しい本では、「セックスはおかしいことじゃない」という本もある。性器にふさわしいキャッチーな名前や、さまざまな動物の性器や性生活について紹介することで、子どもたちが自分の体や性的な発見について、恥ずかしがらずにオープンに話せるようにさせる狙いがあるという。コーヘンさんは「まるで詩のように読めて、イラストも楽しくて芸術的」と評する。

中でも最も人気なのは、公共放送が制作した性教育の番組「ドクター・コリー・ショー」をもとにつくられた本だという。この番組は、「ドクター・コリー」という女性医師に扮した俳優が、「キス」「裸」「マスターベーション」など、思春期の子どもたちが気になるテーマについてユーモアを交えながら語るものだ。

あるページを開くと、紙でつくられた男性器と女性器が飛び出し絵本のように出てくるしかけも施されている。ある学校の先生は、何回もこの本を本屋に買いに来たという。子どもたちがその本に興味津々で、何度買っても本が紛失し、教室に一冊買うことになったという。

公共放送の性教育番組「ドクタ・ーコリー・ショー」をもとにした本。男性器について説明するページ=ⓒDe Harmonie 、無断複写・複製・転載を禁ず

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リビングの本が、性について親子でかたるきっかけに

本を買い求めにくるのは、10~12歳の子どもをもつ親が多く、ほとんどが母親だという。「性教育のための本はありますか」と聞かれれば、「そこに置いてあるので、自由に取ってみてください」と声をかける。アムステルダムは比較的、性教育に対して積極的でオープンな親が多いというが、それでも個人差があるという。コーヘンさんは「どんな本をいつ子どもに見せるのかというのは、親それぞれの意見がある。しっくりくるものを選んでほしいから、それ以上のことは言わない」と話す。

一方で、本を買いに来る親の中には、性について子どもに話すことに抵抗感がある人もいる。「そんな親は、本をそっと家のリビングなどに置いておき、子どもが自由に読んだり、話すきっかけにしたりしている」とコーヘンさんは話す。コーヘンさん自身も11歳か12歳のころ、母親がそっと家に置いていてくれた本を読んで勉強した覚えがある。

コーヘンさんには2人の娘がいる。中学生の長女が通っていた小学校は性教育が充実しており、「自分が何か教えたり、本を買ったりする必要が全然なかった」という。一方、8歳の次女は、人形で遊んでいる時に「子どもをつくる」「赤ちゃん」などという話をしており、そろそろ性教育をした方がいいのではないか、その場合にどのように教えるかについて、まさに考えている最中だという。その一つに本という選択肢も考えている。

記者は本屋の取材に行く前、小学校の生徒やその保護者にも取材をしていたが、その中でも性教育において本のことが話題に上がっていた。

子ども向けの本屋の「カスぺーレ」。性に関する絵本や本が並べられたコーナーがあり、親子が買い求めに来るという
子ども向けの本屋の「カスぺーレ」。性に関する絵本や本が並べられたコーナーがあり、親子が買い求めに来るという=2024年3月5日、オランダ・アムステルダム、島崎周撮影

ブルメンダール市にある小学校に通うエマ・メイランドさん(12)は、10歳の誕生日を前に、母親から図書館に行って、思春期の身体の変化に関する本を読むように言われたという。母親は生理について学んで欲しかったようだった。メイランドさんが実際読んだ本には、生理の仕組みや対応の仕方が書いてあり、「まだ自分は生理になっていないけれど、いざなるとパニックになってしまうかもしれない。どういう風に対応すればいいのかがわかって、自分にとって必要な情報だった」と話す。

12歳の息子と10歳の娘を育てるキルステン・フンヌフェルトさん(39)は、「家庭内でタブーはなにもないけれど、親も話すには何かきっかけがあれば話しやすい」。自身も幼かったころ、母親から本を渡された記憶があるという。

現代ではSNSの普及によって、子どもたちが性に関する情報に触れる機会は増えている。コーヘンさんは、そんな中でも本が選ばれる理由について、「子供たちがどこでどんな情報を得ているか分からないからこそ、何が健康であることなのか、何がおかしいのかといったことを見極めるスキルが必要で、そのために本が信頼できるツールとして選ばれている」とする。

性にまつわる本に変化、LGBTQなど性の多様性に関する本も

この本屋はオープンして14年になるが、本を通じて「変化」も感じているという。一つは、性に関する本の種類が増えていることだ。特にLGBTQなど「性の多様性」に関しての本が多くなった印象を受けているという。また、#MeToo運動もあったことが影響しているのか、「子どもが幼いころから嫌だと思うことは嫌だと言えるように教育したい」という意見をもつ親が増えていると感じる。

コーヘンさんは性教育の目的や意義について、こう考えている。「子どもには、他の人に嫌なことをされた時にノーと言えるようになるだけでなく、相手がノーと言った時に、それもちゃんとリスペクトできる人になってほしい。そして、自分で性の悩みを抱え込まず、誰かに言えるようにすることも大切。それは全て自分らしくあるためだと思う。それこそ性教育の重要なテーマではないか」