1. HOME
  2. World Now
  3. 「私の身体は私のもの」女性の権利 どこまで進んだ?そして新たな呪縛とは

「私の身体は私のもの」女性の権利 どこまで進んだ?そして新たな呪縛とは

国際女性デー2023 更新日: 公開日:
ピンクの背景に、ピンクや赤の花と葉っぱが並び、女性の子宮や卵巣の形をつくっている。
Getty images

国内初の経口中絶薬承認へ 選択肢は広がる見込みだけど

SRHRのなかで大きな柱のひとつが「安全な中絶の権利」だ。だが、日本で行われている中絶法はこれまで手術しかなく、なかでもWHO(世界保健機関)から「安全でない」とされてきた、金属のスプーン状の器具で掻き出す「掻爬(そうは)法」を行う医療機関も多かった。

「いまはより安全な吸引法がずいぶん普及しましたが、それでも飲み薬の認可は今年やっとです」。そう話すのは産婦人科医の早乙女智子さんだ。

早乙女智子さん

より安全だと言われている飲み薬は、世界では2000年ごろから急速に普及した。日本でも今年に入り、厚生労働省の専門家部会が経口中絶薬の「メフィーゴパック」の薬事承認を了承した。これで近々、飲み薬という選択肢が増える見込みだ。

「でも実際に使うとなるとハードルが非常に高い」と早乙女さんは指摘する。

日本産婦人科医会は、中絶薬の発売から半年程度は入院可能な施設に限ることを求めていて、その場合、費用は外科手術と同等の10万円前後になるとされている。経口中絶薬はWHO(世界保健機関)の必須医薬品リストに入っていて、ガイドラインでは入院などは不要となっている。また日本ではレイプや暴行による妊娠でない場合、中絶には原則として配偶者の同意も必要と定められている。

早乙女さんらが代表理事を務め、医師や助産師らでつくる「性と健康を考える女性専門家の会」は、「手術より安価になるべき」として厚労省に要望書を提出した。

「実際に使われている国では入院はしていない。国際標準に合わせたガイドラインを」と早乙女さんは話す。

課題となっている医薬品に緊急避妊薬(アフターピル)もある。

早乙女さんは「緊急避妊薬は認可されているけれど、薬局では買えないのもおかしい」と指摘する。安全な薬として90カ国以上で処方箋なしで薬局で安く買うことができる。

「簡単にアクセスできるようになれば、乱用するかも知れない、転売するかもしれない、死んじゃうかもしれないという『心配』をされているけれど、それってほんとうに女性の健康を心配しているわけじゃない」と早乙女さん。

「なぜって女性の健康にはメンタルの健康も含まれるべきでしょう。医師の前で恥ずかしい思いをしたりつらい思いをせずに済むといった心の健康だって大事なはずなのに」

性教育へのバックラッシュ その後遺症

早乙女さんは「これまでずっと母体保護法を盾にして女性の権利はないものにされてきたんです。女性を子ども扱いしていて、『俺たち』が管理しなければ、という発想。一見進んだように見えても、女性のニーズを軽視してきたという本質は変わらない」と苛立ちを隠さない。

薬局販売が解禁されない理由として指摘されている「性教育の遅れ」に関しても、早乙女さんは悔しい思いをしてきた。

中学生を対象にした性教育教材で、2002年に絶版、回収された「思春期のためのラブ&ボディBOOK」。早乙女さんはこの制作に携わっていた。

早乙女さんが制作に携わった中学生向けの性教育教材「ラブ&ボディBOOK。初版と、回収された簡易版の表紙。早乙女さん提供。

この教材は性的同意の大切さや、痴漢は犯罪であること、男性も被害者になること、身近な相手から性被害を受けることもあることなど、当時としては画期的な内容を盛り込んでいたが、国会で保守系議員から「未成年にピルを勧めている」「行き過ぎたジェンダーフリー教育」などとバッシングされた。

回収の翌年には、東京都立七生養護学校(現東京都立七生特別支援学校)の性教育の授業内容が「異常」「不適切」であるとの非難を受けて教員が処分されるという「七生養護学校事件」が起きた。

「最近の旧統一教会のニュースで世間で知られるようになりましたが、当時のバックラッシュは、女性の権利を認めないという強固なイデオロギーに裏打ちされたものだった」と早乙女さんは振り返る。「そこから20年経ちましたが、全然進んでないんです」

タブーなくなった?「セルフケアの呪縛」に警鐘

根本的な女性の自己決定の権利の拡大が遅々として進まないなか、変わってきた意識もある。月経や更年期など、これまでタブーとされてきた女性の身体の悩みや健康についての話題がオープンに語られるようになってきた。

2021年には流行語大賞にもなった「フェムテック」を押し出す製品やサービスが話題になったのも後押ししている。

フェムテックは、吸水ショーツや月経カップなどの月経関連、月経周期管理アプリ、産後や更年期の悩みや女性のマスターベーション用のグッズまで、様々な年代の女性の悩みに対応した製品やサービスのことだ。

この風潮について産婦人科医の稲葉可奈子さんは「女性の悩みに対応した新しい商品が出てきて、それをきっかけにして女性の様々な悩みにフォーカスがあたるのは良いこと。それをきっかけに、女性も我慢しなくていい、もっと楽に過ごしていいんだ、と意識改革される、それ自体は良いことだと思います」」と話す。

稲葉可奈子さん(本人提供)

「でも、オープンに話すことができても、根本の悩みは解消しない。フェムテックを使ってすっかり楽になる悩みなら良いけれど、そうじゃない場合もある」とも。

「フェムテックって要するに自分で何とかしようということ。これが今度は女性たちの『セルフケアの呪縛』にならないか、心配です」

重い生理痛には子宮内膜症などの病気が隠れていることもある。深刻な病気でなくても、受診すれば症状を軽くするための薬を処方することができる。また子宮頸がん検診などは、元気なうちにこそ来て欲しいという。

「いままで女性たちはとにかく我慢していた。それが、セルフケアが注目を浴びることで、今度は『自分でなんとかしなきゃいけない』と。そうやって医療から遠ざかってしまうのは本末転倒だと思うんです」

そこには、産婦人科受診へのハードルがあると感じる。子宮筋腫がある人が「効果があると聞いたジュースを飲んでます」と、診察にしばらく来なかったこともある。「医療に頼ることは悪いこと、という意識があるのかも知れません」。加えて妊娠したときに行く、そんなイメージもあるのだろう。内診が恥ずかしいという人もいるが、「必要なときしかしません。学校で生理のことを教えるときに、何かつらい症状があったら産婦人科に相談する、とすり込んで欲しい」

風邪引くと薬を飲むように、体が辛ければ受診する。女性が自分の体と健康に向き合うには、それが当たり前になって欲しい。

早乙女さんも、「女性たちの相談に乗りながらいつも感じるのは女性の「罪悪感」なんですよね」と話す。

内面化されてしまった女性の「罪悪感」をなくすためにも、「もう女性の権利を『認めて』と言わずに、女性には権利が『ある』と言っていかないといけない」。そう力を込める。